映画 「隠し剣 鬼の爪」

molmot2005-01-09

2)「隠し剣 鬼の爪」 (東劇) ☆☆☆★★

2004年 日本 カラー ビスタ 松竹 日本テレビ 住友商事 博報堂DYメディアパートナーズ 日販 衛星劇場 131分 
監督/山田洋次   脚本/山田洋次 朝間義隆  出演/永瀬正敏 松たか子 吉岡秀隆 小澤征悦 田畑智子


 山田洋次に対して映画以前の嫌悪は持っておらず、「ダウンタウンヒーローズ」ですら好きだ。
 「たそがれ清兵衛」は評価されすぎだと思うが、巨匠が気合を入れて作るとこんなに丁寧な映画になるという見本みたいなもので、北野武の「座頭市」などとは格が違うと思わせられた。
 「隠し剣 鬼の爪」に関しては、「たそがれ清兵衛」と酷似しているとか、平野秀明の如きカットを重ねたら同じシーンではないかなどという暴論まで出ていたが、これが全く同じに見えるなら、なんと大雑把な映画観なのだろうと思う。
 「たそがれ清兵衛」で嫌だったのは共産党代々木派山田イズムに満ちた貧乏賛美で、貧乏は仕方ないにしても身の回りまで不潔になる必要はないわけで、髭や髪ぐらいは貧乏でも揃えられる筈だ。
 その点本作は、前作の応用編的趣ではあるが、貧乏の強調が無い分、嫌悪感を抱くことは無かった。
 相変わらずディテールの生々しさや、空気感が素晴らしく、時代劇はこれぐらい丁寧に作ってこそ魅力があるものだと思うのだが、今回も「隠し剣鬼ノ爪」と「雪明り」の2作を併せることで映画にしているのだが、その併合脚色がうまくいっておらず、松たか子の件が中盤で飛んでしまう。
 前作よりも山田イズムに満ちた行動を取るので、山田作品らしさが出て、個人的には本作の方が好みではある。クライマックスで、山田作品では初めてといって良い残虐描写があるのも嬉しく、本来山田洋次というヒトは絶対に善人である筈がなく、戦争映画を撮って殺戮シーンを撮れば、かなり良いのではないかという予感があったので、その予感は裏切られなかったと思えた。
 恋愛描写が相変わらずで、こんな共産主義に満ちた恋愛描写など見ていられないが、山田洋次には絶対塚本晋也石井輝男が束になっても叶わない変態性がある筈で、残虐描写とSEX描写の濃厚な山田作品を期待したい。