映画

1)ドッグヴィル〔DOGVILLE〕 (シネマライズ) ☆☆☆☆★ 

2003年 デンマーク カラー シネマスコープ 177分
監督/ラース・フォン・トリアー  出演/ニコール・キッドマン
ポール・ベタニー クロエ・セヴィニー


 これは10年に一本の傑作と言って良い。本年度ベスト1は間違いない。
 この作品でまず目を引くのは抽象的セット、即ち村をスタジオの簡素なセットとも言えないラインで境界が分けられただけの道や家々で物語が進むことだが、こんなものは演劇では常套手段であるし、映画においても木下恵介の「楢山節考」や、もっと本作の方法論に近い大島渚の「絞死刑」で既にやったことだ。勿論、ラース・フォントリアは、こんなこれ見よがしな方法論を売りにしたいわけではなく、敢えてこの手法を取ったわけだが最後まで観ると簡明にそれがわかる。
 3時間に及ぶ上映時間だが、全く退屈しない。兎に角ニコール・キッドマンが美しい。このヒトの出てる作品は割合観ているが「アイズ・ワイド・シャット」以降、女優として格段に成長したとは思うものの、小林信彦みたく、彼女を見るという目的で作品を観ることもなかったし、又美しいとも思わなかった。典型的なデカイ外人の姉ちゃんという扱いに近かった。ところがこの作品でのキッドマンの美しさには目を見張った。屈みこむ姿勢、荷台に横たわる姿勢、全てが美しい。
 この作品はある意味「八つ墓村」と酷似していて、排他的農村に異物が混入し、村人との交流を図り、うまく行き始めた途端、村人の拒絶、排斥、そして復讐は「八つ墓村」における多治見要蔵の32人殺し。「スリーピー・ホロウ」と横溝作品の類似を考えた時があったが本作との類似も、横溝がどうこうと言うハナシではなく、物語世界における根源的構成を本作が持っているからだろう。
 「ダンサー・イン・ザ・ダーク」よりも遥かに爽快感があるのはラストの皆殺しシーンがあるからだが、唯一納得し難いのがキッドマンの正体で、あれだけ謎を見せておいた割には単純なオチで、弱い。殊に父親との口論などというのは、あやうく今まで観てきたのは何だったのかと腰砕けになりそうだったが、かろうじて持ったというところか。この作品の製作裏は知らないが、ラストが決まっていなかったのではないか。「式日」のラストの母親との対話同様な結果に行き着いていまっている気がする。
 今回もDV撮影で行われているが、ドグマ95方式ではなくFIXを基調にしたショットで構成されていたので、個人的には非常に観易かった。