『映画芸術 NO.428 2009 SUMMER』

映画芸術 2009年 08月号 [雑誌]

映画芸術 2009年 08月号 [雑誌]

 本日発売の『映画芸術 NO.428』で前号に引き続き「ジャンルから見る私の映画史」に参加させていただきました。今回は〈シリーズ ジャンルから見る私の映画史VOL.2 アクション映画 外国映画篇〉です。アクション映画を十本挙げてコメントを書いております。
 前回の恋愛映画に比べればアクション映画だから余裕だと思っていたものの、いざ挙げるとなると何を選び、何を外すかで悩みに悩み、結局勝手に「14歳までに観たアクション映画」という設定を作って挙げてみました。従って幼少時にテレビの映画番組で偶然目にしたアクション映画で後々までもその印象が響いている作品が中心になっています。
 前回とは参加者の顔ぶれも少し変わり、新たに参加者の生年が記されるようになったので試しにまとめてみると、20年代1人、30年代5人、40年代11人、50年代9人、60年代7人、70年代2人、80年代1人となっており(別に如何に上が詰まっているとか暗に示しているわけではない)、自分が参加するのは申し訳ない感じがより増す感じですが、そのあたりはご容赦を。



 一読者の視点で今号を読めば、良い意味で“混沌”としているのではないかと。表紙が『サマーウォーズ』なのも驚きだが、『サマーウォーズ』特集と、香取環×内田高子という60年代ピンク映画の女王対談が並立し、更に足立正生が『バーダー・マインホフ 理想の果てに』を語り、荒井晴彦が『のんちゃんのり弁』やインディペンデント映画を語りつつ同時に『ターミネーター4』と『レスラー』も語るというのが、やはり面白い。
 「ジャンルから見る私の映画史」も何故映芸が?と言われつつ一回限りで終わらず継続して中心に据え、その周りを極端に傾向が異なる話題で誌面を飾る無節操ぶりが良い。それでいて荒井編集長の映芸としての色合いも保っていて、あるようでないような均衡によって最近の映芸が成立しているのではないかと思う。『おくりびと』前後から発売前後に何かと話題になることも多いし。
 今号で個人的に最も興味深く読んだのは、鈴木義昭さんが聞き手を務めた<女優対談「私と映画と、そして女の人生」香取環×内田高子>だが、他にも『サマーウォーズ』特集で細田守インタビューを大久保清朗氏(id:SomeCameRunning)が担当されていたのが嬉しかった。というのも、氏のブログを読めば分かるが、映画研究者としての活動の一方でアニメーションへの見識を覗かせることも度々あり、これまで氏の成瀬やルノワールについて書かれた書籍は読んでいたが、どこかの映画雑誌がアニメ批評を氏に依頼しないものかと思っていたので、今回の細田守インタビューを担当されたのは嬉しいところだった。作品を観た後に全部読む予定なのでサワリしか読んでいないが、イーストウッドの話題に飛んだりと大久保氏が担当する意味のあるものになっているようだ。おそらく映画研究者の世界では、アニオタ呼ばわりされていたりするのではないかと想像するが(失礼)、氏なら例えば映画の途中で唐突にエンドマークが出て観客が腰を浮かせかける映画という括りで成瀬の『おかあさん』と『のび太の魔界大冒険』を並べて語るような芸当も可能であろうし、実際本誌では『ポー川のひかり』の評も書いておられるので、『ポー川のひかり』も『サマーウォーズ』も同時に語れる映画研究者の存在は貴重だと思うだけに、映芸でアニメ評での登場も期待したい。


 あとは、渡辺考氏の「近作ドキュメンタリー論」で『あんにょん由美香』が取り上げられているが、流石にどこかの馬鹿みたいに作品評に屈折した自身の過去の面白くもない話を延々入れて、本来は有効だった批評部分までが単なる妬みなのねと嗤笑されてしまうものと違い、自身のドキュメンタリー観で捉えられた評になっており、『あんにょん由美香』は賛否飛び交う作品になるだろうと思っていたが、絶賛も多い一方で、そうそう単純な傑作などではないだけに、批判的に書かれたこういった評を読んで、自身の考えと比較されてみるのも一興だと思う。
 ただ、本文でこの作品の冒頭のロフトプワスワンでの『女優 林由美香』出版記念イベントについて、

死者を悼み、思い出話が湿っぽく語られると思いきや、その真逆の世界が展開される。彼女の生前の出演作を見ながら、パネリストも観客も一体となって笑いまくっているのだ。
 何でこうなってしまうのだろうか。死者に不遜な態度ではないか。

 続けて『東京の人妻・純子』が上映されて、観客が爆笑するシーンについて、

 確かにユーモラスなシーンだし、私だって笑ってしまう。でも相手は死者である。集団でよってたかって行われる欠席裁判に居合わせてしまったような居心地の悪さを覚えた。

 と書かれると、あの会場に居た観客の一人としても、『あんにょん由美香』を数回観た者としても、あのシーンをそう受け取るのかと驚くのだが、どうも渡辺氏は「死者を悼み、思い出話が湿っぽく語られる」イベントでないと納得できないらしく、既にこの世に存在しない人間の出演する映像を観て笑うことが到底信じられないようだ。ちなみにこのイベントで自分の目の前に座っていた由美香さんのお母さんは実に4時間に渡って次々と繰り出される映像を見ながら、激しく泣いたり笑ったりを繰り返していた。渡辺氏の言に従えば、由美香さんのお母さんまで「死者に不遜な態度」を取っていたことになってしまう。
 壇上の人々も観客も、こんな映画やAVにまで出演していた林由美香に改めて驚きながら、泣き、笑いを繰り返して彼女を追悼したのだ。それは何もこのイベントに参加せずともあの作品の冒頭からも感じ取れるはずである。

映画芸術 NO.428 2009 SUMMER』


サマーウォーズ
インタビュー:細田守(監督) 聞き手=大久保清朗(表象文化論
論考:山嵜高裕(詩人)


のんちゃんのり弁
インタビュー:緒方明(監督) 聞き手=荒井晴彦(脚本家・本誌編集長)
論考:福間健二(詩人・映画監督・文化研究者)


〈特集1 インディペンデントの現在〉
座談会:井土紀州(映画監督)×大久保賢一(映画評論家)×菊池信之(録音技師)
×七里圭(映画監督)×諏訪敦彦(映画監督)×富田克也(映画監督)
×稲川方人(詩人・本誌編集部)×荒井晴彦
論考:小口詩子(映像作家) 富岡邦彦(大阪PLANET+1代表) 大久保賢一 


〈特集2 リメイク映画は何をリメイクするんだ!?〉
総論:上島春彦(批評家) 千浦 僚(映画感想家)
『HACHI』神山征二郎(映画監督)
『3時10分、決断のとき』河村雄太郎(会社員) 
蟹工船』田中眞澄(映画・文化史家)


〈シリーズ ジャンルから見る私の映画史VOL.2 アクション映画 外国映画篇〉
木全公彦(映画評論家) 桂千穂(脚本家) 溝口 直(医師) 
大口和久(批評家・映画作家) 浦崎浩實(激評家) 福間健二 
渡辺武信(建築家・映画評論家) 佐藤千穂(映画批評家) 河村雄太郎 
吉田広明(映画評論家) 安藤 尋(映画監督) 山口 剛(プロデューサー) 
富岡邦彦 菅原和博(函館シネマアイリス代表) 上島春彦 澤田幸弘(映画監督) 
野村正昭(映画評論家) わたなべりんたろう(ライター) 川瀬陽太(俳優) 
佐藤昌弘(京浜急行電鉄 専務取締役) 川口敦子(映画評論家) 緒方 明 
中村征夫(TVプロデューサー) 柏原寛司シナリオライター・監督) 
荻野洋一(映像演出・映画評論) 榎戸耕史(映画監督) 高橋千秋参議院議員) 
大野直竹(大和ハウス工業 副社長) 大森一樹(映画監督) 
モルモット吉田(ライター) 高瀬真尚(放送作家・ズノー代表取締役) 
松井 宏(映画批評) かわなかのぶひろ(映像作家) 千浦 僚(映画感想家) 
稲川方人 荒井晴彦 
特別論考:大林宣彦映画作家


女優対談「私と映画と、そして女の人生」
香取環×内田高子


特別対談「歴史的事実とフィクションの境界、その線は誰が引くのか」
寺脇研(映画評論家)×スヴェン・サーラ(上智大学准教授)


映画制作者座談会 フィルムコミッションって何?
松岡利光×手塚英一×氏家英樹×前田茂司×向井達矢


座談会 『バーダー・マインホフ 理想の果てに』を巡って 
足立正生(映画監督)×すが秀実(文芸評論家)
×クリスチャン・シュパング(筑波大学准教授)×荒井晴彦
 

〈Film Critique〉
真夏の夜の夢』金子遊(批評家)
『童貞放浪記』深田晃司(映画監督)
『クリーン』七里圭 
ポー川のひかり大久保清
サンシャイン・クリーニング』木村有理子(映画監督)
「近作ドキュメンタリー論」渡辺考(TVディレクター)


〈Book Review〉
「女の足指と電話機」松田政男(映画評論家)
「魂の演技レッスン22 輝く俳優になりなさい!」河井青葉(俳優) 
「映画的建築 建築的映画」渡辺武信 
「映画嫌い」小林善美(音楽家・日曜翻訳家)
「シドフィールドの脚本術」井土紀州 
「テレビの青春」赤地偉史(元TBSディレクター)


〈連載〉
長谷川元吉 映像カメラマン解体新書 
大木雄高 「LADY JANE」又は下北沢周辺から 
やまがまあさ 雲呼荘の思い出 
青山真治×稲川方人×荒井晴彦 DVD NEW RELEASE 
中原昌也×千浦僚 映画なんて観てる場合じゃねぇんだよ! 
荒井晴彦×寺脇研 日米★映画合戦 
石井裕也 愛という名の黙契 
わたなべりんたろう 日本未公開傑作ドラマ紹介 
OUT OF SCREEN 田中誠一(CINEMA ENCOUNTER SPACE代表)


http://eigageijutsu.com/article/123953190.html