『KIKOE』(☆☆☆★)

(176)『KIKOE』
☆☆☆★ ユーロスペース
監督/岩井主税  出演/大友良英 菊池成孔 大谷能生 ヤン・シュヴァンクマイエル 宇波拓 飯村隆彦 足立正生 ジョナス・メカス ジム・オルーク
2009年 日本 カラー 99分


 しばらく映画館から遠ざかり、また新作と旧作を並行して観ていくのを身上としていたのに、今年はそのバランスも崩れ旧作に偏りがちだった。映画館の復帰への肩慣らし的にもうすぐ上映の終わる本作に駆け付けたが、その豊饒さに満ちた音と画にただ惹かれた。それが何なのかを言葉にして模索すべきだろうし、しばらく考えたものの思いつかない。
 大友良英を聴くのは映画を通してということが最も多く、勿論ブログを読んだり、その書籍版を購入して読むことはしているけれども、自分にとっては足立正生の『幽閉者 テロリスト』の音楽担当が最も接近した時だった。90年代から07年までの大友良英の記録映像の中に足立正生が登場する。それによって自分がこの作品を観るのは必然となり、足立正生出演最新作として接することになった。
 音楽家だけでなく、映画監督、批評家も含めた多様な人々の映像のコラージュによってこの作品は成立しているが、特に必然性も感じない順序で繋がれているように思える映像、インタビューの抜粋は一見退屈なものでしかないにもかかわらず、何故か飽きない。次々と登場する人物は有名人ばかりとは言え、テロップすら一度も出さないので、あれ誰だっけということも何度かあるのだが(観客全員が足立正生佐々木敦の顔を判別できるわけないと思う)、そんな不親切な作りであっても作品の惹きつかせる力は衰えない。それが何かを考えているがまた冒頭に戻ってしまい、それを言葉にする手段を思いつかない。