映画 「血と骨」

molmot2004-12-26

1)「血と骨」 (新宿ピカデリー4) ☆☆☆★★

2004年 日本 カラー ビスタ ビーワイルド アーティストフィルム 東芝エンタテインメント 衛星劇場 朝日放送 ザナドゥー  144分 
監督/崔洋一   脚本/崔洋一 鄭義信  出演/ビートたけし 鈴木京香 新井浩文 田畑智子 オダギリジョー

  崔洋一の作品は「月はどっちに出ている」「犬、走る DOG RACE」「豚の報い」「刑務所の中」を劇場で観ただけで、とても熱心に観ているとは言えない。
 「血と骨」は、「月はどっちに出ている」の梁石日の原作を映画化したもので、原作を読んでいないので比較することができないが、力作と呼ぶに相応しい大作で、今や崔洋一がこういった文芸大作を撮る位置に来ているのかと感慨深くもなるが、考えてみれば深作欣二も亡くなり、大島渚も再起が難しく、篠田正浩も引退し、市川崑も小規模の時代劇を撮る程度の現在、監督協会理事長を崔洋一が勤める時代なのだから、北野武森田芳光大林宣彦あたりが巨匠となってしまうのだろうか。
 それはともかく「血と骨」は2時間24分、全く退屈させない力作で、今年は若手監督の小規模作品の秀作が多かったが、やはりこういった規模の作品が何本かないと映画の均衡が保たれない。
 この作品の最大の難点は短過ぎることで、本来5時間、せめて3時間半は必要な題材である。興行側の要請で無理矢理2時間半に収めてしまったことで、作品のバランスが崩れ、大河ドラマの表層をスルスルと滑走してしまった嫌いがある。2時間半に短縮する段階で、原作からの大幅な離脱と、エピソードの選択、人物の削除が必要になったのではないか。
 何より根幹を担うビートたけし鈴木京香が、どのように出会い、何故夫の暴力に耐え続けたかという点が不鮮明で、そこが理解できないから「顔」の藤山直美ゴジラと酷似していたように、ビートたけしをモンスターとして見るしかなかった。
 鈴木京香も本編中に描かれているように、主軸ではなく脇で描写を積み重ねることによって厚みを出す手法が取られているが、それは3時間半なり5時間をもってすれば重みも出たろうが、2時間半の中では中途半端になったとしか言えず、殊に後半の死に至る過程は描写不測だ。
 とは言え演出は素晴らしく、崔洋一は揺ぎない描写力で見せきる。ただし、この演出は3時間半向けの大河ドラマでこそ発揮できるもので、2時間半に尺が決まった段階で、演出に変化が必要だったと思う。
 美術も良く、CGとの共用も篠田正浩黒木和雄の如き暴走もなく、B29の描写あたりが際どかったが、抑制の効いた使用で、千日前通りの再現などに効果を上げていた。ただし、肝心の家の周りの家屋が安手のセットのような印象を持たせ、もう少し汚しをかけておけば良かったのにと思わせた。
 出演者では、ビートたけしが素晴らしく、未だに狂気を演じることができていることに驚くしかない。暴力と暴れる際の獰猛さに魅了された。気になっていた関西弁もさほど気にはならなかったが、それは周りを関西出身者で固めなかったからで、田畑智子濱田マリトミーズ雅などが一堂に会していたら、たけしの関西弁や喋るリズムに違和感が出ていたろうが、そういったシーンはなかったのが幸いした。しかし、老人メイクや、電柱に頭をぶつける描写などコントめいてしまい、メイクに一考があって然るべきだったと思う。
 それにしても、この役はビートたけしだからこそ成立したと言え、この作品の大部分はビートたけしの存在感と崔洋一の隙のない演出で成立している。その二つに依存し過ぎていることが、この作品の欠点となってしまった。