映画 「おそいひと」

molmot2004-11-21

第5回東京フィルメックス (有楽町朝日ホール) 

 前に松江哲明監督が座っていたので声を掛けて「アイデンティティ」についてや、ハマジムでの次回作の予定を聞くが、ハマジムではしばらく動きはない模様。

1)「おそいひと」 (有楽町朝日ホール) ☆☆★

2004年 日本 カラー ビスタ 83分 
監督/柴田剛  出演/住田雅清 とりいまり 堀田直蔵 白井純子

 柴田剛の作品は1997年の『スクリーンサーカス』で観た「ALL YOU CAN EAT」以来、卒業制作である「NN 八九一一零ニ」と観てきている。2001年には新作の「欲望といえる神々」の予告を観る機会もあったが、全く完成の報を耳にしなかった。柴田剛は編集能力が欠如しており、「NN」でも4人がかりでシークエンス毎に別々に担当して仕上げている。
「欲望といえる神々」が「おそいひと」と改題されて完成したと知ったのは今年に入ってからで、編集のクレジットを見れば案の定、柴田も含めた熊切和嘉や「パン屋の愛情」の監督である宮原啓輔等四人で編集している。
 はっきり言って柴田剛の作る作品は嫌いである。「ALL YOU CAN EAT」もそうだったが、「NN 八九一一零ニ」も、美術に見るべき点があるし、無視し難い作品ではあるのだが、これ見よがしにドギツイテーマを持ってきているだけで、(勿論それは一向に問題ないし、映画の見世物性は尊重されるべきものだ)自身の表現として捉え直せていない。
 柴田剛の新作が本物の障害者が人殺しをする映画と聞いて、いかにもと思ったが、観ればわかるように、本物の障害者を使ったということにしか柴田の興味はない。悔しいのは、柴田が映画的能力に全く恵まれていないなら、いくらでも罵倒するのだが、残念なことに彼はショットの繋ぎや空間把握力において突出したものがあり、「NN 八九一一零ニ」程の才は感じないにしても、DV撮りの自主映画である本作においてもその才は発揮されている。それは、凡庸な殺戮シーンなどではなく、町を電動車で彷徨するカットの積み重ねやラストシーンにおいて発揮されている。
 しかし、主人公が何故殺人を決意したかという肝心の箇所が弱く、安っぽい表現で誤魔化しているのは許し難い。又、彼の介護をやっていた女性の友人達が彼の生態をビデオで記録するのも全く不要で、83分しかないのに後半はひどく退屈した。
 本来障害者が出演しているというのは無関係で、犯罪映画としての魅力がなければ、ただの見世物映画にしかならない。大島渚の「白昼の通り魔」以上の作品を作るくらいの意気込みは欲しかった。
 結局は、本物の障害者が出ているということのみが売りの凡作である。
 タイトルの「おそいひと」とは、3年も編集を終えることのできない柴田剛自身のことだと決め付けてやりたいが、上映後の質疑応答で障害者介護についてどう思うかと質問され、逆にあなたはどう思うのかと質問し、自身の立場を明確にすることなく、何が言いたいのかわからなかったという声が挙がれば、では観に来るなと怒鳴り返す柴田剛は、何故はっきりと見世物映画として作ったと言わないのか。
 この作品は柴田の企画ではなく、原案の仲悟志が実際に阪神障害者解放センターの職員だったことからその上司であった住田雅清を起用して犯罪映画を作ろうとし、柴田に話を持ち掛けた。柴田自身の企画でないことが欠点にはならないが、自身の中で犯罪映画を作ろうとか、スプラッタを作ろうといった欲があれば良いのだが、単に本物の障害者を起用するということにしか興味が行っていないのは決定的に作品の弱さになっている。
 こんな凡庸な作品をフィルメックスで上映する必要があったのか。来年公開予定らしいが、公開劇場も決まっていない模様。「NN 八九一一零ニ」も、「どんてん生活」や「東京ハレンチ天国」「プウテンンノツキ」「悲しくなるほど不実な夜空に」等と共にテアトル梅田で凱旋上映される筈が、支配人に作品の趣旨が理解されず、PLANET STUDYO+1でひっそり上映されていたのを、わざわざ観に行ったものだが、東京では最近は自主映画用の上映スペースが異様に増えているので、そこらで上映されて総スカンをくらって終わるだろう。
 それにしても山下敦弘と同期で、第七藝術劇場で「どんてん生活」と「NN 八九一一零ニ」を2本立て上映をしていたのに、気付いてみれば山下は「ばかのハコ船」「リアリズムの宿」「くりいむレモン」「リンダリンダリンダ」と順調な道を歩んでいる。それに比して柴田剛は、と言いたいのではなく、山下程ではないにしても、柴田にも確実に能力があり彼がもっと精力的な姿勢を持てば期待しうるものが感じられるから惜しいと思う。大体、原爆の音を再現するとか言う能天気な映画と障害者の犯罪映画を撮るなんてのは、バカかそうでないかのどちらかでしかないのだから。