映画 「スーパーサイズ・ミー」

molmot2005-01-26

7)「スーパーサイズ・ミー」[SUPER SIZE ME] (シネマライズ) ☆☆☆

2004年 アメリカ カラー ビスタ 98分 
監督/モーガン・スパーロック 出演/モーガン・スパーロック

 
 遅ればせながらようやく観た「スーパーサイズ・ミー」は、「いきなり!黄金伝説。」みたいな内容のモノをわざわざ映画館で見せられたという思いが先立つが、98分退屈せずに観ることはできる。
 30日間3食全てマクドナルドで食事する監督自身を捉えた作品で、それだけ偏食すれば異常が出るのは当たり前だと言われるだろうと終盤の監督自身のナレーションで予防線を張っている通り、正にそう思うのだが、体内外に起こる異常は想像の範疇なので、「30日間3食全てマクドナルドで食事をすることによって体に起こる異常」は、さほど面白くない。この程度なら遠藤章造にやらせても差し障りは無く、千秋が夜の遠藤の不具合を語った方が遥かに面白い。
 映画として成立させるなら、複眼が必要だと思う。モーガン・スパーロックは直腸検査や嘔吐や、性生活での不具合や、恋人、母親を登場させて自身を晒しているように装っているが、実際は非常に形式的な作品構成として、このブロックに恋人のコメントを入れて、ここに母親のコメントを入れよう的なものしか感じられず、私性的なものを演出ではめ込んでいるだけに思える。むしろ、カメラを自画撮りしながら泣き言を言ったり、何故こんなことをしなければいけないのかという自問自答を寝る前にでもしている様などがあれば、観客が作品のテーマとは別に主人公であるモーガン・スパーロックへの感情移入が得られるのではないだろうか。
 実際この作品で面白いのは結論が明白な主題ではなく、各登場人物だったりする。恋人のモーガンの眼鏡、菜食主義、案外赤裸々にSEXについて語ったりと脇キャラクターとして非常に良く、彼女との関係が冷えていく様やSEXに弊害が起こっていく過程を直接映せとは言わないにしても、モーガンが自画撮りで愚痴ったりすることで、より根幹のテーマが際立ったと思う。
 医師・栄養士達もキャラが立っている。アカラサマに他人のことが言えない体格のD・アイザック医師。「羊たちの沈黙」に出てきそうな体力測定を担当していたE・ロウリー。顔の骨格が素晴らしいL・ガンジェ医師。そしてヒッチコック作品に登場しそうな健康センターのB・ベネット等が非常に良い味を出しているのだが、そのあたりに無自覚なモーガン・スパーロックは、簡単に流してしまうし、最終日に店内に一堂が会するシーンは本来最も重要なシーンだった筈で、簡単に流してしまっているのは惜しい。
 子供が遊びまわる声の聞こえる店内で向かい合って、例のモノを食しながらマクドナルドの商業戦略の危険性を語るシーンのシュールさや、電話で社長への面会を求めて数日掛け続ける様子を捉えたショットなどに僅かに映画的空間が生き衝いていたが、それ以外は口当たりよく画面が流れていってしまい、退屈せずに観ることはできてもそれ以上の感動がない。
 勿論、前述してきたような私性の表出が絶対的に優れているわけではなく、本作の如きシンプルな作りに優れた点があることもよくわかるが、口当たり良く流れていってしまうドキュメンタリーに、面白みはさほど感じられない。