映画 「姑獲鳥の夏」「交渉人 真下正義」

molmot2005-07-16

114)「姑獲鳥の夏」 (Tジョイ大泉) ☆☆☆

2005年 日本  カラー ヴィスタ 123分 
監督/実相寺昭雄     脚本/猪爪慎一     出演/堤真一 永瀬正敏 阿部寛 宮迫博之 原田知世


 実相寺昭雄の新作である。劇映画としては「D坂の殺人事件」以来だから7年ぶりか。実相寺の作品というのは出来不出来が激しいが、基本的にメジャーで金かけたものをやると失敗しがちだ。そういう意味で、低予算だから良いというワケではないが、「屋根裏の散歩者」「D坂の殺人事件」は、実相寺のベスト級の作品だった。殊に「屋根裏の散歩者」は江戸川乱歩意原作映画化作品中のベストと言っても良い出来で、田中登の「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」も素晴らしいが、自分は実相寺版がベストだ。
 だから、実相寺には乱歩作品をどんどん映像化してもらいたいという思いがあり、「D坂の殺人事件」以降も「陰獣」や「盲獣」を映画化したいとか語っていたが、実現していないのが残念だった。ようやく昨年、「乱歩地獄」というオムニバスで「鏡地獄」を手掛けると聞いた時は、かなり嬉しかった。更に、メジャー作品として「姑獲鳥の夏」もやると聞いて、7年ぶりに実相寺作品が連続公開されるという、これを喜ばずして何を喜ぶという状況になっている。
 「姑獲鳥の夏」に関しては、先ごろ原作を読んだが、読む前までは、監督には市川崑か実相寺がやるのが相応しいだろうと漠然と思っていたのだが、実際に原作を読むと、意外なほどキャラ小説で、このノリならむしろ堤幸彦あたりが丁度良い様に思えた。
 実際に観たら、やはり予想の範疇な出来だった。実相寺だけに、昭和27年の空気感は出せているし、相変わらず画面の傾きが嬉しい。
 結局、メジャーの金かけた作品は実相寺には不向きなのと、原作を大事にしすぎて、その上2時間ジャストで纏めようとするから凡庸なダイジェストになってしまった。
 最近の小説はやたら長いのに、原作を大事にし過ぎている。勿論、一時期の日本映画的な、いかに脚本家が原作を壊すか、あるいは独自のアイディアを盛り込むかに腐心して、原作者にここまで改変するなら自分の原作でやる必要ないと言われたりして、観ていても、原作通りにやっていた方が良かったのではないかと思わせるような作品が多かった。最近の原作尊重は良いが、そうなると、名のある脚本化は独自のアイディアを入れてしまうから頼めないと考えるのか、新人・その他に発注して極力原作のダイジェストの様なホンにさせる。出来た映画は、原作の情報量を何の戦略もなく2時間に詰め込んでいるだけだから、酷くつまらない。名のある脚本家が手掛けていても「血と骨」や「レディ・ジョーカー」みたいになってしまう。あるいは「ローレライ」や「戦国自衛隊1549」みたいに。
 そういう意味で脚色力がひどく低下しているのではないか。最近の荒井晴彦は原作を最大限生かしたホンが多いので、今取り組んでいるという「ららら科學の子」で、その手本を見せて欲しい。
 本作のムック本を見ても、パンフを見ても、不思議なのは脚本家の紹介がない。調べてみると、「Blister」とかを書いたヒトらしいが、恐らく企画段階で複数の脚本家に発注したうちの一人であったろうことは、彼のフィルモグラフィーに「ピストルオペラ」脚本協力とあることから、本作の製作が「ピストルオペラ」「下妻物語」「オペレッタ狸御殿」の小椋事務所であることからしても大方間違ってはいないだろう。企画段階で複数の脚本家に発注するのはよくあるハナシだし、結果的に製作者側が最も原作に準じて適切な尺に納まっているものを選んだだけのハナシだ。
 しかし、本作ではもう少し構成に工夫が欲しかったし、又そうしなければこれだけの情報量のある原作を捌けない。関口のナレーションで彼主体に引っ張り、彼のトラウマが背後に見えるような作りがなければ、原作を読まずに観た者には、解り辛い。又、エロが足りない。実相寺なのに。ま、これは製作者側からの要望なのだろう。しかし、強烈なエロが重要な要素を持つ作品だけに、PG-12くらいは覚悟して入れて欲しかった。
 結局1時間15分くらいで、お腹パッカーンまで行って、後は謎解きが40分みたいな作りなので、前半がひたすら駆け足で、正にダイジェストだった。
 京極には、理想を言えば京極夏彦本人が一番イメージ通りなので、堤真一には気の毒だが。永瀬正敏阿部寛はうまく合っていた。問題は宮迫博之で、宮迫は割と映画栄えするので、他の作品では善戦していたが、本作には明らかにキャスティングミス。「下妻物語」に続いてと小椋事務所が思ったのかは知らないが、全く違和感しかなかった。本当はもっとガタイの良い奴が良い。こんなことで「魍魎の匣」やるとかなったら、どうするつもりなのだろう。
 個人的には実相寺が、戦前戦後の日本を描いてくれているだけで、幸せな気分になるので、あまり悪く言う気はないし、画面を見つめている分に楽しめた。ただし、もう少し暗めに持っていって欲しかった。殊に夜が明るすぎる。

115)交渉人 真下正義 (Tジョイ大泉) ☆☆☆★

2005年 日本 フジテレビジョン ROBOT 東宝 スカパー!WT  カラー シネスコ 127分 
監督/本広克行     脚本/十川誠志     出演/ユースケ・サンタマリア 寺島進 小泉孝太郎 國村隼

 お付き合いで再見。初見時に問題はあるが、一応面白かったと書いたら、周りから馬鹿にされたが、観直せば、ディテイルの不味い箇所はより明確に出たが、それでもエンターテインメントの昇華のさせ方の下手糞な最近の諸作に比べれば遥かに面白い。