イベント 「平野悠の好奇心なんでも聞いてやろう!復活Vol.1『足立正生、映画と革命の軌跡』」

1)「平野悠の好奇心なんでも聞いてやろう!復活Vol.1『足立正生、映画と革命の軌跡』」 (Naked Loft)

 12月に新宿ハローワーク前にオープンしたロフトプラスワンの姉妹店Naked Loftへは行く機会がないままだったが、足立正生トークショーが行われたので向かう。
 かなり狭いスペースだが、告知が行き届いていなかった御蔭で20人程の入りで、極至近距離で足立正生のハナシを聞けて良かった。
 3時間に渡ってじっくり聞けたものの、肝心の映画監督・足立正生としてよりも、日本赤軍足立正生としてのハナシが多く少々残念だった。
 とは言え、既に製本された「噴出祈願 十五代の売春婦」以来35年振りとなる新作劇映画「十三月」の脚本を前に、幾つか新作についても語られた。これまで詳細が全く不明だったが、やはり「銀河系」系列の実験映画要素が強そうなもので、コンピューターオタクの少年が死者を蘇らせるが、それが実際なのか、少年がコンピューターによって起こしたものか判然しなくなるという内容だそうで、新宿とパレスチナが舞台になるらしい。言ってしまえば足立正生の映画は面白くないので、「十三月」など、ハナシを聞くだけで危ばそうな雰囲気を漂わせ、原将人の「20世紀ノスタルジア」的な『あの頃』と全く変わらない足立正生の若々しさだけは感じられる作品にはなるのだろうと思えた。昨年末の青山ブックセンタートークショーでは製作費2億1千万円の捻出が問題となっていたが、足立正生は拘っていないようで、予算が集まらないから中止ということはしない、確実に今年インすると語っていた。又、昨日は文化庁の支援を得るべく寺脇研と会っていたらしく、足立正生が国の援助で映画を作る、という構図が面白すぎるが、嫌いな寺脇研ではあるが、是非頑張ってもらって支援してもらいたい。出演・スタッフは一般公募、オーディションで選出するそうであるが、既に岡本公三唐十郎らが本人役で出演を確約したらしい。
 客は渡辺修孝らソチラ系とイメージフォーラム系の方に二分されていたが、質問した方々が足立正生の映画をほとんど観ていないのが意外で、足立の強制帰還時の全作上映会がつい最近あったではないか、と思い返せば既に5年前なので仕方ないかもしれない。しかし、ソチラ系の質問しかしないだろうと思われた渡辺修孝が率先して「十三月」を問うたのは良かった。
 ついでなので自分が足立に聞いたのは、


 足立は1.に対して、自分はピンクだからというものはない。映画が撮りたいだけだ、と言う。その答えに、厳然たるジャンル分けをし、越境を許さない姿勢で映画と向かい合っているのでは、と自分の映画に対する姿勢に深く恥じ入った。
 2.に対しては、70年代、80年代の作品も既に映芸別冊や「映画/革命」でも記されているのと同様に若松が届けたビデオやヨーロッパの映画館で観た作品が多いと語り、「御法度」に関してはレバノンで収監されている際に脚本が届けられたが、帰国後も映画は観ていないらしい。清順とは正月に会い、狸御殿完成を祝ったと。何故「御法度」を観ないのか、個別作品についても聞きたかったが、総論的に地下に潜っていた者の僻みではないがーと前置きして、往年の作品に比べると淡白な印象はあるという意味のことを述べた。
 そう言えば、小川伸介について、「圧殺の森 高崎経済大学闘争の記録」は素晴らしいが「三里塚」シリーズは政治的意識は希薄で、農民、土、米により惹かれているのだという指摘は正論で、後に山形へ転じたのも正にそこに起因するからだろう。
 前妻の間の子供には既に妻子も居るので、65歳の足立には孫が居るわけだが、今年の夏には現在の妻との間に子供が生まれるそうで、これには驚いた。風貌こそ白髪だが、足立はまるで日本に居なかった間の時間が有効でなかったような若々しさに満ちている。
 又、「塀の中千夜一夜」というレバノンの刑務所でのエピソードを綴った新刊が間もなく出版される由。
 帰国後、若松用の脚本は3本書いたが全て没になったとのこと。言葉尻から判断するに「17歳の風景」も足立稿が存在しているようだ。それをほとんど使って別の素人に書かせている模様。その点への不信を僅かに感じさせた。
 Naked Loftでは来月、若松孝二宮台真司を交えたイベントがあるらしく、新文芸座での特集も加えて、久々に若松・足立作品と接したい。どうせ「十三月」完成の際は足立の旧作も上映されるだろうし。
 
追記:ふと思い出したが、清順闘争の記憶を語る足立のエピソードの中で殊更印象的だったのは、監督協会が声明を読み上げるにあたり、会長だった五所平之助が、足腰も悪いので、ゆっくり歩を進めながら、背も丸まりつつも大島渚篠田正浩に両脇を抱えられて壇上に上がり、声明を読む内に高揚し、壇上から降りる時には背も伸び、スラスラ歩いて帰っていったというハナシで、何とも感動的な映画的エピソードだ。