『MW-ムウ-』(☆☆★★)

(152)『MW-ムウ-
☆☆★★ 新宿バルト9
監督/岩本仁志  脚本/大石哲也 木村春夫  出演/玉木宏 山田孝之 石橋凌
2009年 日本 カラー 130分

 手塚治虫の原作は随分昔に一度読んだことがあるきりなので、実写映画化の前に読み直そうと思いつつ果たされないままに観ることになった。だから原作との比較はそれほど五月蠅く言うこともなく、ただ、魅力的なテロ映画になっていれば幸いであるという思いをわずかに持っていたくらいか。
 驚いたのは冒頭十数分に渡るタイでロケされた誘拐犯とのチェイスシーンで、設定も何も分からないままに兎に角誘拐犯からの指示にそってあちこち走らされた挙句に現金を奪われ、石橋凌演じる刑事が単身犯人を追う派手なアクションが展開するのだが、これが異様に長い。しかも国内ロケでは到底不可能な市街地を使ったカーチェイスなどが展開して、真っ当にカットも割って、迫力がでるべく工夫してあるのだが、何故かサスペンスが全く生まれない。ここまで手を尽くしているにも関わらずそれが一切無いのはどう考えてもおかしいのだが、その理由を考えながら観ていたが、結局はアクションもどき、サスペンスもどきでしかなく、表層的な空滑りを十数分も見せていてはつまらないに決まっていて、相当な苦痛だった。おそらく監督は映画を撮るならこういったシーンが撮りたかったのだろう。だからアヴァンタイトル数分で処理できるような本筋には関係しない部分にも関わらず海外ロケということもあり、作品全体のバランスを崩そうとも入れたかったのだろう。未だに金をかけたシーンはここぞと長く見せたり、海外ロケシーンをここぞと長く見せるといった日本映画の貧相な発想は健在で、『人間の証明』のファッションショーのシーンで、日本人はこんなの見たことないんだから長く見せろという発想の時代と何ら変わっていない。
 冒頭からこの調子なので頗る不安になりながら観ていくと、主役の玉木宏の演技というのがどうにも異様で、ひょっとして漫画原作であることを唯一意識した演技をしているのだろうかと思いながら観ていたが、どうやら“悪”を演じようとしているようだと察すると悲しくなってきたが、何も年齢が一歳上のヒース・レジャー並みの“悪”を求める気は無いにしても、あまりにも表情にも仕草にも“悪”から程遠いではないか。
 同時間に二人以上の人間が行動すると、一方が何かしている間もう一方が何をしているか、どういう形で移動したかが途端に不明になるとか、石田ゆり子が情報源の手帳を持っていると山田孝之が玉木には見せない方が良いと忠告するにも関わらず直後に玉木が大事そうにしているな、寄こせと言うと何の抵抗もなくスンナリ渡すのはどうなんだとか、せめて思わず渡してしまうくらいの威圧感が無いと成立しないだろうとか、終盤の東京上空を低空飛行する米軍機とヘリのCGが余りにもチャチだとか言い出せばキリがないが、オウム事件911以降の映画であることの意識が製作者にどれだけあるのだろうか。現実が虚構を遥かに凌駕している以上、それに対して映画がどうあるべきかに向き合うべきだったのではないか。既に現実はそれから14年と8年が経過しているのだから、現在こういった物語を敢えて作るからにはそれなりの覚悟が必要ではないか。では、それはどうすれば良いのかと問われれば、『MW』の実写映画化なんかやらないことだとしか言えないのが虚しいが、玉木宏に変わって配置できる相応しい役者もこれといって思いつかないのだから仕方ない。ラストの終焉かと思いきや、というお約束は良いにしても、そのお約束を満たすだけの予算も演出も尽きたのか、驚くほど酷く安っぽいものを見せられてより印象が悪くなった。