映画

1)「レゾナンス」(VIDEO) ☆ 

2002年 日本 カラー スタンダード 94分
監督/池田崇 出演/吉若靖弘 牧ひろみ 竹田有希

 
 2001年度大阪芸術大学映像学科映画コース卒業制作で、学長賞受賞作品。本来は2000年度作品であったが完成が遅れた為、翌年公開となった。製作期間3年に及ぶ作品だけに流石に丁寧に撮られており、自主映画としてではなく、映画として接することができた。
 記憶喪失の男、幼少時にレイプされたヘルス嬢、父親に愛されない少女と見事に三つ不幸が揃ったハナシで、演出は露骨に北野武黒沢清青山真治、「トカレフ」の阪本順治である。いかにも現代日本映画作家的要素を取り入れてはいるし、他の無残なパクリだけに終わるものに比べれば格段に上出来ではあるが、だからこそ、この作品が監督自身の生理を出さずに終わったことが惜しまれる。先輩に当る熊切和嘉以降、山下敦弘、柴田剛、本田隆一、宇治田隆史、元木隆史等が輩出されているが、熊切と山下が突出したのは彼等の生理に忠実な作品を作ることを心がけたからで、その中でもジャンルに奉仕する熊切はやや遅れ気味で、ジャンルから脱した作風の山下が先に進んでいる気配だ。その他が遅れているのは、既成のものに自身を仮託して映画を作るから当然既成の作品と比較され、商売として成立し難いと認識されているのではないか。
 本作もジャンルに―それも露骨に仮託しているから欠点が目立つ。記憶喪失が単なる記号としてしか機能しておらず、主人公が誰と何故喧嘩し記憶喪失に到ったのか、一切明かされない。それがあえて明かさないのではなく、説明できなくて明かさないだけであり、記憶喪失という都合の良いシチュエーションをお膳立てするための方法でしかない。
 彼はポケットに入っていたピンクチラシの住所を訪ねる。そこはヘルス嬢の待機場で、そこで自分が働いていたことを知らされる。しかし、履歴書もなく自分の素姓はわからない。そこには何人かの女と共に陰のある女がいる。彼女は主人公とは幼馴染なのだが、主人公は当然覚えていない。一方ヘルスを経営する男には別れた妻との間の娘がいるが、全く甲斐性がない。娘は家を飛び出し、主人公と女との共同生活が始まる。
 作者に聞きたいのは、北野武等の手法を使うことによって、説明する手間を省けると思い込んでいるのではないかということだ。確かに面倒である。記憶喪失とは言え、家族や以前の状態をどこかで描かなければならないし、幼少時レイプされた女が何故ヘルスやってるのか説明しなければならない。それに二人が幼馴染であることを主人公に教えなければならない。これらを『敢えて省略した』ら全て描かなくて済む、と考えたかどうかは知らないが、北野武等の手法にはそういう魔の手がある。しかし、「その男、凶暴につき」の妹、「HANA-BI」の妻等は明らかに描写不足で情感を伴うものには、演出の切り口を変えなければならないと思わせた。
 主人公が校舎に侵入して歩いていたら昔の担任に会って話すというシチュエーションが「Love Letter」と全く同じであることに呆れた。又、ヘンリー・マンシーニの名曲「ムーン・リヴァー」を使う厚顔さや、主人公の服が上は赤アロハに下は紺のパンツという「菊次郎の夏」の、たけしと全く同じというのも微笑ましく笑ってはいられない。
 やりたい画が先行して、辻褄合わせをしなくて良い北野等の手法を使うことで映画らしきものを映画として送り出すことに疑問を感じる。



2)「パンダ・コパンダ」(DVD) ☆☆☆☆★ 

1972年 日本 カラー 東京ムービー スタンダード 35分
監督/高畑勲  声の出演/杉山佳寿子 熊倉一郎 太田淑子
パンダコパンダ&パンダコパンダ雨ふりサーカス [DVD]

3)「パンダ・コパンダ 雨ふりサーカス」(DVD) ☆☆☆☆ 

1973年 日本 カラー 東京ムービー スタンダード 39分
監督/高畑勲  声の出演/杉山佳寿子 熊倉一郎 丸山裕子
パンダコパンダ&パンダコパンダ雨ふりサーカス [DVD]

4)「クレージー大作戦」(VIDEO) ☆☆☆★★★ 

1966年 日本 カラー 東宝 東宝スコープ 100分
監督/古沢憲吾 出演/植木等 ハナ肇 谷啓

 
東宝クレージーシリーズ第7弾で、前年の「大冒険」に続いて小林信彦がギャグ監修で参加している。と言っても実際はシナリオ修正的役割だった模様で、本作では主としてクライマックス部分のアイデア提供を行ったそうである。だからと言ってしまうのは早計だが、非常に出来が良い。
 銀座を歌いながら歩く植木等へ急激なズームアップする開巻から一気に乗せられ、宝石店襲撃から刑務所へ送られ、雑居房で共になるのが当然クレージーの面々であり、刑務官はハナ肇である。老人ホーム慰問から脱走劇へと転じ、悪党の屋敷から10億を奪おうとする。昨年の「ナインソウルズ」等はこの作品を見習うべきで、殊に脱獄ネタでまず問題となる着替えを巧みにやってのける。
 クレージー映画の難点は7人いるメンバーを使わなければならないことで、「大冒険」など、面白いのだが、クレージー全員を巧く使えていたかというと問題がある。そういう意味で本作は、それぞれにキャラクターを持たせることができており、犬塚弘桜井センリ石橋エータローあたりの犯歴を生かせていれば更に良かったのだが、とは言えかなりうまくいっていた。
 悪党邸内の、あの手この手の仕掛け、ラストの追っかけに到るまでの楽しさ。オチも巧く決まっているだけに、非常に満足できた作品だった。