シネマヴェーラ渋谷・特集『ナインティーズ! 廃墟としての90年代』

 リアルタイムで観ている優位性に準拠したモノ言いは嫌いだ。そんなにリアルタイムで観ているのが偉いか。リアルタイムで観れなかったこそ、後の世代から何としても観たい、知りたいという欲求が映画を生き返らせたり、再評価させたりする。と同時に、場合によっては死なせたりもする。
 と、言いつつ、10代前半〜20代の入口を90年代で過ごした世代としては、80年代を忌み嫌う気持ちはあれども、90年代への愛着というのはどうしても出てしまうのは、映画に関して言えば、そういう時期に観た作品が現在の自分を形成していたり、映画観を形作っているものだから、どうしても切り離せない。結局リアルタイムに拘泥してしまっているわけだ。
 だから、ボイスが早過ぎる90年代特集を行っても、やはり内容を読む以前に買ってしまうようなことも起こるわけだが、常に意欲的プログラムで知られるシネマヴェーラ渋谷の次々回の特集『ナインティーズ! 廃墟としての90年代』は、タイトルが発表された段階から、胸が高まる思いだった。上映作品発表をひたすら待っていたが、今日シネマヴェーラへ行ったら既にチラシが刷り上っていた。ネットでも既に『魅惑の名画座』で紹介されていたので、そちらを参照してもらえれば良いが、実に素晴らしいラインナップだ。

《ナインティーズ! 廃墟としての90年代》

2/17(土)「カナリア」「ディスタンス」
塩田明彦監督、是枝裕和監督によるトークショーあり。
2/18(日)「機動警察パトレイバー2 the Movie」「夜がまた来る」
2/19(月)「M/OTHER」「渇きの街」
2/20(火)「MIDORI」「カナリア
2/21(水)「ディスタンス」「渇きの街」
2/22(木)「機動警察パトレイバー2 the Movie」「M/OTHER」
2/23(金)「MIDORI」「夜がまた来る」

2/24(土)「ラブ&ポップ」「リリイ・シュシュのすべて
2/25(日)「日本製少年」「冷血の罠
2/26(月)「鬼火」「突然炎のごとく
2/27(火)「BeRLin」「日本製少年」
2/28(水)「ラブ&ポップ」「突然炎のごとく
3/01(木)「リリイ・シュシュのすべて」「BeRLin」
3/02(金)「冷血の罠」「鬼火」

3/03(土)「PERPECT BLUE」「マークスの山
3/04(日)「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 DEATH(TRUE)2/Air/まごころを、君に
3/05(月)「理由」「雷魚
3/06(火)「バウンスko GALS」「マークスの山
3/07(水)「PERPECT BLUE」「理由」
3/08(木)「バウンスko GALS」「雷魚
3/09(金)「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 DEATH(TRUE)2/Air/まごころを、君に


「魅惑の名画座・情報室」より引用
http://www.h2.dion.ne.jp/~mizurin/joho.htm
http://www.cinemavera.com/

カナリア [DVD] DISTANCE(ディスタンス) [DVD] 機動警察パトレイバー2 the Movie [DVD] 夜がまた来る デラックス版 [DVD] M/OTHER [VHS] 渇きの街 [DVD] ラブ&ポップ 特別版 [DVD] ラブ&ポップ SR版 [DVD] リリイ・シュシュのすべて 通常版 [DVD] 日本製少年 [DVD] BeRLiN ベルリン [DVD] 冷血の罠 [VHS] 鬼火 [DVD] PERFECT BLUE [DVD] マークスの山 [VHS] 理由 特別版 [DVD] バウンス ko GALS [DVD] 雷魚 [DVD] 劇場版 NEON GENESIS EVANGELION - DEATH (TRUE) 2 : Air / まごころを君に [DVD]

 コレをラインナップに入れなければ、シネマヴェーラ渋谷のプログラミングセンスはゼロだと言おうと思っていた、 個人的に90年代を代表する日本映画だと思っている『ラブ&ポップ』が入っているのが大きな喜びだ。ただし、あくまでフィルム上映されるという条件付きでのハナシで、シネマヴェーラは事前に断りを入れるとは言え、プリントの都合がつかない作品をデジベで上映することもあるので、今回の特集でも無いとも限らない。殊に『ラブ&ポップ』のような元がDV撮影で、DVDもキネコをテレシネした版とDV版が出ているようなものになると、プロジェクター上映した方が良いような誤った判断がされかねない。
 『ラブ&ポップ』自体の同時代の評価は、そう高くもなかった。エヴァに踊っていたヒトが継続して誉めたのと、それ以外が少々誉めたぐらいか。
 同時代性に極めて寄りかかって作られていたせいもあって、表面的な古色化は早く、単なるエヴァの副産物としか現在からは観られていない嫌いがある。
 評価を下げているもう一つの原因は、一般のレンタル店に出回っているビデオやテレビ放送される際に使われるマスターが、DV版であることにもあるように思う。ビデオ版、LD版、再発売されたサウンドリニューアル版として出たDVDは全てDV版で、唯一最初に出たDVDのみがキネコ版をテレシネしている。
 見比べれば分かることだが、同じ作品でありながら、両者は大きく印象が異なる。勿論、DVで撮影されているのだから、そのままの画質で見れる方が良いように思える。しかし、この作品は、あの画質が著しく劣化するキネコの悪い画質の持つ力が随分大きいように思う。
 本当は、監督の庵野秀明がキネコ版こそ『ラブ&ポップ』であるとでも言ってくれれば浸透するのだろうが、本人は劇場公開なんてのはイベントでしかないので、テレビで観れば良いなどと言ったり、前述したソフト化のマスター使用にDV版を主にしたりと、自分の思いとは裏腹ではあるが、近年の映画誌が、やたらとインタビューに頁を割いて、そこで語られる作者からの正解を尊重するあまり、作者の意図とは異なる意見が飛び交うという状況は少なくなった。監督がそう言っているから、こうなんだと結論づける余り、映画批評がつまらなくなった。結局、作者はこう言ってるという引用が大半を占める批評になってきた。
 庵野秀明がDV版がベストと言おうが、『ラブ&ポップ』はキネコされたフィルム版こそが素晴らしいのであると自分は断言したい。あのラストにおけるビデオとフィルムの対比の凄さや、この作品以前にもビデオ撮影でキネコされて上映される作品はあったとは言え、業務用ではなく当時発売間もない民生のデジタルビデオカメラ(この作品に使用されているのはVX-1000とTRV-7)を使用して映画を撮るという行為が革命的だった。自身のこととして考えても、当時自分が初めて買ったDVがTRV-7だったので、自分の持っているカメラでも劇場公開映画が撮れてしまうんだと、映画が一気に身近に思えた。
 VX-1000を使用した日本初の作品は、この作品ではなく今関あきよしの『ルーズ・ソックス』だったような記憶があるが、低予算で上げる為に使用しただけの、特にVX-1000だからどうこうという作品ではなかった。
 『ラブ&ポップ』は、テレ東深夜番組枠で放送する、この作品を原作にしたフェイクドキュメントが当初の予定だったものの、当時は非常に注目されていた監督だったので、予算が一億ほど集まってしまい映画にするということになった。
 内容は、庵野エヴァの追い込みの最中に援交にハマり、女子高生に過剰な行為を行う様をフェイクドキュメントで描き、そのせいで劇場版エヴァは春の上映に間に合わなかった、という内容だったそうで、薩川昭雄による検討稿も上がっていたという。しかし、その時期公開された『由美香』を観た庵野は自分にはここまで自身をさらけ出せないと悟り、原作に近い通常の劇映画の方向へとシフトしていった。
 そー言えば、先日DVDで観た『由美香』のオーディオコメンタリーで、平野勝之はこの当時、庵野が平野に「参りました。僕にはあんなこと出来ません」と言うので、詳しく聞いてみると、例の公道で平野がチンコ出してるシーンのことを言っていると知り、その程度のことで言っているのかと、ちっとも嬉しくなかったと術壊していた。この辺りのニュアンスにこの10年の庵野の凋落ぶりが伺えて楽しいのだが。
 プロデューサーサイドとしては、最後までせめてスーパー16をとフィルムに固執したようだが、庵野はどうしても民生のDVで撮ることを譲らなかった。作品を観れば分かる通り、民生のDVを使わなければ撮れないものになっている。以降、現在に到るまで、この10年でDV撮影の作品は増えたが、ドキュメンタリーの流れを変えた以外に、劇映画で予算以外の必然性を持って使用された例は、本作以外に殆ど見当たらない。
 『ラブ&ポップ』は、内容、方法論も含めて、フィルム、ビデオ、DVで映画を撮るということに到るまで示唆に富んだ秀作なので、フィルム版で上映されるなら、是非再見したい。自分は、テアトル梅田で2回続けて観、2ヵ月後に姫路で劇エヴァの2本立てのリヴァイバル+『ラブ&ポップ』を夫々2回続けて観て、更に『アミスタッド』を観るという人間が1日で観る許容数を明らかに越えているような真似をしたこともあるが、10年を経て劇場でまた体感できるのなら是非またしたいし、何より渋谷で観るという行為をしたことがないので、『バウンズko GALS』共々、渋谷で観れるというのは良いんじゃないかとオノボリ系発想をしてしまう。

   その他の上映作品にも愛着の多い作品が多く、又、この2本立ての組み合わせが凄いというか呆気にとられる。
 もっとベタに『バウンズko GALS』と『ラブ&ポップ』を2本立てでやってくれと思ったりもするが、それにしても攻撃的組み合わせだ。『機動警察パトレイバー2 the Movie』と『夜がまた来る』を一緒にやるかと。自分は双方好きだが、コレを2本同時に語れる知り合いはかなり少ない。パト2目当てで来たヒトが何の気なしに『夜がまた来る』を観て石井隆にハマってくれれば良いと思うが、こういう組み合わせの場合、これまでの例では目当ての作品を観終わると出てしまうようだ。別日のパト2と『M/OTHER』というのも凄い。殆ど啓蒙活動だ、これは。絶対パト2と『PERPECT BLUE』の2本立てにはしてやんねーぞ、みたいな挑戦的な雰囲気が漂う。
 『ラブ&ポップ』と『リリイ・シュシュのすべて』とか、『冷血の罠』と『鬼火』とか、絶妙な並びもあるのだが、『バウンズko GALS』と『雷魚』みたいな、上映の食い合わせは悪いけど作品は両方好きよと、19歳の俺は言ったと懐かしく思い出す作品もある。『雷魚』で初めて瀬々敬久の作品を観て、名を覚えた。
 殆どの作品をビデオかDVDで持っているが、毎日のように通いたいとさえ思う。