映画

1)「下妻物語 」(ワーナーマイカル板橋) ☆☆☆☆ 

2004年 日本 『下妻物語』製作委員会  カラー  ビスタ 102分
監督/中島哲也  出演/深田恭子 土屋アンナ 宮迫博之 篠原涼子
下妻物語 スタンダード・エディション [DVD] 
 現時点で既に今年の日本映画ベスト1作品と断言しても良い愛すべき傑作だ。
 中島哲也の作品は例に出すまでもないCMの諸作やTVドラマ「ママ新発売」や「ROLLING BOMBER SPECIAL」、「私立探偵 濱マイク ミスター・ニッポン〜21世紀の男〜」で観ていたが、劇映画は「バカヤロー!私、怒ってます 」は別にしても、「夏時間の大人たち」「Beautiful Sunday」は共に公開時に中島哲也の名前を意識しながら今に到る迄見逃したままだが劇映画ではCMやTVドラマの派出さを潜めた地味な作品を作っているという印象を持っていた。
 しかし、この作品はCMやTVドラマで見せてきた手法を駆使して作り上げている。最近は、ちょっとPVやOPやらCMで評価されたからと調子に乗って、何の計算もなく本篇をやって取り返しのつかない大失敗をやらかしている方が多いが、中島哲也は、この作品に到るまでショートフィルム、中篇、劇映画を2本手掛けて、十分映画を熟知した上で製作している。だから、当然の様に考えていたこの種の作品は成功しないというこちらの思い込みを心地良く打ち崩し珠玉の名編を撮り上げた。

 『ハニメーション』という恥ずべき造語を売りにしている駄作と同日に公開された本作は、その駄作に欠けていたものが全てある。ポップでキッチュで、アニメ的、漫画的表現を取り入れてエンターテインメントに仕上げる―ハニメの方もその様な作品を作ろうとしたらしいが、全てが空転していた。日本映画では無理なのか―という思いを抱いて5日もたたぬうちにそれらを巧みに成功させて、映画としても手堅く固めた傑作を観ることができた。中島哲也に「キューティーハニー」を撮って欲しかった。
 開巻の原付でぶっ飛ばす深田恭子が軽トラに跳ねられて宙に舞い、ハイスピードで彼女の装飾物と共に落下していくカットに深田のナレーションがかぶり、死を観客に想起させ、メインタイトルと共に「終」の文字が出る意外さ―成瀬巳喜男の「おかあさん」や「のび太の魔界大冒険」の中途で「終」の文字が出る意外さを超越した驚きと共に、一気に作品の世界観に魅了され、そこからは至福の102分が約束される。だから、その直後に時制を戻すというナレーションと共に、これから観客が目にするであろう映像が巻き戻されて、物語を展開させるに相応しい開巻へと戻ることなどもはや驚きはしない。むしろ胸の高鳴りを覚える。
 この種の作品で最も失敗しやすいのは、高いテンションを維持できずに映画の中盤でテンションが一気に降下してしまうことが危惧されるが、この作品は102分間全く退屈しなかった。又、装飾過多で、枝葉の描写に焦点が行ってしまい、根幹が行方不明になりがちだが、この作品は根幹に古典的な女性同士の友情物語を揺ぎ無く埋め込んであり、前半のクドカン的な装飾で作品世界を彩りつつ、後半に行くに従って、本来の友情物語が浮かび上がる計算が綿密になされている。
 ジャスコ、尼崎、ベルサーチ、代官山、水野晴郎といった記号が無数に散りばめられているが、それらが作品の中に品良く収まり、決して映画の流れを阻害せずに全てを小道具として有効に活用できている。
 ナレーションと科白を大量に用いて、空想が映像化されて劇中に飛び込んでくる手法は数多くの作品で使われているが、最近では「青春デンデケデケデケ」と「アメリ」が印象的だが、一方で、商標にピー音を被せる手法は「キルビル」でも人名に意図的に使われていたが、「ラブ&ポップ」の『キャプテンEO』に意図的にピー音を被せたのが最初ではなかったか?又、駅のホームでの桃子とイチゴの対話は、木造の駅舎からし岩井俊二の「打ち上げ花火、下から見るか、横からみるか?」の飯岡駅での山崎裕太と奥菜恵のシークエンスを想起する。
 デジタルによる加工で色を変えまくっているが、「CASSHERN」の如き意図を感じないような不要にギトギトのコントラストを上げた色にノイズを乗せたようなものではなく、桃子から見た世界を表現するツールとして巧みに使用されており、スタジオ4℃によるアニメ同様だ。
 深田恭子は、これまで違和感しか感じなかったが、生涯の代表作を得た。土屋アンナは、演技自体は不味いのだが、彼女の存在感が、この作品の世界に相応しく、レズ的ニオイを感じさせて良かった。それは、相変わらず怪演の樹木希林はどの作品でも巧みに自分の位置を見出すから驚かないにしても、役者栄えする篠原涼子をより巧く使い、宮迫博之小池栄子荒川良々を適材適所な位置に落とし込めていることに感心した。
 やや、重要な科白を聞かせる場所が、いかにもという感じで目立ってしまっていたので、これだけ映像で饒舌に語っているのだから科白を減らした方が良かったと思う。
 中島哲也には、次回作は5年と空けずに、どんどん撮ってほしいと思う。正にエンドレスで観ていたい秀作だった。