映画 「モンスター」

molmot2004-11-10

1)「モンスター」〔MONSTER〕 (シネマライズ) ☆☆☆★★★

2003年 アメリカ/ドイツ カラー ビスタ 109分 
監督/パティ・ジェンキンス  出演/シャーリーズ・セロン クリスティーナ・リッチ ブルース・ダーン

 シャーリーズ・セロンなど、全く興味もなかったが、正に化けた。
 藤山直美の「顔」以来の醜女犯罪劇の秀作。まあ、素顔のままの藤山直美の方が凄いのだが。
 本当は、この手の女優としてイマイチな奴がセルフプロデュースしてインディーズの新人監督を起用して問題作を製作し、体当たりの演技でオスカーを強奪するというパターンが嫌いで、確かに映画として悪くはなかったり、その女優の芝居も悪くないのだが、あまりにも底が見え透くという印象をもたらす作品が多い中、この作品にもその気配が僅かに無いとも言い難いのだが、それでも紛れも無い秀作であり、一瞬たりとも弛緩することのない力作だった。
 実話を基にしているが、パティ・ジェンキンスの演出は正攻法の丹念な切返しと、主人公の娼婦がハイウェイで車を止めるべく立つ姿を何度となく捉えるロングショットの正確さで、109分という理想的尺の中で、やや一本調子ではあるものの、静謐に描き出す。とは言え、「16歳の合衆国」の様に技術もないのに、アレモコレモ取り込もうとして凡庸な作品に堕してしまう例もあり、欲張らず、主人公とクリスティーナ・リッチの表層的な部分のみを丹念に描いたのは正解である。
 観ればわかるように、モンスターとはシャーリーズ・セロンではなくクリスティーナ・リッチのことなのだが、二人の非常に我儘且つコミュニケーション能力に著しく欠ける様子がリッチの素晴らしい受けの演技もあって巧みに描き出されている。 
 この作品が素晴らしいのは、幾つもの図式製にはまりそうな要素がありながら、それをいとも簡単に擦り抜けているところで、主人公とリッチの関係が逆転し、リッチが指示者となり、その指示で主人公は殺人を重ねるという部分がドラマのコアであり、本作をメジャーで映画化したら、いかにもその部分を強調して描くところだろうが、パティ・ジェンキンスの演出は、やすしきよしの漫才がボケと突っ込みが交差し、役割分担という既成概念を打ち壊して新たな地平に立ったように、二人の関係の強弱をさらりと流して描いているのが好ましかった。