「松江哲明セレクションオールナイト」

molmot2009-07-29

 現在ポレポレ東中野で大ヒット上映中の『あんにょん由美香』は、それを受けて8月1日より現在の20時30分の回に加えて、夕方18時15分の回も追加されるので、レイトショーなので観にいけないという方にも観てもらえるようになる。個人的には『愛のむきだし』と並んで今年の日本映画ベストと断言して差し支えない傑作と思っているので、これで更に多くの観客の目に触れてもらえたらと思っている。
 東京以外の上映も決まり始めたようで、公式サイトを参照してもらえれば名古屋、大阪、長野、神戸といった地域での上映が既に決定しているので近くに住んでいる方は是非駆けつけていただきたい(→http://spopro.net/blog/annyong_yumika/theater/)。


 さて、このヒットを受けて、8月8日(土)にはポレポレ東中野で緊急オールナイト的に「松江哲明セレクションオールナイト」が開催される。
 このラインナップが素晴らしい。これはどうあっても観に行っていただきたい。内輪褒めで、ただ観客動員の為に観ろ観ろと言っているわけではない証拠に自分は昨日、ラインナップ発表と同時にポレポレ東中野で整理券番号付き前売り券が発売されたと知るや、直ぐにポレポレに駆け付け、前売り券を購入した。どうしても観たいからだが、整理番号1番と記されていることにいささか拍子抜けして(ブログに告知が出てから二時間ほどしか経っていないのだから当然だ)外に出ると、カフェテラスでカレーを食っていた松江監督に、何しに来たの?みたいな顔をされて、自分でもどんだけファンやねんみたいな行動を取ってるなと思いつつも、このラインナップの魅力にはかなわない。他人に勧めるより先に自分のチケット確保に走るのも仕方ないという作品が並んでいるのだから。
 このセレクションが素晴らしいのは映画館でしか観ることが出来ない作品が厳選されていることだ。他を悪く言う気はないが、最近はオールナイトと言ってもフィルム作品でもDVD上映だったり、シークレット作品と言ったところでフタを開けてみれば以前上映したことあるよコレ、とかDVDで持ってるのに、みたいなことも結構あるだけに、劇場まで足を運び、一晩起き続けて観るだけの価値あるオールナイトとなると数少なくなっているという実感がある。殊に映画館でしか観ることが出来ないという意識は、松江哲明セレクションと掲げるだけあって、それに相応しい作品が並んでいる。
 ところが1本目の『OLの愛汁 ラブジュース』はビデオにもDVDにもなっているので、先述の“映画館でしか観ることが出来ない作品”という前提がいきなり壊れるかと思いきや、この作品はある理由によってソフト化されたものとは異なる劇場オリジナルバージョンなので、映画館でフィルムで観ることでしか体感できない作品になっている。それが何かは観てもらって驚いてもらうしかない。勿論、その部分だけではなく作品自体が素晴らしいのは言うまでもない。カップルで観たりすると今すぐここでキスして欲しくなるような気分になる素晴らしい恋愛映画だ、ということで察してください。
 『双子でDON!』は松江哲明のAV監督としての職人技が光る佳作。以前観た際の感想を下に貼っておいた。
 工藤義洋監督の『家族ケチャップ』は長い間観たかった作品で、偶に観る機会があってもことごとく逃していて、つい先日もPFFの関連上映で観る機会があったのに逃していただけに、ようやく観ることができるので嬉しい。解説文を読むだけで既にとんでもないことになっているのが窺えるのだが……。
 そして、『松江哲明最新作(スニークプレビュー)』だが、これはもう以前からのファンの方も、『童貞。をプロデュース』や『あんにょん由美香』を観てこの監督に興味を持った方も絶対観てほしい。『あんにょん由美香』と同時にこんな傑作を撮ってしまって良いのかという素晴らしい作品だけに、オールナイトのハードルを越えて足を運ぶだけの価値は―もう観ているから自信を持って言えてしまうが―確実に保証するのでぜひ観に行って体感して欲しい。ちなみに松江作品ではじめて泣いたのがこの『松江哲明最新作(スニークプレビュー)』だとそっと告白しておく。



【追記】2009.0810
 と、ここまで煽っておきながら当日は何と発熱によってギリギリまで何とか出向こうとしていたものの高熱に押された末、泣く泣く不参加に。整理番号1番の前売り券をこれだけ張り切って取っていたのに何たることか。まあ、『家族ケチャップ』以外は観てるんで良いと思うことにしようと強引に納得させたが、後で聞くと上映は大盛況だったらしく通路に座り見まで出ていたとか。またスニークプレビュー作品が素晴らしかったと観に行っていた人から興奮した様子で聞かされたので、これで客も入ってないわ、自分は観にいけないわでは腹が立つところだったが、良かったなと。しかし、それでもやはり観たかった。

松江哲明セレクションオールナイト」
8/8(土)開場23:45/開演24:00(終了5:00予定)
料金:前売り2000円/当日2300円
整理券番号付き前売り券2000円 ポレポレ東中野窓口で発売中





『OLの愛汁 ラブジュース』
監督:田尻裕司 出演:林由美香/58分/35ミリ/1999
ピンク映画史上最も優しい光と、姉貴的立場の林由美香が若いカップルを見守る90年代の日本映画を代表する名作。「山田花子の気持ちが分かる」同級生に馴染めない大学生と、そんな問いに「お笑い芸人の?」と真顔で答えるOLの「そこにありそうな」ラブストーリー。郊外の沿線、アパートの風呂場、そしてピンク映画…本作を見てしまったらそれらの見方が変わってしまうはず。商品化不可能のフィルム版(DVD版とは全く印象が異なる)が東中野で復活!!


『双子でDON!』
演出・構成:松江哲明/出演:山野姉妹、花岡じった/43分/ビデオ/2005
セックス終了までの行程で、双子のAV女優が何回か入れ替わったとして、男優は気づくことができるのか?かつての代々木忠平野勝之、そして松江へと受け継がれた「仕掛け」AVドキュメントの快作。哀れターゲットとなった天性のセックスマシン・花岡じったの運命や如何に?かくして、双子の天真爛漫なキャラとチープな音楽によるほのぼのムードの中、実験は始まった…!



『家族ケチャップ』
監督・脚本:工藤義洋/37分/16ミリ/1992
仏壇の前で母親に小便をかけるというショッキングなシーンから始まるセルフドキュメンタリー。しかし、映画が進む内にそれが「家族とは?」との問いから発した行動であることが分かる。だからこそリングでガウンを着た一家が熱唱する「もしも明日が…。」には号泣必至。また本作は被写体が「撮らないでくれ!」と発した時こそドラマになるという事実を証明した恐ろしい作品でもある。PFF大島渚を激賞させた学生映画の枠を超えた最強傑作。


松江哲明最新作(スニークプレビュー)』
演出・構成:松江哲明/74分/ビデオ/2009
09年に撮影されたばかりの松江哲明最新作を特別上映。映画と音楽の奇跡をオールナイトのラストに。

OLの愛汁 ラブジュース [DVD]

OLの愛汁 ラブジュース [DVD]



資料『双子でDON!』感想

双子でDON!

2005年 日本 ハマジム カラー スタンダード 約60分(再編集版)
演出・構成/松江哲明    出演/山野姉妹、花岡じった

 ハマジム有料サイトでのみ配信されていた『双子でDON!』を、はじめて観ることができたが、プログラムピクチャー的面白さに満ちた作品で楽しめた。
 双子の女優がいるので、SEXの最中に入れ替わって果たして男優は気付くか?という1シチューエーション、1アイディアの作品だが、こういった作品で気になるのは、根幹のネタが画で再現されているだけに終わっていないかということで、こうなるであろうという予想通りにコトが運んだということを画で見せられても、それ以上の面白さというのはないことも多い。その点、この作品では花岡じったという得難き男優が登場するので、作品の幅が大きく広がっている。
 AVを少しでも見ていれば、確実に花岡じったを目にしたことはある筈で、実際自分も『セキ☆ララ』を観るまでは、アクの強いAV男優としか思っていなかった。しかし、あの作品を観てしまうと、もうただの男優としては観れない。愛すべき存在になってしまい、裏DVDを見ている時にも花岡じったが登場すると何故か感情移入してしまい、何で丸見えのAV男優を見て、知り合いでもないのにこんな気分にならなければいけないのかと思うのだが、それは『セキ☆ララ』を観れば納得してもらえると思う。
 本作では、神社の階段をスヌーピーのトレーナーを着て花岡じったが昇ってくるだけで笑えてくるのだが、オレンジのスヌーピーのトレーナーを着ているクセに女優と会って5分でソフトタッチを始める花岡じったは、実に愛すべき存在で、食事中に一回目の入れ替わりが行われても気付く気配もない。ちなみに、食事中のうどんを食べている様子を間を抜きながら3カットで見せて字幕入れて、また食べている様子をもう1カット入れ込むところなど、松江哲明の編集技がこういった何気ないところで光っているのも見逃せない。
 ホテルに移動してのカラミの撮影では、セッティング中から既に本気モードな花岡じったに松江らが驚くという、彼は本当にAV男優が天職なのだと確認させてくれるシーンもあるが、カラミに入っての職人ぶりは流石で、近藤龍人の撮影の見事さもあって、劇場公開用のカット版でも十分エロい。そして、自分の汗を女優の足の裏を使って拭くという凄い行為を自然にやってのける。
 二回目の入れ替わりもバレることなく進み、フィニッシュの後のティッシュをもう一人が持って登場してネタばらしとなる。この時、登場した瞬間の花岡じったの表情がとらえられてはおらず、双子からパンしてじったの顔になるので、登場した瞬間の表情が見たかったという気もするのだが、それはバラエティ的ノリになりすぎるか。『童貞。をプロデュース2 ビューティフルドリーマー』を観た時にも思ったが、バラエティ的ノリに近い場合、どこで差別化を図るかという箇所が出てくると思うが、本作の場合は、殊更にバラシの箇所を作品の根幹に持ってきて過剰に強調するわけではなく、作品の流れの中で軽く観れるようになっているので、画面の中の人物も観客も、花岡じったも含めて、みんな軽く笑えるのが良い。これは、松江哲明の嗜好、花岡じったの性格に負う物が大きいのだろうが、罪のない軽いダマシで明るく笑える作品に仕上がっている。
 花岡じったが、しみじみと双子を眺める姿など、何とも楽しいのだが、彼はプロだと感嘆させられるのは、最後に双子と3Pした際に顔射をきめるにあたって、ちゃんと並んでいる二人の顔両方にザーメンを飛ばすのである。で、見事に顔を斜めに横切る形で附着しており、感心させられた。
 終盤の双子と花岡じったが握手する松江AV作品では御馴染みな様子や、新宿駅前で別れ際に双子の一人が何故か感極まって泣き、『セキ☆ララ』同様「家族みたいでした」と言う。僅か数時間の撮影で、それも花岡じったを入れ替わりで騙すだけのAVなのに何故?と普通なら思うのだが、単に和気藹々としてるだけの内輪受けのような作品ならば白けるのだが、商品として完成度を保ちながら、現場の雰囲気の良さが作品に結実し、観ている側も幸福な気分にさせられる小品の佳作『双子でDON!』を観ていると、彼女達の気分もわかるような気がする。