映画 「恋の門」

molmot2004-10-12

1)「恋の門」 (シネリーヴル池袋) ☆☆☆☆

2004年 日本 アスミック・エース・エンターテインメント  カラー ビスタ 114分 
監督/松尾スズキ 出演/松田龍平 酒井若菜 松尾スズキ 塚本晋也 小島聖

 
 「下妻物語」「MIND GAME」に続く今年の日本映画の現在のところ三指に入る傑作。
 実際に観ないと判断できないこの手の作品の中でも本作は、特に期待していなかった。大人計画自体「生きてるし死んでるし」「マシーン日記」を観た程度且つ、松尾スズキにさほど興味があるわけではなく、三池崇史の作品に出演するのはまだしも、庵野秀明の「式日」「24人の加藤あい」「流星課長」「キューティー・ハニー」といった近作に参加しているが、いくら庵野の求めだとしても、アカラサマに作品の質が大幅に低下しており、これは庵野松尾スズキを筆頭に演劇畑と付き合い始めてからだ、という偏見すら抱き、だから松尾が調子に乗って映画を監督したところでここ一年程の蜷川幸雄ケラリーノ・サンドロヴィッチ以上の演劇出身監督特有の内容空疎な暴走になるに違いないと踏んでいたのだが、素晴らしく魅了される秀作を作り出した。もう一度観に行きたい。
 下妻に比べると、拙い部分や不要な部分もあるのだが、古典的ラブストーリーを過剰な映像で包み込み、それが下品になることなく成立している。
 開巻間もない、門のバイト先の描写、科白があまりにも演劇的要素に満ちているので、その非映画性に拒否反応が出そうになったが、以後は門と恋乃の描写になるのでそのようなこともなく、ひたすら心地良く観ていた。
 コスプレ、同人誌といった要素を不用意に出す危険は、当然松尾スズキだけにサブカル人脈を総動員して巧妙に回避し、節度ある描写として描かれており、個人的には非常にバランス良く描かれていると思った。
 ラストのミュージカルシーンが、「流星課長」の同様のシークエンスより遥かにマシとは言え、映画的魅力に欠けるとか、寿司の食い逃げからSM拷問されそうになるシーンが不要とか不満は僅かにあるが、それは是非もないことで、次回作で克服されることだろう。大体観る前は「茶の味」程度と踏んでいて、酒井若菜を観るだけで良いかとさえ思っていただけに、的確なショット、来るべき位置に来るカットが連なる心地さを味わえた。因みに本作、24Pと民生のDV(恐らくDVX100)を共に使用しているように見えたが、実際はどうなのだろう。
 松田龍平が「御法度」以来の代表作を得たと言って良く、髯を伸ばした彼の顔と動きが「陽炎座」の松田優作と恐ろしく重なり、黒木和雄鈴木清順は「竜馬暗殺2」や「陽炎座2」を作れなどと無茶は言わないから、どうか松田龍平で一本撮って欲しいと思わせる。
 酒井若菜が非常に良く、もうあまり他の作品に出て欲しくないと言っても良いぐらい
で、コノヒトも深田恭子同様合う役がないヒトで、非常に特殊な作品でのみ圧倒的力を発揮するタイプなので、この作品は彼女にとって生涯の代表作になった。
 詳細については、再見後書く。