映画 「ヴィタール」

molmot2005-01-19

6)「ヴィタール」 (アミューズCQN) ☆☆☆★★

2004年 日本 カラー アメリカンビスタ 海獣シアター 86分 
監督/塚本晋也   脚本/塚本晋也   出演/浅野忠信 柄本奈美 KIKI 岸部一徳 國村隼 串田和美 りりィ

 
 もはや黒沢清共々、何を撮っても傑作になってしまう領域に突入した塚本晋也の新作「ヴィタール」は、やはり素晴らしい秀作だ。
 塚本晋也が人体解剖のハナシをやると聞かされれば、16mmのモノクロで、粗い粒子に包まれたグロテスク且つ崇高な美しさに満ちた光と影の映画を想像してしまう。しかし、実際に目にした作品は、限りない美しさに満ちたガラス細工の様な作品だった。
 この作品が、これまでの塚本作品と大きく異なる点は、35mmを使用していること、ノンンリニア編集を導入したこと(FINAL CUT PRO使用)、同録を行っていること等が挙げられるが、初めは35mmのクリアな映像が気に入らなかった。やはり16mmで行くべきだったのではないか。浅野の部屋や、解剖シーンなど、やはり16mmのモノクロでやってほしかった。ところが、ある種の彼岸の描写と言える柄本奈美と浅野が海岸で佇むショットを目にした時、このシ−クエンスの為に塚本晋也は35mmを使用したのだとわかり、以後35mmの映像が気にはならなくなった。
 実際この作品は人体解剖の映画ではない。人体解剖を描くなら、「海と毒薬」以上の描写を求められるし、又、塚本晋也ならそれをやろうと思えばできた筈だ。だから死体の特殊メイクはリアリズムを求めたものにはなっていないし、死体の中身はそう映されない。それよりも浅野と死者である柄本奈美の性愛を柄本奈美の死体を眼前に置き、霊界との往復によって確認し合い、傍観者であるKIKIがそこに侵入し、三角関係に発展していくという展開を塚本晋也はやろうとしている。
 彼岸の描写やダンスなど、映画を壊しかねない、かなり危険なことをやってのけながら、失敗していないのは凄い。それにしてもこの彼岸のシークエンスの美しさには息を呑んだ。柄本奈美の肉体全体から発する魅力も素晴らしい。
 浅野忠信がやや老けてきたことへの危惧感や、ノンリニア編集嬉しさに、過剰に編集でいじり過ぎであるとか、いつもの尺なのに今回はやや長く感じ、ラストの焼場のシーンの必要性等、前作「六月の蛇」よりも求心力は落ちているが、それでも凄まじい質を保っていることは確かである。