新宿バルト9で深夜、映写機故障に遭遇。その時……。

 映画館に上映事故はつきものだ。フィルムがちぎれる、ピンボケする、ロールを掛け違える、音が出ない、映写機が故障する等々、映画館に通いつめればそういった事故に遭遇する機会はそう珍しいものではない。だから、そういった事故に遭遇しただけで映画館を責めるのは愚の骨頂で、重要なのはその事故に対して映画館側がどう対応したかだ。
 本日、新宿バルト9の午前2時20分の回で『サマーウォーズ』を観ようとした。深夜である。終映予定時刻は午前4時25分、つまり始発で帰宅しようという算段でこの回を観に行ったのだ。自分はその前に0時から三回目の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』を観ており、1時55分に上映が終わった後、『サマーウォーズ』の上映館であるシアター6のあるフロアに移動した。すると、シアター6の出口に前の回の観客が列を作って並んでおり、従業員が何やら対応している。最初は景品交換でもしているのかと思ったが、よく見ると現金を渡している。どうやら前の回で上映事故があったらしく返金しているらしいと察した。そのせいで、普段なら十分前には次の回の観客の入場が可能になるが上映開始五分前になっても案内がない。既にフロアには次の回を待つ観客が集まっており、返金の様子を遠巻きに見ている。
 上映開始時刻が迫った頃、従業員が次の回を待つ観客に集まるように呼びかけた。そして、映写機の故障により次の回の上映を中止する。ついては9階の受付で返金手続きを取ってくれと言う。従業員は詳細を付け加えて更に言う。映写機が故障しているが担当者に連絡が取れて現在向かっているものの復旧のメドが立たないので、待ってもらっても良いが上映を再開できる保障はない。
 これには腹が立った。上映が中止なのか、再開可能なのか何とも煮え切らない物言いではないか。従業員に、映写機故障がいつ起こったのか問うと前の回だという。次の回の観客は午前2時頃から自分も含めてフロアに集まっていたにも係わらず、上映開始時間まで何も報されることなく待っていたのだ。次に『サマーウォーズ』がフィルム上映かデジタル上映かを問うと、フィルム上映だと言う。そうなると、デジタルの場合はテープが云々やシステムの起動云々と逃げられることがあるが、フィルム上映ならば9つも劇場がある内の1館で上映不可となっても別の劇場に差し替えは容易い筈だ。そう言うと、現在他の劇場8館全てが上映中であり、差し替えは不可能だと言う。本当にそうか?とねじ込むと従業員は無線で確認を取っていたが、1分も経たない内にシアター3が2時50分で上映を終了するのでそこで3時頃からなら上映可能だと言う。
 結果、3時10分より劇場を変えて無事『サマーウォーズ』は上映され、座席変更手続きの際に招待券を配布したり、上映前に劇場側から謝罪があったりと、上映が決まってからのバルト9の対応は申し分なかった(招待券も出さなければ、謝罪すらない劇場だってあるのだ)が、劇場変更決定は映写機トラブルが発生し、上映続行不可能と判断した段階でなされなければならなかったのではないか。何せ、上映中止の説明を受けて帰ってしまった観客もいたのだ。3時10分からの上映には、途中で上映中止となった前回の観客も入場可能にしていただけに、その判断が早ければと思わずにはいられない。これが昼間ならばその後にも上映が控えているだけに、いくらシネコンと言えどもそう自由に劇場を変えて上映することもままならないだろうが、深夜の最終回でその後には上映作品がなく、また観客の大半は始発まで動きようがないことを考えればもっと繊細な対応があって然るべきだった筈だ。 
 かつて、現在の角川シネマやシネマート新宿が入っている建物と同じ場所にあったATGの上映館、新宿文化で若松孝二らが『赤軍―P.F.L.P. 世界戦争宣言』を上映しようとした際、初日に圧力によって上映中止となった。若松は直ぐに現在のバルト9の隣に在った京王名画座の支配人に談判して上映を承諾させ、新宿文化に集まった観客を京王名画座まで移動させて上映に漕ぎ着けたというエピソードがある。観客が居る以上、上映のための最大限の努力が成されるべきだ。その上で不可能なら不可能で構わない。しかし、客に他の劇場で上映ができるだろうと言われてから確認を取っているようでは、言われなければそのまま何の努力もなく上映中止にしてしまうつもりだったのかと言われても仕方無いだろう。
 複数のスクリーンを有し、観客の入りによって大劇場から小劇場へと変更を細かく行うシネコンが、こういった事態が起こったときにその特性が活かされてないのは残念だ。新宿バルト9は昼間や祝日の混雑ぶりには辟易して近づかないようにしているが、平日でも朝まで上映してくれているのは有難く思っている。それだけに、こういった事故が起こった際には柔軟で手際の良い対応を期待したい。深夜の2時半に映画館から放り出されたら困るよ、やっぱり。