映画「マイアミ・バイス」「オトシモノ」

molmot2006-10-05

235)「マイアミ・バイス」〔Miami Vice〕 (Tジョイ大泉) ☆☆☆

2006年 アメリカ UNIVERSAL カラー シネスコ 132分
監督/マイケル・マン    脚本/マイケル・マン    出演/コリン・ファレル ジェイミー・フォックス コン・リー ナオミ・ハリス キアラン・ハインズ



236)「オトシモノ」 (Tジョイ大泉) ☆☆☆★

2006年 日本 「オトシモノ」フィルムパートナーズ  カラー ビスタ 94分
監督/古澤健    脚本/古澤健 田中江里夏    出演/沢尻エリカ 若槻千夏 小栗旬 杉本彩 板尾創路

 あ、コレ呪われた映画だ。現在量産されているJホラーと呼ばれている作品の中でも、後世に再評価される筆頭の作品になる。
 
 古澤健という名を初めて知ったのは、98年の「映画芸術」で映画美学校が特集された際に掲載されていた学生の対談の出席者の一人としてであった。当時は自分は学生だったので、自分達のことは完全に差し置いてヨソの映像系学校を友人ぐるみで貶すことが日常茶飯事であったので、当然新しく出来たばかりの映画美学校は絶好の批判の対象で、その後も長らく業界内の噂やらが回ってきたりして、悪い印象のみ持っていた。だから古澤健が「ドッペルゲンガー」に脚本で参加しているのも疎ましく思いつつ、既に発表されている「怯える」や「ロスト☆マイウェイ」も何度か観る機会があったが、大阪芸大以外の近年の映像系学校出身者による小規模公開作品は殆ど観ないことにしているので、友人に誘われても、絶対観ないと返事していた。敢えて観ずに悪口を言い続けることに意味があるとしていた。
 しかし、メジャー公開作品を撮った以上は観ないわけにもいかず、かなり嫌々な心境で観た。少しでも不味いところがあれば、ここぞと罵詈雑言を浴びせかけるつもりで観たのだから、客筋としては良くない。大体観る前から不快だったのは、「パビリオン山椒魚」同様、お仲間内の持ち上げ方が気持ち悪かったからで、それがネットなどでは更に増幅されて仲間内、知り合いだから過剰に持ち上げている雰囲気がありありと感じられて、作品を本当に観て言っているのかすら怪しいような歯の浮いた言葉が並んでいた。割合信頼して読んでいるような所でも、それに巻き込まれている感があったので、どいつもこいつもロクなもんじゃないなと。これで駄目な作品に対して無理矢理持ち上げているなら、又それを監督への親愛の情だとしているなら、直ぐにそんな監督は駄目になるに違いない。誰の言葉も信用できないので、やはり自分で観なければと思い劇場へ向かうが、いくら雨の中レイト枠で観たとは言え、シネコンの300近い席が僅か5つ程しか埋まっていなかった。
 そもそも、Jホラーと呼ばれるジャンルは大の苦手で、一応一通り有名なのや話題になったのは劇場にも通っていたが、黒沢清以外は殆ど面白いと思ったことがない。やはり、白布を纏っていたり、ブリーフ履いた白塗りのガキが堂々と出てきたりすると、所詮は衣装やメイクが用意したものを着てそこに居るだけに思えてしまい、それで恐怖を感じることなどできないと思ってしまう。あまりにも実存的過ぎて、自分の考える幽霊や恐怖というものとは全く違うので、怖いも何もない。こんなものは小学生が怖いと言ってるだけだろうと最初は思っていたが、ハリウッドリメイクまでされてヒットしているのだから、自分の恐怖の感じ方が悪いんだろう。だから我ながらズレていると思うのは、例えば「the EYE」は怖かった。しかし、ハリウッドリメイクを中田秀夫がやると聞くとええ?と思ってしまう。中田秀夫にはできない怖さがあったと思ったのに、中田がリメイクするに相応しいと判断されてしまう違和感。

 
 「オトシモノ」という非常に魅力に欠けるタイトルの本作は、自分の嫌いなJホラーではなかった。幽霊の出し方が好ましかったのが大きい。白塗りや白布を纏ったような大嫌いな出し方をしていない。表面は人間でありながら顔が崩れているといった出し方は好感が持てる。
 演出も、実直で生真面目なのが良いが、生真面目過ぎて硬過ぎる嫌いがある。もっとロングにすれば良いのにというカットや、沢尻エリカ若槻千夏の会話になると演出硬化が極まってしまう欠点はあるが、慎重に基本的な箇所は外さない演出は好感を持った。
 ただ、モノが落ちるという演出を何度かやっているが、音が先行して恐怖を煽るのは良くないし、カメラが回り込みながらの移動の最中に奥でモノを落すと、唐突な落下による驚きが半減しているように思った。
 電車の使用も効果的で、単に車両内に幽霊が出る程度ではなく、ドアが開いて引き摺り出したり、ホームに引き摺り降ろすという過剰さが良い。
 又、沢尻エリカの口の動き以外には殆ど変わらない無表情な演技が良かった。


(以下、ネタバレ含む) 
 前半、中盤と、まあ、悪くない水準程度の出来と思っていたが、映画の目盛りが一気に一段階上がったのは終盤の展開を目にしてからで、これによってこの作品を断然擁護しようと思った。
 電車をトンネルに走らせ、沢尻と杉本彩が奥へと進む展開となるが、これはもう、対面形式のちょっとした幽霊との戦いをやって何だかわからない内に終わるのが関の山だなと思っていた。Jホラーのパターンに鑑みればそういうことになる。
 ところが、トンネルの横に空間が広がり、そこへ入っていくと地下道が続いており、一大地下帝国めいた展開になってしまう。これには興奮した。映画がポンと跳ねる瞬間は楽しい。メジャー公開作の保守性の中でこういうことを堂々とやってのけるのは大したもので、どうやら古澤健は、Jホラーを隠れ蓑に地底人映画やゾンビ映画をやろうとしたらしい。破綻を恐れずに予算も無視して終盤で突如大風呂敷を広げようとするのは支持したい。終盤の割れた地面に落ちかかってという、「ドッペルゲンガー」に続いて「レイダース 失われた聖櫃」を堂々とやろうとするのも良い。
 地下にヒトが積み重なって山が築かれている中に沢尻の妹が居て、という展開に「グエムル 漢江の怪物」との偶然の符合を思いつつ、ヒトが山積みされているのが実に良い。ただ、杉本彩が転がって刺さって‥という肝心の展開が分かり辛くは思った。
 そして、あの電車で逃げながらゾンビどもを轢いて行くのが素晴らしい。電車でヒトを轢くという描写を徹底してやった画期的作品で、中盤でも引き摺りこまれて電車に轢かれる様を電車上からの俯瞰で見せたショットが良かった。
 エピローグで、爆弾を仕掛けてトンネルを塞いだ男が逮捕されるというニュースが流れるという展開も好みだった。


 ただ、これをメジャー公開する感覚がわからない。単館でジワジワ広げていく方が作品に合っていたように思う。
 ともあれ、妙な作品を撮り上げた古澤健は、一時期の黒沢清以上の困難な道が待っているに違いないが、それでもやりたいようにやる映画を作るのだろう。