映画 「乾いた肌」

「17歳の風景」公開記念 若松孝二 レトロスペクティブ 2005

116)「乾いた肌」(ポレポレ東中野) ☆☆

1964年 日本 日本シネマ モノクロ シネスコ 80分 
監督/若松孝二     脚本/池田正一 中野道玄     出演/三井由紀子 里見孝二 宮村京子 大原謙二 寺島幹夫 
 いよいよ『「17歳の風景」公開記念 若松孝二レトロスペクティブ2005』が始まり、ソフト化されていない観る機会の非常に少ない諸作も上映されるので、できる限り通いたいと思っている。
 まず、初日である本日の上映作品の中で観ていないのは「乾いた肌」である。以前、このレトロスペクティブについて書いた際、劇団ひまわりの女子高生を全裸にして露天風呂に入れた為に児童福祉法違反で大騒ぎになった被爆少女を描いた「乾いた肌」、と書いたが、観て気付いたが勘違いだった。劇団ひまわり女子高生を全裸入浴シーンのあるのは「恐るべき遺産」がそれに当たる。申し訳ない。
 「逆情」とセットで撮影された本作だが、初期の若松作品、即ち若松プロ設立前の若松作品という意味だが、良い意味でプログラムピクチャーとして成立し、安定した手腕を見せており、本作もそういった一本に数えられる作品である。
 新人賞を受賞して作家デビュ−した人妻は、夫が下腹部に問題があるため、性交できない。で、編集者の若い男と関係を持つ‥という馬鹿馬鹿しいまでの安っぽい三流メロドラマで、作品としては、まったく面白くない。この時代の作品は「情事の履歴書」「鉛の墓標」ぐらいしか観ていないが、それらに比べても劣る。
 とは言え、この時代の作品は他社で撮っているせいか、若松プロの頃よりも遥かに予算がかかっており、ドラマを成立させる為のディテイルに安っぽさがない。本作では雑誌編集部の作りこみなどがそれに当たる。
 来るべき位置にカメラが来て、切り返すべき箇所で切り返し、ロングになるべき箇所でロングになる。スキャンダル性や過剰な性描写、暴力描写がなくても、若松孝二は、いつも映画を普通に撮っている。だから、現在に至るまで若松孝二は映画を撮り続けている。キワモノだけに依存しているヒトでは決してない。
 最も魅力的だったのは、いかにも時代を感じさせるヌーベルヴァーグっぽい車の疾走シーンの数々で、開巻の主人公の家の前に来る編集者の乗った車を、ロングで横パンして捉えるショットで、車が停車した後、砂煙が上手にいつまでも流れていくのが印象的だった。又、主人公に会いに行く為に伊豆の宿へ車を飛ばす様が山の上からロングで撮られるが、これら走行シーンに被るジャズが盛り上げる(曲の出来が良いが、既成曲無断使用なのかどうか。ビートルズ使いたい放題と聞くガイラの初監督作品とか、ここで引っ掛かってしまい、奇跡的に残っている多くの古典ピンク映画がソフト化できないのは辛い)。
 ラストはネタバレになるが、ま、若松映画だと言えば容易に想像できるオチなので別に良いかとも思うが、刺すという行為が、これほど魅力的に素晴らしく撮れる監督はそう多くない。本作での刺した際に女の服が伸びる様など、実に良かった。
 つまらない映画だったが、若松作品の魅力の一端は感じられる作品。