映画 「レイクサイド マーダーケース」

molmot2005-02-04

19)「レイクサイド マーダーケース」 (ワーナーマイカル板橋) ☆☆☆★★★

2004年 日本 フジテレビジョン カラー ビスタ 118分 
監督/青山真治   脚本/青山真治 深沢正樹   出演/役所広司 薬師丸ひろ子 柄本明 鶴見辰吾 杉田かおる 豊川悦司


 
 青山真治の熱心な観客ではないので、「Helpless」がつまらなかったとか、「EUREKA」が凄まじい大傑作だったといった印象しかないのだが、「月の砂漠」といい「レイクサイド マーダーケース」といい、仙頭武則が相変わらず最大の協力者であることはわかるにしても、製作から公開まで2年以上空いてしまう状況が続いているのは、明らかに不健全だ。それも、どうしようもない駄作なら兎も角、本作にしても素晴らしい秀作で、これだけ質の高いものが2年放置され、ロクに宣伝されないまま、いい加減な形で上映され、2週間程で上映が打ち切られるのは酷過ぎる。
 ブロックブッキングこそが日本映画の悪弊で、フリーブッキング、シネコンの普及こそが日本映画を変えるんだ、という論調を以前から散々耳にし、松竹がブロックブッキングを止めた時にも、やたらと言われたことだが、これには疑問を感じる。確かに、東映、松竹あたりの、ブロックブッキングによるラインナップが揃わない為にとんでもない作品を全国公開して興行記録を塗り替える様な惨敗を喫したりしている事態が良いとは思えない。奥山和由がシネマジャパネスクを立ち上げた際にも、本来全国30館〜150館という作品によって幅を持たせた形で、メジャーと単館上映の中間位置としての存在にしたいと語っていたのに、結局メジャー公開作品の穴埋めに流用され始めたりして本来の趣旨を失していた。
 シネコンによってインディーズ作品にも道が開ける、などと言っていた人達は現状をどう見るのか。確かに「下妻物語」や「スウィングガールズ」はシネコンによって拡大公開が成功した例であろう。しかし、ここには東宝という強いパイプが存在している。東宝だから全て成功するわけではなく、昨年の「花とアリス」といい、本作にしても日比谷にメイン館を置いた形で他は全て郊外のシネコンでのみ上映というケースは失敗している。例を挙げた2作とも「下妻物語」や「スウィングガールズ」「笑の大学」同様、渋谷のシネクイントをメイン館に展開させれば、また違った興行展開があったとも思う。本作に関してはフジテレビ製作にも関わらず宣伝が手抜き過ぎるのだが、公開後1週間たってもタイトルが自分の周りでも知らない者が多く、知っている者でも、どこでやっているのかと言う有様だった。これはフジテレビが、と言うよりも仙頭プロデュース作品全てに当て嵌まることで、せっかく質の高い作品があっても海外の賞を貰ったことのみで売ろうとするから客が来ない。仙頭作品にどの程度面白い作品があったかは意見の分かれるところであろうが、興行的に難しい作品が多かったとは言え、宣伝展開には疑問を覚えることが多かった。では、本作の様なエンターテインメント作品として製作し、役者も役所広司豊川悦司等が出ているのに、いつもの仙頭作品同様の展開なのはどういうことか。本作の面白さからして、宣伝をうまくやれば、もう少しは観客を集められた筈だ。


 原作は読んでいないので比較はできないが、ミステリーとしてはさほど面白いものではなく、TVの2時間サスペンスでも十分な内容だ。
 森をめぐる映画として青山真治の演出、たむらまさき(何故近年平仮名表記になったのか?)の撮影、中村裕樹の照明の素晴らしさを観る作品だ。
 ヒッチコックの「ダイヤルMを廻せ!」で前半のグレース・ケリーが刺す件まで敢えて凡庸なハリウッド的な四方からのダレた撮り方をし、後半一気に緊密な画を作り上げた職人技と同様に、前半の湖に死体を捨てるまでを抑えた、しかし的確な演出で見せ、後半を緊密な画の連続で見せる。
 殊に豊川と子供達が森の木立の中で会話するシーンでの逆光気味に漏れてくる木漏れ日の美しさは素晴らしい。
 ボートで死体を湖に捨てに役所と柄本がボートを漕ぐシーンは「太陽がいっぱい」の如き、ボートに死体が絡んでいるのではと思わせ、緊張感が最後まで途切れない。
 前半の不条理さはコメディでしかなく、その分後半の展開でその落差が存分に楽しめた。個人的には、役所にお受験を自覚させる為に全員で仕組んだ芝居だったという「四捨五入殺人事件」や「ビートたけし殺人事件」「ゲーム」「シベリア超特急」の如きオチがついても良かったとすら思えるし、そんなバカなオチでも青山なら成立させてしまえるという確信があるが、ミステリーではなく、ペンションと森をめぐる映画として素晴らしい。
 ただ、「カリスマ」や「理由」等と同じく、ラストにチャチなCGを使うのは、本当に止めた方が良い。 
 出演者では、役所と柄本が相変わらず良く、殊に柄本が出色だが、他に久々に豊川悦司が良かった。コノヒトは、脇でこそ力を発揮するヒトなので、久々に好演しており、未だ期待できると思えた。コノヒトは岩井俊二との2作以降作品選びがおかしく、やたらと先人の名前の後をついて回っていた。神代辰巳の遺作プロットを基にした「男たちのかいた絵」であるとか、市川崑金田一耕介なのに石坂浩二から奪ったり、「傷だらけの天使」や「新・仁義なき戦い」、「丹下左膳 百万両の壷」等、節操がないくらいリメイクものばかり出ていた。「Love Letter」から10年目にして青山真治の作品に出演する豊川というのもある意味興味深いものがるが、本作での無色感は非常に良かった。
 そして薬師丸ひろ子がやはりスクリーン映えする女優であることを再発見させられた。