『映画監督・田中登の世界』

19)『映画監督・田中登の世界』(Hotwax責任編集) シンコーミュージック・エンタテイメント 

Hotwax責任編集 映画監督・田中登の世界
 先般発売されたパンフレットに続いて、田中登の最後のロングインタビューを収録したことが後世に記録されるであろう書。田中登のインタビューは幾つかあれども、扱いは小さいものが多いので、細部まで収録した書が出たことは喜ばしい。
 ただし、せっかくの書でありながらフィルモグラフィーの解説には一部疑問を覚えた。これは、単に書き手が10年後、20年後まで参照されるということを前提にして書いているか否かを個人的判断基準にしているだけだが、現在観ることが出来ない作品には、公開時かプリントがあった頃に観たきりと思われる印象評の形骸化したものが平然と載っていたり、批評性も資料性も皆無な自身の思いだけを最上のモノとして綴ったオナニー的な気持ちの悪い作品解説が載っているのが不愉快だと思ったが、高崎俊夫藤木TDC真魚八重子といった人たちは、明らかに10年後、20年後まで田中登といえばこの書が筆頭に参照されることを見越した資料性、批評性を見極めた上で書いていると思ったが、そういった個人的判断基準を本書に適用して良いかは、フィルムアート社やワイズ出版が出したワケではないから、それが当たり前だと言う風に言ってしまえるものではないのかもしれないが、『Hotwax』誌自体はとても好きだっただけに、単行本化されてロングインタビュー、テレビドラマも含めた全フィルモグラフィーの掲載といった画期的な後々まで参照され続けるのは確実な書だけに、作品解説にはもっと繊細さがあって然るべきだったのではないか。単に好きというだけで、思いがあるというだけで書いてしまっては、雑誌、ムック本の類であれば気にならないことでも、今後そうそう各社から田中登本が出るとは思えないだけに、気になってしまう。