映画

1)「CASSHERN」(新宿松竹会館) ☆☆★★★ 

2004年 日本 カラー 「CASSHERN」パートナーズ シネマスコープ 141分
監督/紀里谷和明 出演/伊勢谷友介 麻生久美子 唐沢寿明
CASSHERN [DVD]
 前評判が悪い作品ではあったが、公開後の一般観客からの評価がこれだけ大規模に悪評に包まれる作品というのは久々で、それが観客動員の減少に繋がっていないというのは往年の角川映画を思わせる。作品の持つイベント性も角川映画を思わせ、角川春樹の全盛期ならCMと主題歌、前売り券押し売り方式で押しまくり、もっと大ヒットしたのではないかと思われる。
 近年の日本映画を見ても、「あずみ」や「ドラゴンヘッド」「バトルロワイアルⅡ」「リターナー」「RED SHADOW」等、角川映画を彷彿とさせる作品は製作されてはいる。しかし、宣伝や話題作りが下手なせいか、興行収入は低調に終わっている。何故低調なのかと言うと、一重にプロデューサーの不在と実績のない監督に自由奔放に作らせるのが原因で、前述した各作品の監督は、北村龍平飯田譲治深作健太、山崎 貴、中野裕之であるが、飯田と山崎を除いてメジャー映画の実績はない。こういった監督を起用するのは反対ではないが、やるからにはプロデューサーがイニシアチブを取り、脚本をしっかり煮詰めなければならない。にも係わらず、ほとんどの作品は監督に丸投げの形で、脚本も監督が自ら書くか側近に書かせ自由に改稿している。これが単館公開の作家性の強い小品なら、むしろその方が良いだろうが、メジャー公開のエンターテインメント作品で5億〜10億の製作費のかかっている作品を製作する体制としては疑問に思わざるをえない。
 特にここ2年ほどは、とてもメジャーでかけるには忍びない自主映画まがいの脚本で撮影してしまっている作品が多い。具体例を挙げれば「あずみ」と「バトルロワイアルⅡ」だが、最低限の辻褄合わせすらできていないのだから驚いてしまう。こんな脚本で何故インさせてしまうのか、プロデューサーは何も言わないのだろうか。
 『日本映画のタガが外れた』。昨年の日本映画を観ていて、そう思うことが多かった。ハナシの辻褄なぞ合わなくても映像が良ければそれで良いらしい。黒澤明が優秀な脚本家を数人集めて、エンターテインメントのあの手この手を考え尽くして脚本化していたのは何だったのか。
 そういった杞憂を増幅させる作品が「CASSHERN」だ。紀里谷和明奥田瑛二が監督した「少女 AN ADOLESCENT」でスチールを担当していたのを見たのが最初で、彼の手によるポスターも印象深く、才ある新人の一人として捉えていた。以後、宇多田ヒカルのPVを担当し始めてからの認識しかないが、「traverling」は彼の世界観が良く出た秀作で、大胆な色彩の使い方が印象的だった。一方で「SAKURAドロップス」になると彼の映像が勝ちすぎてPVとしての完成度は良いとしても肝心の曲を食い潰す傾向にあり、このあたりに危険なものを感じたが。
 彼が映画を監督するーというのは当然の流れで、それ自体は驚かないが「新造人間キャシャーン」を実写リメイクするというのは驚いた。今年は「キューティーハニー」「忍者ハットリくん」「デビルマン」「鉄人28号」が実写化されるが、デジタル時代がとか、観ていた世代が製作する立場になり、とか言っているが単純にハリウッド同様企画不足というだけのハナシだ。
 漫画・アニメの実写リメイクは、これまでにも10数年単位で小さなブーム的に実写化されているがいずれも不発に終わっている。以前まとめて観た「ルパン三世 念力珍作戦」「こちら葛飾区亀有公園前派出所」「火の鳥」「サザエさん」等はプログラムピクチャーの一環として製作されているが、全て凡作である。この中で、今年の実写化ブームの参考になるのが「火の鳥」で、市川崑金田一シリーズの合間に映画化したものだが、アニメーター出身だけに成功するのではと期待したが、原作と同じコマ割りでカットを割るという恐ろしく実験的なことをやってしまい、当然映画としてのテンポが出ずに空転してしまっていた。以降、観たいと思いつつ果たせていない伝説の「月光仮面」「8マン」を経て、今年の実写化ブームに行き着くわけだが、その第一弾となる「CASSHERN」は、興行的には大成功と言って良い。幸先の良いスタートではあるが、以降の作品は全てコケると踏んでいる。この作品の興行的成功は宇多田ヒカルの主題歌起用と話題性、ミュージシャンの多用で、先例として「スワロウテイル」があるが、所謂十代後半から二十代前半が主観客になれば興行収入10億は見込める。その点、女性観客が期待できずオタク性丸出しの「キューティーハニー」や古めかしい映画会社が追従した「デビルマン」、観客層が絞り込めていないキワモノの乗りの「忍者ハットリん」、方向性が不明確な「鉄人28号」などは、売りが見当たらない。
 「CASSHERN」本編については一億総批評家状態で、誰もが批判しているが、個人的にこういったイベント映画は好きなので擁護したいのが本音ではある。開巻1時間は悪くない。勿論CGのクオリティのバランスや、ブルーバックが抜けきれていない箇所が散見できるとか、フィルム上映することを本当に考えたのかというぐらいの、不要なノイズ乗せが多用ーそれも全カットではなくCGの不完全さを誤魔化す為に特定のカットのみにかかっているといった箇所に目を瞑るとしてのハナシだがー悪くない。ハナからアニメ版の意匠を借りただけの全く別物として観ていたのでそう気にせず作品の世界に入れた。アメリカが存在しないもう一つの未来世界という設定だから、戦前の日本のゴシックな様式が残った形になっているのが面白い。「イノセンス」同様「ブレードランナー」の絶大な影響下にある世界観ではあるが、大滝秀治の顔があちこちに大きく張られ、工業都市として栄えた街並みなど一見の価値がある。
 冒頭で東博士の一家がルナを含み記念写真を撮るシークエンスで、東博士と息子鉄也との間の冷えた関係、妻の病状、ルナと鉄也の関係性を簡明に示し、戦場で鉄也が第七管区の住人を撃つシークエンスで戦争における人間の凶暴性、狂気性を示す。しかし、鉄也は戦死し、その亡霊が母やルナの元を訪れる。このシークエンスは美しいが亡霊の存在が不用意に現れる危険性が脚本上で留意されておらず、「死」が大きな根幹を担う本作品においては亡霊の存在はバランスを崩しているのではないか。天からの突発的事故によって、新造細胞を研究中の東博士の研究所に異変が生じ、新造人間が生まれる。ここで、生まれた新造人間を次々撃つシーンが意図不明で、呆然としている東博士も、自らの研究が殺されていく様を何故黙って見ているのか。東博士は、戦死した鉄也の遺体を新造人間として復活させるー。ここまでは悪くない。多少描写に問題があるにせよ、この意匠の中で善戦している方ではないかと思った。しかし、肝心のキャシャーンとブライキングボス等との戦いが始まると、一転して支離滅裂な長い墜落飛行がラストまで続く。141分もの長尺は苦通でしかなく、評判の樋口真嗣コンテによるバトルシーンも、肝心のアクションの頭とケツを切り、カットの間を省略しているのだから目くらまし的なものにすぎず、全く魅力を感じなかった。
 後半に到っては、複数の人物を捌くことができずに、誰がどこにいるのかすら不明で、Aが何かをしている間、B、Cはどこで何をしているのかを描かなければサスペンスも生まれない。やたらとオーバーラップを多用しているのも繋がらないからであり、唐突に椎名林檎の「茎」(限定アナログ盤「加爾基 精液 栗ノ花」にのみ収録されていた英語ヴァージョン)が流れる違和感、全編をギトギトの色にしているのも観客からすれば辛く、佐田真由美要潤等の演技を放置するなど、挙げていけばきりがない。
 結局、紀里谷和明に全てを任せたのが問題で、脚本に管正太郎、佐藤大が参加しているとは言え、紀里谷の意向が大きく反映されているらしい脚本をプロデュースサイドが理解し、善処し、少なくとも構成が成立していない箇所や、生のまま露出している科白、広げすぎている世界観を狭め、登場人物を整理し、2時間に収めることで、もう少し観られるものになると思う。
 実際、かなり惜しいと思う。6億という限られた予算で、よくこれだけのことができたと思うし、衣装の北村道子はじめ優秀なスタッフと、珍しく豪華な役者に恵まれ、悪くない世界観の構築もできているだけに残念だ。
 結論的にPV出身の監督は映画監督はできないと言い切って良いと思う。海外ではスパイク・ジョーンズが凡作「マルコヴ ィッチの穴」を経て「アダプテーション」で成功したが、日本では岩井俊二が成功したぐらいで、中野裕之、「trancemission」の高橋栄樹、「Wild Zero」の竹内鉄郎等、足を運んで観たが、いずれも失敗していた。
 因みに本作について中野裕之と「SAMURAI FICTION」を例に出して批判している方面が幾つかあるようだが、中野との共通項はPV出身とピース原理主義ぐらいのもので、比較対象になり難い。大体「SAMURAIFICTION」は単館系での公開である上、元は山本周五郎の「雨あがる」を原作にするつもりが、黒澤明と競作になることから諦め、オリジナル脚本になったものだ。確かにプロットは「雨あがる」と酷似しているが、しっかりまとまっている。単に中野を貶める為の発言か、他の作品を観ていないから、PV出身監督と言えばということで中野と「SAMURAI FICTION」が出てきたのかもしれないが中野の作品の中では「赤影 RED SHADOW」が麻生久美子によって沈没から救われている点も含めて共通している。
 紀里谷和明は、ヒットしたものの賢明な判断をして以降監督作品を作らなかった「稲村ジェーン」の桑田圭祐と違い、当然ながら次回作を作るであろうが、脚本に重を置き、自分の語りたいテーマを絞り込み見せ過ぎない演出を心がければ、成功するかもしれない。日本映画にはいない人材だけに、大事にはしたい。


2)「キル・ビル Vol.2 ザ・ラブ・ストーリー」〔KILL BILL Vol.2〕 (新宿松竹会館) ☆☆☆☆ 

2004年 アメリカ カラー シネマスコープ Miramax 138分
監督/クエンティン・タランティーノ  出演/ユマ・サーマン デヴィッド・キャラダイン ダリル・ハンナ
キル・ビル Vol.2 [DVD]
 公開初日に続いて二回目となったが、やはり秀作で、これこそ映画である。殊に、棺の生き埋め、ダリル・ハンナとの格闘シーンでの、アクション演出における痛みを観客に伝えることの困難を易々と越えるタランティーノ。ラストのビルとの対話の緊張感、何度でも観たい。