映画 「爛れた家「蔵六の奇病」より」「コラテラル」

molmot2004-12-01

「日野日出志のザ・ホラー 怪奇劇場〜第二夜〜」 
1)「爛れた家「蔵六の奇病」より」 (テアトル池袋) ★★

2004年 日本 カラー スタンダード   
監督/熊切和嘉  出演/森下サトシ 川口真理恵 三浦誠己 奥村公延

8mm作品「樹」以来「鬼畜大宴会」「空の穴」「アンテナ」と観て来ている熊切和嘉の作品だが、「最も危険な刑事まつり アカン刑事」「夏の花火編 −あさがお−」「冬の花火編 −妹の手料理−」を見逃したままなので、体系的なことは言えないが、「鬼畜大宴会」をピークにどんどん質が低下していっている。
 山下敦弘は熊切以上の資質があると「どんてん生活」を観た時に思ったが、事態はその通りに推移していっている。このままでは、よくある自主映画で注目されるも早熟な才能はそこでピークに達していた先人の例と同様の終焉を迎えてしまう。
 とは言え、今年は「アンテナ」「爛れた家「蔵六の奇病」より」「揮発性の女」と3本の新作が公開されるという非常に恵まれた状況に位置している熊切だが、山下も同様に「リアリズムの宿」「くりぃむレモン」「不祥の人」と3本の新作が公開された。
 よく大阪芸大出身の二人が中島貞夫の教えを請うていたことから、中島貞夫の作品との共通項や比較をしている熱心な方がおられるが、別に助監督として付いていたわけではなし、実際のところは卒業制作にあたってシナリオ面接、0号試写を観て講評を聞くぐらいで、作品の直接への影響は私見では、前述したプログラムピクチャーへの積極的な姿勢が共通するくらいで、むしろ作風が似ているのは「東京ハレンチ天国 さよならのブルース」の本田隆一で、「鉄砲玉の美学」など、本田がリメイクしても良いのではないか。
 本作は、日野日出志の「蔵六の奇病」の実写化作品で、日野日出志を偏愛し、殊に「蔵六の奇病」は素晴らしい名作だと思っているので、熊切和嘉で映画化と聞いた時は期待と不安が入り混じった思いに捉われた。不安は、このところの熊切の不振で、期待は「アンテナ」で垣間見せたホラー作家としての資質が、うまく発揮できるのではないかという思いがあったからだ。
 結果としては全くの凡作で、熊切和嘉の今後を期待しうるか甚だ疑問な作品だった。低予算のビデオ撮り作品であることは言い訳には全くならず(山下敦弘は低予算で同じくDVX100で撮影していると思われるが、素晴らしいショットに満ちた佳作「くりぃむレモン」を撮り上げた)、実際自分は通常の映画料金と同額を払い、700円もするペラペラのプログラムまで購入したのだ。
 原作の山奥の小屋に主人公を隔離し、ラストの沼の件が丸々切られていて、村人との対立という図式に変えられている。この改変で、既に原作の素晴らしさの大半が失われたこととなり、別に低予算でも可能なシチュエーションだけに改変に対する不信はあるが、その分暴徒と化した村人という素晴らしい設定を持ってきたのは流石で、ホラーの定石を熟知しており、映画てして素晴らしくなりうる要素を持っている。市川崑の「八つ墓村」で不満だったのは、この暴徒と化す村人の描写が不徹底だったことで、野村芳太郎版の「八つ墓村」の方がその点、ハッポンを中心とした村人達の狂気ぶりがよく出ていた。
 ところが、この作品は村人との対立を描こうとした気配はあるが、対立どころか村人の造形すらままならないような描き方で、呆れた。何故橋本清明の撮影にも係わらず、こんな粗雑なショットを撮ってしまうのか。
 兄妹の感情もぎこちなく何も描けていないし、父親と演技の不味さ、村人の不安感、排斥への高まりが皆無で、下手糞なバカ息子役の男の演技の拙さも合って対立項の不在など全く何もない映画なのである。唯一父親が主人公を殺そうとすべく斧を振り上げた瞬間、電球に当たって部屋が暗闇に包まれるショットのみ映画らしさがあった。
 腐る過程も良くはなく、これならば「腐る女」を撮った山下敦弘の方が遥かに優れた作品にしてくれたのではないか。

2)「コラテラル」[COLLATERAL] (Tジョイ大泉) ☆☆☆☆

2004年 アメリカ カラー パラマウント シネマスコープ 120分    
監督/マイケル・マン  出演/トム・クルーズ ジェイミー・フォックス ジェイダ・ピンケット=スミス マーク・ラファロ