書籍 「伊丹十三の本」

5)「伊丹十三の本」「考える人」編集部 (編集) (新潮社) 

伊丹十三の本
 ややフライング気味に店頭に在ったので即購入。今年に入って刊行が告知されてから、ずっと楽しみにしていた。と言っても、「考える人」編とあったので、2003年冬に出た「考える人 エッセイスト伊丹十三ののこしたもの」を底本にしたものだろうと予想していたが、手にとって見ると、やはりその通りなのが残念だった。とは言え、大幅に加筆されているので、これまであの名エッセイを収載した伊丹の文庫ですら品切れしている状況だったことを考えれば、こういった書が出るのは望外の喜びで、これを機に伊丹十三の再評価が始まってくれれば嬉しい。ただし、映画監督としての伊丹十三の再評価は未だ時間がかかりそうだ。遅まきながら発売されたDVDの話題もそう大きくはなく、実際、「お葬式」「マルサの女」以外は風化に耐えられるかどうか。
 本書で初めて目にするものは数多い。幻の映画監督デヴュー作である「ゴムデッポウ」のスチールが掲載されているのが貴重で、この作品を何とか観ることはできないものかと思い続けて10数年となる。あらぬ望みと思いながら、本書にDVD付録として付いてこないかとも思ったが‥本書が話題になれば、現在再評価の気運のある『エッセイスト伊丹十三』の流れで「ゴムデッポウ」を出せば、かなり良いと思うのだが。短編なので、短ければ「11PM」で撮ったという短編や、CM等を加えれば、興行可能なものになると思う。伊丹の前妻、川喜多和子との共同制作である「ゴムデッポウ」を出すことに宮本信子が抵抗を感じているのかと邪推したこともあったが、伊丹唯一の監督主演作としても観て見たいので何とか見せてほしい。
 単行本未掲載エッセイや、私物、写真等、伊丹が生きていれば見る事のできなかったと思われるものが、かなりあるので興味深い。殊に宮本信子に宛てた浮気の詫び状が凄い。まあ、浮気とは書いていないのだが、読めば想像がつく。谷崎潤一郎ばりの片仮名文で、ひたすら謝り、宮本信子への忠誠を誓う文章で、いろんな意味で凄い。
 宮本信子が伊丹自殺時の遺体安置所での対面を語ったりと、語られることの少ない伊丹十三を多面的に見せる上出来の書。これで、未掲載エッセイ等を集めた書が出れば嬉しいのだが。