映画 「ターミナル」

molmot2005-02-25

26)「ターミナル」[The Terminal]
 (Tジョイ大泉) ☆☆☆★

2004年 アメリカ ドリームワークス カラー ビスタ 129分 
監督/スティーブン・スピルバーグ   脚本/サーシャ・ガバシ ジェフ・ナサンソン
  出演/トム・ハンク キャサリン・ゼタ=ジョーンズ スタンリー・トゥッチ チー・マクブライド ディエゴ・ルナ クマール・パラーナ ゾーイ・サルダナ



 
  スピルバーグというヒトは大好きな監督ではあるが、同時に不思議なヒトだとつくづく思う。
 初期作こそ作家性と娯楽性の類稀な融合を果たすこと出来る才人と感じられたが、80年代後半から職人技術の切り売り的な「オールウェイズ」や「フック」といった作品的にも興行的にも奮わない作品を撮り、不信を覚えた。その後「ジュラシックパーク」という、これまた作品としては凡庸だが、「激突!」や「ジョーズ」でのサスペンス演出の片鱗を僅かに見せ、興行的には大ヒット作となり一線び返り咲く。とは言え、監督としてはもはや末期的状態かと思っていたら、「シンドラーのリスト」という傑作がポンと生まれ、復活したのかと思いきや続いて「ロストワールド」などと言う果たしてスピルバーグが演出したのかと思わせるような凡作を作ってしまい、ある種パターン化した娯楽大作とシリアスオスカー狙い作を交互に撮る嫌味な手法で作った「アミスタッド」がこれまた凡作。今度こそ駄目かと思えば「プライベート・ライアン」という開巻30分は映画史に残る傑作を撮ってしまう。続く「A.I」は悪くないが、個人的には物足りず、むしろ「マイノリティ・リポート」が傑作だった。「海外特派員」的サスペンスのアレンジで、スピルバーグヒッチコックの後継者と言われた頃を思い出す出来だった。ところがわからないのがこの後で、何故「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」や「ターミナル」をやるのか。両作ともアカラサマな雇われ仕事で、スピルバーグがやる意味がどこにあるのかと思う。それは何も娯楽大作とシリアスな歴史劇のみをやれと言っているわけではなく、こういった軽い小品(実際はかなりの規模の作品なのだが)をやるのもケッコーなことだと思う。しかし、完成度が単なる職人技術の切り売りで継ぎ接ぎされた作品に思えてしまうのだから仕方ない。だから、決して悪い作品ではない。流石にスピルバーグと撮影のヤヌス・カミンスキーは無闇にクレーンショットを多用して、そのシークエンスでどういうショットを見せるのか本当に考えているのかと思わせる最近の多くの作品と違って、クレーンやステディカム、ミニジブ等で、のべつ画面は動いていることが多いのだが、それでも無駄なものがなく、不要に動きすぎずにそのカットで提示すべき情報を、画面に入れている。
 この作品は一種の寓話で、空港に9ヶ月住む男のハナシだが、フォーマットはフランク・キャプラ的なモノを大いに連想させるが、まずは寓話性の不徹底さが気になる。この作品の寓話性を持たせる上で最重要な人物は、ヒールとなる空港の警備主任で、彼のあの手この手んの妨害を主人公がクリアしていくわけだが、寓話のヒールはもっと悪どく、過剰なまでに主人公を妨害してほしい。そこに狂気性、エキセントリックな雰囲気が出れば、この作品の寓話性がより明解になったと思う。(続く)