読了 「ドキュメンタリーは嘘をつく」

13)「ドキュメンタリーは嘘をつく森達也 (草思社) ☆☆☆★★★

ドキュメンタリーは嘘をつく
 森達也の作品は、「A」「A2」「放送禁止歌」「教壇が消えた日」ぐらいしか観ていないし、今や数多くの書籍を出しているにも係わらず読んだのは「A 〜マスコミが報道しなかったオウムの素顔〜」「A2」「放送禁止歌」「職業欄はエスパー」「下山事件(シモヤマ・ケース)」ぐらいなので、とても熱心なファンとは言えないが、ま、シネヌーヴォでオールナイトがあれば行ったり、「A」「A2」がDVD化された際は即日購入したという程度の好き具合である。
 しかし、「A」や「A2」は力作だが、全面支持という訳ではなく、『会ってみれば良い人だった』的な作りに対する違和感は拭えず、毎回ラストに事件について問うが、あれが世間への言い訳にしか見えず、本当は、事件のことなんか聞きたくないのだろうなと思えた。危惧したのは、年下の知り合いがこの2作を観て、非常にわかりやすく感化され、いかに世間が現信者に対して冷遇しているかを熱心に語られた時で、その発言に危惧したのではなく、例の事件の頃はまだ幼かったので、あまり明確な記憶にないと言ったことに危惧した。
 それは兎も角、本書は日本のドキュメンタリー史をも、わかりやすく記してあるので、映像系学校では良い教科書になると思う。個人的にはVX1000以降のDVドキュメンタリーによる方法論の転換をめぐる記述が興味深かった。
 「A2」の頃から言っていた天皇ドキュメンタリーは、実現しかけていたが、結局4月9日に中止が正式に決まったようで、残念だ。本書内にもある今生天皇は「君が代」を唄っていないという入口は素晴らしく、時折象徴の分際で踏み込んだ発言をする天皇が、どう捉えられるのか楽しみだっただけに残念極まりない。
 尚、その天皇ネタが入る予定だった「NONFIX」の憲法シリーズ、先日から順に放送が始まったが、是枝裕和が9条を取り上げた「忘却」は5月3日に放送される。