映画 「愛しのAVギャル〜林由美香編」「YUMIKA 1989-1990 REMIX」

molmot2005-09-23

176)「愛しのAVギャル〜林由美香編」(UPLINK FACTORY) ☆☆☆★★★

1998年 日本 メディアステーション=バズーカ カラー スタンダード 25分  
監督/平野勝之    出演/林由美香 平野勝之

 「YUMIKA 1989-1990 REMIX」を観るために行ったが、同時上映された「愛しのAVギャル〜林由美香編」は既に何度か観ている作品だ。
 初めて観たのは、以前にも書いたPLANETでの平野勝之初期作品の上映会で「プチ由美香」と題されて上映されたのを観たのが最初だ。既に「由美香」を観て、その素晴らしさに完全にやられていたので、思わぬ「由美香」の続編の登場に驚き、また単なるノスタルジーに終わらない短編としての魅力に満ちた秀作だった。「由美香」と本作の関係は、ようは「となりのトトロ」と「めいとこねこバス」の関係と思ってもらえればわかりやすいかと。
 初見後、慌てて矢田近くの巨大な信長書店で本作のビデオを探し出し、繰り返し観たものだ。
 林由美香が亡くなってから、1本も彼女の出た作品を観ていない。人間・林由美香が亡くなっただけなら、女優・林由美香を死後観ることに苦痛も何も感じないのだが、やはり「由美香」で初めて林由美香を知った不勉強さが災いして、人間・林由美香とスクリーンの林由美香が同一化した状態で、初めの認識を持ってしまったので、林由美香の出演している作品を観る気が起きなかった。観たいと思いつつ(ま、スケジュール的な問題や、フィルム作品をDLPで観るのが嫌ということもあったのだが)、この1ヶ月の林由美香追悼上映には全く行くことがないまま終わりかけている。しかし、「YUMIKA 1989-1990 REMIX」だけは観なければならないので腰をあげたが、最初に久々に「愛しのAVギャル〜林由美香編」を見せられて、やはり素晴らしかった。開巻のFIXでお馴染みの自転車を整備する平野を捉えたショットから、無機質な自転車を寄りで捉えたショットへの巧みな繋ぎから既に平野の映画が始まっている。
 上映会で題されていた「プチ由美香」というタイトルは、かなり気に入っているのだが、まさに1泊2日のちょっとした「由美香」への追慕と、現在進行形の、不倫関係が終わり別れた二人の距離感が映像化されていることに瞠目せずにはいられない。AVは、人間の関係性をここまで描くことができるということに改めて驚く。
 ラストの由美香が自転車で手前にはけるシーンで、一度堤防から転げかかりながらも平野はカットをかけず、去っていく由美香を手を振りながら見送る。そして平野は反対方向へ去っていく。実際は由美香はフレームから外れた箇所で待機しており、平野も戻ってきて自転車から降り、カメラのRECボタンを止め、三脚をしまい、二人で帰っていったに違いないが、この二方向への別れには、今だからこそ涙が出た。

177)「YUMIKA 1989-1990 REMIX」(UPLINK FACTORY) ☆☆☆★★★

2005年 日本 V&Rプランニング カラー スタンダード 約60分  
監督/カンパニー松尾    出演/林由美香
 
 この作品の成立過程の詳細は知らない。「YUMIKA 1989-1990」という作品が元々あって、そこに再編集を施したものなのか、本編に示されるように「ラスト尿」と「硬式ペナス」を再編集したものなのか。
 それは兎も角、開巻の「ラスト尿」からと想像される(上記2作ともAVの名作にも係わらず未見)林由美香の幼少時代からの回想を、実際に写真を使用しながら、インタビューがかぶるのだが、上映後井口昇が指摘していたように、追悼用に製作した作品ではなく、AVで自分の写真とプロフィールをありのまま出してしまっていることに驚く。同級生も恋人も学校名も写真一切に加工が加えられていない。
 後半は「硬式ペナス」のダイジェストだが、80年代色濃厚な黄金期のAVを久々に目にする。そして、美少女・林由美香という括りを再認識させられた。「由美香」以降の林由美香が、やはり主になって語られてしまうが、人気女優であったデビューしてから「ラスト尿」で一時引退するまでの、アイドル期の林由美香をもっと観たいと思わせた。(リアルタイムでは未だこの頃は借りられる年齢ではなかったので、林由美香の存在はまったく知らなかった。せいぜい「おとなのえほん」でダイジェスト紹介される作品で知識を持っていたぐらいで、「おとなのえほん」の司会をしていた黒木香が初めて覚えたAV女優だった。こんなに全発言がエロい大人は如何なものかと小学生の自分は思った。しかし、89年、90年頃の頃の黒木香は未だ20代前半だった筈で、随分老成して見えた。
 「硬式ペナス」の伝説の、『擬似?』と由美香が聞き、挿入させるシーンには感動した。その理由を、彼女は演技ができなかったからと語っていたが、挿入後に一気に悶える彼女の表情に魅了される。
 ラストは、「由美香」でも使用されていた線路を歩いて去っていく由美香の姿に、豊田道倫の「ベンチ」がフルで流れる。カンパニー松尾林由美香への愛情と別れのメッセージが集約されている。
 そして、最後に観客は素晴らしいショットを目にする。新撮と思われる、マンション等の建物等の合間から空を捉えたショットから、手を下げることによって(民生のDVカメラなので右手の振り下げにカメラの動きは同期する)地上へと視点が落ちていくショットがインサートされる。そこにYUMIKA 1989-1990 and Nowといった表記が出るのだが、この、所謂ビデオ撮影をしたことがあるヒトならRecボタンを止めてカメラを振り下ろした際に、押すタイミングや、押してから実際に止まるまでのタイムラグに、不要な映像が入ってしまう経験があると思う。このショットにしても、本来は雲を映すだけで良いものだ。しかし、地上へと振り下ろす画が入ることで、観客は亡き林由美香を天に見送り、そして現実に戻される。映像で鳥肌が立つ瞬間というのはこういった瞬間だ。
 カンパニー松尾による、林由美香という魅力的な人間が居たということを襲えてくれる素晴らしい秀作だった。

トークイベント ゲスト:バクシーシ山下×井口昇

 来場予定だったカンパニー松尾平野勝之が共に来ないという、驚く結果に呆れていたら、代理にバクシーシ山下井口昇が登場し、当人達もサブの予定がメインだけに戸惑っていたのが面白かったが、トークも非常に面白く、むしろカンパニー松尾平野勝之が来ても、作品中で全てを語りきっているので、ここまで盛り上がらなかったのではないかと思わせた。むしろ多面体に林由美香が語られて、良かったように思う。爆笑と喪失感が数秒毎に訪れるトークで楽しめた。