映画 「交渉人 真下正義」

molmot2005-06-04

91)交渉人 真下正義 (Tジョイ大泉) ☆☆☆★

2005年 日本 フジテレビジョン ROBOT 東宝 スカパー!WT  カラー シネスコ 127分 
監督/本広克行     脚本/十川誠志     出演/ユースケ・サンタマリア 寺島進 小泉孝太郎 國村隼

 TVシリーズでの「踊る大捜査線」は兎も角として、映画での「踊る大捜査線 THE MOVIE」「踊る大捜査線 THE MOVIE2  レインボーブリッジを封鎖せよ!」は大嫌いで、キャラクターを楽しむ分には気楽に観られるが、作品としては酷いもので、1作目も凡作と思ったが、2作目には呆れた。キャラクター依存の果ての様な空虚感しかないもので、こんなものが面白さの基準値になったり、良い作品のように言われて、恐ろしいまでの観客動員を果たしているのは、異常としか言いようがない。ただし、各キャラクターの立ち具合がしっかりしているだけに惜しいとは思っていた。何せ映画会社側は、ヒット作の続編にも係わらず、観客の期待を全く生かさずに、中学生だった藤原達也が続編でテロリストになってしまうような映画を作っている。観客の期待に応えているという意味では、踊るシリーズは悪いものではない。
 OD2で脇に登場した真下正義を主人公にスピンオフ作品を製作するというのは、誠にケッコーなハナシで、踊るの世界観から開放されて、こういった作品に既に完成したキャラクターを嵌め込むというのは良いと思う。
 しかし、どんな作品かとプロットを耳にすれば、もうまんま「サブウェイ・パニック」+「交渉人」で、ここに「新幹線大爆破」や「暴走機関車」、そして「ダイ・ハード」的要素が組み入れられるんだろうと容易に想像がつき、全く観る気を失くした。このシリーズの無節操な引用というよりもパクリの多用には観客への影響を考慮しても良いわけがなく、何より許しがたいのは作品の根幹に係わる部分が、他の作品固有のアイディアを頂いてしまうということだ。ま、「踊る大紐育」と「夜の大捜査線」だとタイトルを観れば直ぐわかるようにしているんだから、それでも観ているのだから、それぐらいは許容しろということなのだろうが、やはり抵抗があるし、その上で面白がることができない。
 本作にも一切の期待はしていなかったが、ま、スピンオフのB級的面白さが僅かにでも出ていればと思って観たが、案外楽しめたし、実際面白かった。前2作より遥かに面白い。
 確かに、まんま「サブウェイ・パニック」なのだが、危惧していた程、まんまではないにしても、それは犯人側の描写について言えることで、管制室の描写は「サブウェイ・パニック」を下敷きにしており、ウォルター・マッソーユースケ・サンタマリアが、管制室を仕切ってる嫌なオッサンが國村隼に当てられており、オリジナルでは、マッソーが上手で犯人と無線で交渉し、下手に管制室のコントロール画面が映る構図がメインとなっていたが、本作ではそれを引っくり返して、上手に画面、下手にユースケが来る構図を多用して差異を示そうとはしている。そこに妙な引っ掛かりを覚えさえしなければ、この作品、意外なくらい楽しめる。
 踊るシリーズは、いかに笑いで繋いでズッコケ芝居で引っ張っていくかが主眼なのだから、いくらOD2で、これだけ前作が大ヒットして豊潤な予算を掛けられるのだから、お台場がテロ集団によって封鎖されて孤島と化して‥みたいなハナシが観たいなどと口にしても、派手な大作を期待する方が間違いなのだと熱心なファンの方に言われれば、引っ込むしかないのだが、大量のキャラクター芝居を盛りこまなければばらならない枷が、かなり作品の負担になっているように感じた。その点、本作には余計ないつもの人物達がかななり姿を消し、首から上だけでしか演技が出来ない柳葉敏郎がちらりと顔を出す程度で、「卒業旅行 ニホンから来ました」を撮影途中でボイコットして帰ったヒトを筆頭に、余計な芝居をするヒトが消えてくれて良かった。
 殊に本作を映画として成立させた立役者は寺島進國村隼に尽きる。製作者側もそれを見越してキャスティングしたのだろうが、このシリーズの、深津絵里を除くあまりに弛緩しきった顔つきの面々の演技以前の悪ふざけを、しつこくアップで見せられ辟易していたことを考えると、寺島進國村隼は、この作品を映画へと昇華させる役割を果たした。
 開巻から既に事件は始まっている、というのは既にキャラクターが周知しているからこそできることだが、それなら127分はいらない。2時間以内、100分で見せればケツの弛みはある程度軽減できた筈だ。
 余計な小芝居をかなり減らしたことで、緊張感も途切れない作品に仕上がっている。

 以下ネタばれ含
 殊に識別不能の車両が都内の地下鉄を疾走するという設定が面白く、相互乗り入れしている東京の地下鉄の特性に、例の隠された地下鉄の存在などを盛り込んであるのも面白かった。ただし、この設定を映像が補強できていなかったのは、致し方ないとは言え惜しかった。ある程度予算がかかっているので、規制の多い地下鉄で識別不能車を走らせることには成功していたが、ハリボテ感、CG感が残るのは仕方なしか。又、肝心の車両が別路線に切り換わる瞬間や、抜け穴に入る瞬間は、やはり見たかったと思う。管制室での会話のみというのは、コントの怪獣映画になってしまう。
 地上で犯人を追う寺島進がやはり良く、踊るの世界観を壊そうとしているのが小気味良い。
 ま、個人的に爆発にまつわるテロ映画は好きなので、飽きずに楽しめたし、一夕のエンターテインメントとしては申し分ないと思う。
 それだけに、相変わらず有名映画固有のアイディアを、作品の根幹に持ってきてしまう厚顔さには首を傾げる。と言うよりも、本作などでは、確かに大枠は「サブウェイ・パニック」なのだが、アレンジによってその枠から脱することもできかけていただけに勿体無いと思う。ラストの「ダイ・ハード」はもういいとしても、又自ら出典を明かす「ジャガー・ノート」も許すにしても、いくらなんでも「知りすぎていた男」のあのシンバルの件をまんまやることはないだろう。これには呆れたとか興が冷めたというよりも、せっかく今回は良い調子でやってきたのに、作品のクライマックスが「ジャガー・ノート」と「知りすぎていた男」を重ねてやるなんて、と思ってしまう。映画会社が作ると野暮ったくなるこの手の作品(「誘拐」とか)の中で、「リターナー」や、本作のような存在というのは貴重だと思うのだが、何故かそういった作品は、根幹の部分までも平気でパクる。この技術があればオリジナルでさぞかし面白いものが作れるであろうと思うのだが、そうでもないらしい。
 元来小品の筈だったものが、モロモロ付随してきてしまった弊害を抱え込んでいる。確かに小さく笑いを入れながらやってしまうと、単に「サブウェイ・パニック」そのものになってしまうので、諸々盛り込んだ大作然とした作りにしたのだろうが、その分、交渉人というタイトルの割りに交渉していないし、クライマックスで管制室から抜けてわざわざ爆破現場に行く理由がわからないし、職場放棄に近い行動だ。
 犯人が捕まらないまま終わる件については、別に犯人が捕まらなければならないというワケでは全くないのだが、この作品のような、犯人とのやり取りが多く、又あれだけ大掛かりな仕掛けを施したからには、謎解きをもう少ししなければ、管制室に通牒者が居たのではないかと思ってしまう。これらを含めて「容疑者 室井慎次」に引っ張るのかは知らないが、ネタ振りはしておいて放り投げた感は残る。
 全体としては、相変わらず引いたままにしておけば良いものを態々臭い表情を寄りで見せる不愉快な画が混じっているといった不満も感じつつ、それでも楽しんで観ることはできた。脚本に十川誠志を起用したのが良かったのではないか。以前観た「逮捕しちゃうぞ THE MOVIE」も良かった。