書籍

1)「映画狂人、語る。」(蓮實重彦) 河出書房新社  ☆☆☆☆ 

映画狂人、語る。 
 読了。対談篇となる本書に収録されている中で、野上照代伊丹十三との「黒澤明 あるいは旗への偏愛」は伊丹十三の「自分たちよ!」と「文藝別冊 黒澤明」で、金井美恵子との「淀川長治 継承不能な突然変異」は「文藝別冊 淀川長治」で夫々既に読んでいたが、他は全て初見。殊に、卒論で伊丹十三を書いた者としては「特権的映画学講座」が異様に面白かった。ぴあと蓮實の映画の仕事が映画史上の事件だと喝破する伊丹が、蓮實と共に自由自在に映画を語っていく心地良さ。この幸福な関係も伊丹が「お葬式」を撮り、試写を観終った蓮實が本人を前に『最低です』と呟いたことで終わってしまうのだが。「シネコン!」でもあの三人が蓮實の尻馬に乗って「お葬式」からして最低などと伊丹批判を繰り広げているが、このような言説が罷り通っている限り伊丹の再評価には時間がかかりそうだ。もっとも自分も「お葬式」と「マルサの女」以外は凡作ばかりと思っているのだが。とは言え伊丹十三を論じた本がないのは問題で、本人が亡き今となっては中島貞夫の如き全作を語ることもできないのだが、宮本信子が健在であることだし、前田米造、玉置泰、津川雅彦等にインタビューして伊丹十三を捉えなおすことができる思うのだが。