映画 「父と暮せば」

molmot2004-10-02

1)「父と暮せば」 (岩波ホール) ☆☆☆★ 

2004年 日本 衛星劇場バンダイビジュアル=日本スカイウェイ=テレビ東京メディアネット葵プロモーションパル企画 カラー ビスタ 100分 
監督/黒木和雄  出演/宮沢りえ 原田芳雄 浅野忠信

 黒木和雄の作品は、「とべない沈黙」「キューバの恋人」「日本の悪霊」「竜馬暗殺」「スリ」ぐらいしか観ていないが「竜馬暗殺」だけはDVDも購入して何度も観返している。
黒木和雄と言えば苦難の映画作家で、非常に寡作である。「スリ」をリハビリに「美しい夏キリシマ」から半年で(実際は完成から2年オクラになっていたわけだが)新作が公開されたのは非常に嬉しい。この勢いで山中貞雄の映画も完成させて欲しい。
 この作品は井上ひさし作の舞台の映画化作品だが、一見して判るように映画用の改変は内容に関してはほとんど行われていない。舞台と同じく家の中を主にして幽霊の父と娘の会話劇をそのまま踏襲している。それは良い。木村威夫による美術も素晴らしく、スタジオに建てられた半ば廃墟化した朽ちた家をリアリズムとファンタジーの中間に位置するこの作品に相応しいセットとして見せている。
 ある意味この作品は「スパイゾルゲ2」といった趣があり、デジタル技術が要所要所に使用されている。だからこそ、「梟の城」や「千年の恋 ひかる源氏物語」「スパイゾルゲ」でデジタル技術を多用した撮影の鈴木達夫が黒木作品では「夕暮まで」以来の参加となったのだろうが、「スパイゾルゲ」程、質を放置して無闇に使用はしていなかったが、果たして本作に必要だったのかと思えた。年配の監督に多いが、現在の未だ未成熟な技術で製作されたバレバレの3Dで再現された街並みを嬉々として使いすぎるのは考え物だ。OKを出すレヴェルが低すぎる。本作では特に家の描写との水と油っぷりは露骨で、原爆をさほど豊かではない予算でCGで再現する愚考を犯している。ラストの天井にパンアップすると原爆ドームというのも、こんなことができるならやってみるか程度の思いつきレヴェルで、作品の世界観を広げているようには思えなかった。
 重くならない、軽さのある作品だけに、宮沢りえ原田芳雄という組み合わせは悪くなかったが、その軽さが作品の印象を弱めた嫌いがあり、やはり舞台の方法論をここまで持ってくるなら全編セットで押し切り、浅野忠信も出さず、CGも一切使わない方が良かった。