映画 「RYAN[ライアン]」「NOTHING [ナッシング]」「空中庭園」「森達也 〜自分であることの表現」「野中章弘 〜インディペンデントジャーナリズムの追及〜」

molmot2005-10-12

193)「RYAN ライアン」〔Ryen〕 (シネセゾン渋谷) ☆☆☆★★

2004年 カナダ カラー ヨーロパンビスタ 14分
監督/クリス・ランドレス    声の出演/ライアン・ラーキン クリス・ランドレス

194)「NOTHING ナッシング」〔NOTHING〕 (シネセゾン渋谷) ☆☆☆

2003年 カナダ・日本 カラー シネスコ 89分
監督/ヴィンチェンゾ・ナタリ    脚本/ザ・ドリュ−ズ     出演/デビッド・ヒューレット アンドリュー・ミラー ボビー マリー=ジョゼ・クローズ
ナッシング [DVD]

195)「空中庭園」 (ユーロスペース) ☆☆☆★★★

2005年 日本 「空中庭園」製作委員会 カラー ビスタ 114分
監督/豊田利晃    脚本/豊田利晃     出演/小泉今日子 板尾創路 鈴木杏 広田雅裕 ソニン 大楠道代
空中庭園 通常版 [DVD]
 改めて言うまでもないことだが、作品と作品の周辺状況は分けて考えられるべきだ。例えば、監督が数年ぶりに撮ったからとか、自宅を抵当に入れて撮ったとか、借金しまくって撮ったからと言って、だから作品も良いという一方的な好意は不可だ。
 だから、豊田利晃の逮捕と作品の質は全く別のものであり、豊田利晃を支持したい気持ちから不必要に作品を持ち上げてはならない。こんなことを言うのも、つまらないことを言うヒトが居たからで、大体自分は「アンチェイン」が佳作だった以外、豊田利晃はロクな映画を撮っていないという否定的側面が強いのだから、作品以前の部分で持ち上げる必要がない。
 「アンチェイン」は良かった。動物園前シネフェスタで観たが、出てきて外の光景が映画と同じであったことにあれほど感動したことはない。しかし、劇映画においては豊田利晃の作品は支持しかねた。熱心に支持される方も居たが、この程度で持ち上げるのはどうかと思わせた。
 前作「ナイン・ソウルズ」は大いに期待させる映画ではあった。観終わって書いたノートを参照すると以下のように書いてあった。
 ☆☆★★とした上で、松田龍平千原ジュニア、という前2作の劇映画の主演者を揃え、そこに原田芳雄板尾創路他クセのある役者の群像劇、それも脱獄囚のハナシだと言うのだから、期待せずにはいられない。ところが、不発なのである。残念としか言い様がない。
 開巻、東京が東京タワーのみを残して、荒野に変わる空撮からして、これは単なるエンターテインメントではないというメッセージが出てくるのだが、どうにも背伸びしすぎではないかという悪い予感がした。案の定、演出が突っ張りすぎて内容空疎な駄作になってしまった。
 脱獄囚が会いたい人に会いに行くというだけのハナシであり、豊田は極端なまでに荒唐無稽な要素を入れることで、自身の作家性の拠り所としようとしたらしいが、そんな上等技は豊田には未だ無理で、基本を押さえた脚本を作った上で演出で壊す作業をすれば良かったものを、脚本段階で壊してしまっているからどうにもできない。
 所謂、キャラクターや演出で見せる映画というのがある。ハナシはどうということがないのに、キャラクターが強烈だったり、演出が斬新だったり突飛だったりすると面白く観れる、というヤツだ。この作品もそのクチを狙ったらしいが、演出が悪い上に中心を担う松田龍平は大人しく、千原ジュニアは演技的には素人で、とても彼らに依存することはできない。やはり演出に負うべき映画なのだ。
 脱獄の過程が描かれていないとか、女装する服はどこで入手したのかとか、逃走のサスペンスが皆無だとかを、問題にする気はない(「クレージー大作戦」を観ると、集団脱獄における着替えの問題を実に鮮やかにやってのけているが)。ただし、彼らの動機部分であるタイムカプセルに埋められた偽札と、それぞれの会いたい人という最も肝心な部分が軽く流されてしまい、観客には全く引っかかって来ないのは問題だ。勿論、豊田はそんなことは百も承知で、これまで散々作られたベタな脱獄モノや、お宝探し映画、幸福の黄色いハンカチ映画の如きものなど作りたくもないという思いだったのだろう。しかし、前述したように、うまく使えば活きる役者を使い切れなかった以上、彼らの物語上の目的意識に観客の興味が移るのは当然で、そこでタイムカプセルや夫々の会いたい人というカセまでも、うまく使えないとなると、この作品への対応は気難しいものにならざるを得ない。伊藤美咲京野ことみ唯野未歩子鈴木杏、今宿麻実、松たか子といった魅力ある女優達を1シーン出演で見せる贅沢な趣向は大変良いのだが、唯野未歩子が花弁を切りながら、来る来ない、などと言っていたり信じがたいベタな描写が平気で入ってくるのは、どういうわけか。日本映画にありがちな湿っぽいトラウマ描写を避けたい気持ちはわかるが、こんな失敗した旦那芸を見せられても迷惑だ。
 と、散々だった。で、新作「空中庭園」にも前作同様の不安があったが、これが素晴らしい秀作になっている。遂に豊田利晃は「アンチェイン」を超える作品を作り出した。
 原作を読んでいないので比較はできないが、外枠だけを見れば、よくある家族ごっこモノで、終盤でバラシがあってと構成も読める。気をつけなければいけないのは、その家族が裏でやってることが作劇上過剰になりがちで、意図していないコメディ色が強くなりすぎる恐れがある。「ナイン・ソウルズ」でそのバランスを崩しているだけに本作など、その箇所がより難しいだけに大丈夫かと思わせた。
 開巻から、カメラは弧を描くように揺れる。マンション、町など全て箱庭のように捉えられ、これは寓話だとわかる。家族も絵に描いたような幸せの像で、家族間に隠し事はしない、性に関する話題もオープンな姿が示される。だから、板尾創路など明らかに異質な像であるのだが成立してしまっている。
 パート先のバイトにからかわれながら、表面上は笑みを絶やさず、裏で悪口を言いふらす像を小泉今日子が素晴らしい演技で見せる。これは彼女でなければ無理というぐらいはまっていた。彼女は若い頃から明るさと、影を併せ持っていて、それはもう「生徒諸君!」や「ボクの彼女に手を出すな」「快盗ルビイ」「病は気から 病院へ行こう2」「風花」といった佳作でも見せていたが、本作で遂に年齢と共に到達を見せた。しかし、いずれも演出に依存していることは、あの下手糞な演技で驚かせた「SURVIVE STYLE5+」が証明している。(続く)

Documentarist ドキュメンタリスト
196)「森達也 〜自分であることの表現」 (UPLINK FACTORY)☆☆☆★★

年 日本  カラー スタンダード 分
監督/石井哲
  
オーソドックスで正攻法な作りで、森達也入門篇的趣き。これまで著作に書かれていたことが映像化されたという感で、アテネフランセでの『森達也の夜の映画学校』の様子から始まり、「A」「A2」を軸に描かれていく。自宅菜園を作る森達也の姿など、プライヴェートな場での森の姿を物珍しく観ることができる。安岡卓治インタビューなども過不足なく、今回初めて知った「A」撮影時に16mmで撮影していた別クルーも居たハナシなどが面白かった。
 日本映画学校のドキュメンタリーの授業風景もその流れで映されるのだが、生徒達がインタビューを行う実習風景で、そのインタビューされているのが林由美香で驚いた。本当に唐突にどこにでも出てくる。で、続けて林由美香が安岡卓治を語る。森達也の作品に林由美香は出ていないし、平野勝之篇なら当然としても森達也篇で出てくるとは思わなかった。しかし、安岡卓治を介すれば、「ゆきゆきて、神軍」も「白 THE WHITE」も直ぐに並立化して結びつくのだから、ここでの林由美香の登場はある種の必然であるとも言える。
 カンパニー松尾の「ドキュメントラブ&ポップ 最終章 悪い夏」で、撮影現場からふいに離脱した松尾がやってきた先が西武新宿駅前で、そこには学生服とセーラー服の平野勝之松梨智子が今まさに自転車で出発しようとしている「流れ者図鑑」の始まりを観客は目撃させられる。1997年の夏の同時間軸上に存在する2つの作品がふいに接近する様が良い。
 林由美香のふいの画面への出現は、「GAMERA1999」の開巻の居酒屋を例に出すまでも無く、「報道ステーション」でもそうだったし(もっとも亡くなったことを告げるニュースなのが残念だったが)、あるいは今度上映される「日曜日は終わらない」がNHKのことだからフイに再放送されることだってあるかもしれない。又、膨大な出演作をほこる方だけに、今後も所構わずふいに画面に出現するだろう。
 森達也にハナシを戻すと、作品としては過不足ない作りで、満足できたが、こう森達也側に全面に立たれてしまうと、少しは責め込んだ問いかけもしてほしかったと思う。「A」「A2」での情感へ流れていってしまう作りへの疑問、一応『事件』を持ち出してくるが、これは世間への言い訳ではないのか、本当に入れたかったのかとか。あるいは、森達也のマイノリティ側への優しい視点は同調する点もあるが、一方で最近でも奈良のラップババア側に立つ森達也の発言は、どうなのかと思った。隣家にラップババアやオウムの残党が来ればやはり嫌だ。とは言え、森、安岡が語っていたオウム以降の絶対悪を見つけ出して総攻撃する世界になりつつあることの恐怖はよくわかる。

197)「野中章弘 〜インディペンデントジャーナリズムの追及〜」 (UPLINK FACTORY) ☆☆☆

年 日本  カラー スタンダード 分
監督/石井哲