映画 「誰がために」

molmot2005-10-31

207)「誰がために」(シアター・イメージフォーラム) ☆☆☆

2005年 日本 パル企画 カラー ビスタ 97分
監督/日向寺太郎     脚本/加藤正人     出演/浅野忠信 エリカ 池脇千鶴 小池徹平 宮下順子 小倉一郎

 黒木和雄を主に、羽仁進等の作品に参加し、本作の協力に土本典昭の名があるなど、今時珍しい岩波な枠から出てきた(岩波映画出身という意味ではない)日大映画学科出身40歳の日向寺太郎のデビュー作である。
 まず、注目するのが、日向寺太郎による原案でありながら、脚本をベテランの加藤正人が手掛けていることで、独りよがりな監督が脚本を兼ねて、独りよがりな映画にしていたり、仲間内のどーでも良い奴が書いたロクでもない本で撮ってしまった例を見慣れているだけに、新鮮に感じる。この作品など、監督が自分で本を書くパターンの多い系統の作品だけに『プロ』としての日向寺太郎の慎重さが感じられる。
 デビュー作としては手堅い作品だと思った。地味な内容を実直に撮った生真面目な作品で、好感は持てるが、ちょっと硬過ぎる。観始めてしばらくして、どうにも遊離感が拭えず、これは何だろうかと思いながら観ていた。黒木和雄のローテーションカメラマン(鈴木達夫→田村正毅)の一員(黒木和雄の次回作の撮影はコノヒトと勝手に予測している)の川上皓一の撮影はハンディの微妙なヴァイヴレーションが心地良く決まっているし、演出も奇をてらわず、実直に見せている。科白の違和感というのは、加藤正人の科白が古臭いのかと言うと、その嫌いもあるのだが、何よりエリカの棒読みが悪い(エリカって小田エリカのことだったのね。前、もっと巧かったような気がしたが)。池脇千鶴も良くなかった。池脇千鶴ってのもなかなか適材な箇所がない難しい役者で、「大阪物語」「金髪の草原」「ジョゼと虎と魚たち」「きょうのできごと」といった芯の強い大阪の娘か、ファンタジーでしかこれまでは活かされていない。本作の様な、標準語で茶髪の普通の女子大生役というのは最も不向きで、観終ってもその印象が覆ることはなかった。
 少年犯罪による被害者側を描いた作品だが、小手先の描写に陥ることなく、実直な描写で見せてはくれるが、この内容なら60分で良いなと思わせてしまう。興行的に60分の作品をかけることの問題や、本作が退屈したということは全くなかったが、ラストの見せ方を含めてこういった作りなら、50分〜60分の作品に凝縮した方が遥かに純度が上がったと思う。又、加藤正人脚本が本作に巧く作用しているかどうかは、当初日向寺太郎が構想していたものと、どう変わって行ったか知らないので、明言できないが、若手監督にしては、上の世代への視点が常にあり、それが居酒屋だったり実家等でのやりとりとなるのだが、そういった辺りに新人監督とは言え、40歳の日向寺太郎、加藤正人の存在を感じることはできたが、それが巧く作用していたとは思えなかった。前述した若者の科白への違和感、対して
 いくらでも派手に出来る内容を、敢えて何も起こさない作りにしているが、もっと淡々とした方向に行くか、張ってあった伏線をもう少し生かす方向に持っていった方が良かった。 とは言え、正統派な監督として今後が期待できる。