映画

1)「キル・ビル Vol.2 ザ・ラブ・ストーリー」〔KILL BILL Vol.2〕 (Tジョイ大泉) ☆☆☆☆ 

2004年 アメリカ カラー シネマスコープ Miramax 138分
監督/クエンティン・タランティーノ  出演/ユマ・サーマン デヴィッド・キャラダイン ダリル・ハンナ


 規則的に映画を観続けるのを自分に課しているので、特に特定の作品を心待ちにするということはめったにない。そういう意味でこの作品は久々に初日の初回に駆けつけざるをえないと思わせてくれる娯楽作品だ。
 元々1本の作品で予定されていたものを2本に分離して公開しているので、続編映画として観るのが正しいかどうか。とは言えタランティーノはVol.1完成後に本作の編集に入っているわけで、単純に分割公開作品として接するわけにはいかない。
 この作品はもう一度観るつもりなので、とりあえずの初見の印象だが、Vol.2は正に映画であった。世間的にはVol.1程の面白さがないと言うが、あれはあくまで緩急の急であって全編クライマックス的に構成された映画の前半でしかなく、だからこそ、かくし芸大会みたいな装いで祝祭的に楽しめたわけだが、あれだけでは映画とは言えない。
 無敵を誇った前作から一転、本作では開巻早々ユマ・サーマンが危機に瀕し、棺桶に入れられ生き埋められるという魅力的シチュエーションとなる。このシークエンスにおける暗闇が占める時間の長さ、覆い被さる土の音の演出が突出しており、ジャック・ベッケルの「穴」における音の演出と双璧をなす。棺の中のユマの回想で白蓮寺での修行時代が描かれるが、これはもうタランティーノの映画への愛情溢れるシークエンスが続き、こちらはそれをひたすら楽しむのみだ。回想から戻っての、棺からの脱出、ダリル・ハンナとの室内格闘、ピーコが観たら激怒しそうな結末でハンナを倒すまでのアクション演出はタランティーノが独創的な映画作家であることを示す。そしてビルに会いに行き、ラストへ到るビルとのやりとりは、ひたすら素晴らしい。Vol.1の過剰なサービスはあくまで前半の盛り上げであって、やはりラストはタランティーノらしく渋く閉めている。
 Vol.2によって「キル・ビル」はプログラムピクチャーへのオマージュに満ちた作家による独創的作品の全貌を見せて終わった。
 「恨み節」が何故かスーパーで出ながら流れるエンドロールを観ながら、タランティーノが「ジャッキー・ブラウン」の次に「キル・ビル」を作ったことの賢明さは、次回の戦争映画ともヴァイオレンス映画とも言われる作品が完成した時、より明白になっているだろうと思う。