映画

1)「クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち 」
                〔LES RIVIERES POURPRES 2 LES ANGES DE 〕(九段会館) ☆☆☆ 

2003年 フランス レジェンド・エンタープライゼス カラー シネマスコープ 100分
監督/オリヴィエ・ダーン 出演/ジャン・レノ ブノワ・マジメル クリストファー・リー カミーユ・ナッタ
クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち デラックス版 [DVD]
 前作は、「憎しみ」「アサシンズ」のマチュー・カソヴィッツが監督しているので観に行ったが、フランス映画が無理してハリウッドスタイルのサイコサスペンスを作って失敗した凡作で、御都合主義にも程があるイージーな展開に唖然とさせられた。
 しかし、ジャン・レノの人気もあって本国以外にも日本でクリーンヒットしたせいもあり、続編が登場した。既に第三作も決定しているらしく、フランスの若手監督をハリウッドへ売り込むシリーズとして定着させたいらしい。
 今回の目玉は脚本がリュック・ベッソンであるということで、最近のベッソンは堕落したので全く期待していなかったが、案の定凡作であった。
 前作との繋がりはレノのみで、相方の若手刑事もヴァンサン・カッセルからブノワ・マジメルに変わっている。タイトルも既に関係なくなっているので2というのもおかしいのだが、その点はまあ。
 見所はヤマカシ的躍動を見せる黒衣装の男達で、その一点のみ映画的躍動がスクリーンから溢れ出ている。とは言え長々と見せすぎ。
 事件そのものは、表層的見世物性を優先した為に相変わらず肝心の謎解きが放置されるいい加減さで、今更どーこー言う気になれず。
 車が爆発するシークエンスでブノワ・マジメルがレノを事前に助けることができた謎や、超人的躍動の秘密が凄い流され方をしていることや、ラストのオチがまんま全員集合の如きで苦笑させられる等、せめてプログラムピクチャーとしての最低限の機能を果たして欲しいと思うのだが。
 別に無理してハリウッド志向を打ち出す必要はなくフランスの土俗性に着を得ているのだから「薔薇の名前」の様なテイストのモノに仕上げた方が遥かに面白いと思うのだが。アメリカ映画は、どーこー言われつつも、もっと脚本を煮詰めている。
 5月29日より全国東宝洋画系公開。


2)「日本の熱い日々 謀殺・下山事件 」(VIDEO) ☆☆ 

1981年 日本 俳優座映画放送 モノクロ スタンダード 115分
監督/熊井啓 出演/仲代達矢 山本圭 隆大介 井川比佐志
日本の熱い日々 謀殺・下山事件 [DVD] 
 日本のオリバー・ストーンこと熊井啓下山事件を正面から映画化した本作は、映画以前の愚作である。
 熊井啓の作品はデビュー作の「帝銀事件 死刑囚」、近作の「海と毒薬」「日本の黒い夏 冤罪 」「海は見ていた」しか観ていないが、「海と毒薬」が傑作、「帝銀事件 死刑囚」が佳作だとは思ったものの、「日本の黒い夏 冤罪 」「海は見ていた」が随分な凡作で、これは老いによる質低下だと思っていた。
 下山事件については、今年に入ってから森達也の「下山事件」を皮切りに矢田喜美雄の「謀殺・下山事件」、松本清張の「日本の黒い霧」と読んだので、それなりに認識はできた。
 それを熊井啓が映画化したのだから、俄かに期待してしまうのだが、一体これは映画と呼べるものなのだろうか?余りにも非映画的装飾によって形成されていることに驚き、呆れた。
 比較すべきはこの作品の後に製作された「JFK」だろうが、開巻のニュース映像の流用から時代感、空気感を醸し出し、本篇に緩やかに誘い入れる手法は共通しているが、編集、構成共にオリバー・ストーンには適わない。何せ本篇に入った途端、弛緩しきったショットが全編に渡って続き、とても映画とはよべない。果たして自分は映画を見ているのか、事件の再現ドキュメンタリー内のドラマパートを見せられているのかと思わせた。
 脚本は菊島隆三だし、撮影も今井正の名作を担った中尾駿一郎である。美術は木村威夫、照明は岡本健一という日本映画史の極人達の手によってこのような愚作が作られたことが腹立たしい。
 構成の悪さにも驚く程で、本当に「野良犬」や「天国と地獄」の菊島隆三が書いたのだろうか。「JFK」ならば、別に大統領側からの描写がなくとも例のテキサスの教科書ビル周りの記録映像と再現映像が作品の根幹を担うが、下山事件は目撃情報も信憑性に疑問があるのだから、開巻に下山総裁の失踪に到るまでの流れ、歴史的背景をもっと示さなければ、一般の観客の理解を得ることは難しい上に作品内へ招き入れることができない。
 主人公である仲代が演じる新聞記者も原作者である矢田喜美雄がモデルになっているが、実在の人物のせいかキャラクターが単なる一本調子にしか描かれておらず、「帝銀事件 死刑囚」で、つまらない家庭内描写を入れた反省か、私的な部分は全て省略してせいで、観客が感情を投入しづらい人物になってしまっている。
 更に酷いのが、よもや公開時ですら時代遅れなオーバーな仲代の新劇的演技で、主役がこんな調子だから他の連中も同様で、これを放置する監督の品性を疑う。
 モノクロの50年代的な粒子の粗い画調は良いが、肝心の中身がこれでは、まったくの無駄。
 森達也は劇映画で自らの「下山事件」を劇映画化してはどうだろうか?