映画 「ALWAYS 三丁目の夕日」

molmot2005-12-05

232)「ALWAYS 三丁目の夕日」(Tジョイ大泉) ☆☆★★

2005年 日本 「ALWAYS 三丁目の夕日」製作委員会 カラー シネスコ 133分
監督/山崎貴    脚本/山崎貴 古沢良太      出演/吉岡秀隆 堤真一 小雪 堀北真希 薬師丸ひろ子

 予め、自分が周辺状況に左右されて映画の良し悪しを決めるタチではないことを珍しく記そうと思うのは、この作品を観るのが遅れたせいで、周りの圧倒的な好評の渦に対して、反感的な態度で観たから悪く言うのだと言われるのを避ける為で、既に一緒に観た方からそう言われたから、初めに断っておこうと思う。
 大体、山崎貴の作品は好きで、「ジュブナイル」「リターナー」と劇場まで行っているし、文句はありつつも好感を持っている。少なくとも、所謂特技監督上がりの中では、樋口、曽利より遥かに監督としての資質はあると思っている。
 やはり本編と特技監督の兼任が良い形で作品に反映されており、前2作共その点において文句はなかった。殊に「リターナー」では本編の大部分がブルーバックを多用したCGとの合成が主の作品だったが、銀残しで実写とCGの決定的な質感の差を埋める努力がなされており、「アヴァロン」もその成功例であるように、せめてカラコレで質感の差を埋める努力を何故しないのかと「梟の城」や「スパイ・ゾルゲ」で作品の根幹にまで悪影響を及ぼしているCGの使い方を観ながら思ったものだ(作品の公開順が異なるのは承知している。今から観て、ということで)。
 作品としても山崎貴の作品は決して悪くはなく、ただ根幹の箇所を有名作品から持ってきてしまう為に作品の個としての存在価値が無効になってしまうのがいつも惜しいと思っていた。「ジュブナイル」が「仔鹿物語」のパターンに収まっているのは以降に数々の亜流の作品を生んだから良いとしても、デビュー作でこのパターンを踏襲するのは石井竜也や、秋山貴彦にしてもそうだが、勇気があるというか、自信過剰と言うか。
 「ジュブナイル」にハナシを戻すと、細部のエピソードのネタ元が明快な上に、ガンゲリオンというまさかその語源は、と思っているとパンフに堂々とエヴァガンダムと書いてあって力が抜けたのは本編と関係ないから置くとしても、ローソンから走って出てくるのを態々意味もなくハイスピードで撮っている不快さや、撮影を岩井俊二の大傑作「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」と同じ飯岡町で意識的に行い、麻木久仁子をこれまた意識的にキャスティングしている厚顔無恥さに腹立てたり、「リターナー」における全篇を貫くパクリ具合は、自分の場合はむしろ不味いと思いつつも見せきる力は十分感じ、それだけに何故、ここまでの技術がありながらオリジナル要素が決定的に欠けているのかと思った。そこが決定的に欠けているから、あそこまでそのままパクるしかないと言うヒトも居たが。又、これだけ一大エンターテインメントを志向している割には「ジュブナイル」では山崎貴の単独シナリオだったり、「リターナー」では共同脚本に「忍 SHINOBI」の平田研也が加わっているが、実情を知らないので推測の域を出ないものの、あくまで山崎貴のサブ的な位置に居たのではないかと思われる。その証拠に作品の散らかり具合が顕著で、終盤間際に慌てて張っていた伏線の回収を、かなり手際悪くやっていたことからも伺える。
 とは言え、「リターナー」は、パクリ具合を糾弾する方々ほど悪いとは思わなかったし、あの作品が公開された年はあまり映画が観られなかったせいもあるだろうが自分の中では佳作だと思った。
 それだけに「ゴジラ FINAL WARS」の監督に手塚昌明北村龍平と並んで山崎貴が候補に挙がっていると聞いた時は、是非山崎がやるべきだと思った。又、「鬼武者3」のオープニングムービーも見事なものだった。
 そして監督第3作として「三丁目の夕日」を実写化すると聞いた時は、期待と不安があった。
 期待としては、これまでのオリジナル作品では露骨なパクリが作品の価値を無効にしていただけに、原作モノであればこれまでとは違った展開があるかもしれない、それに実写と特撮のバランスは山崎貴なら偏ることがない、と。
 不安としては、芝居を撮れるのか、又やはりどうしても「スパイ・ゾルゲ」的に時代の再現にばかり力が注がれてしまうのではないか、と。
 作品に接してまず思うのは、日本映画におけるオーソドックスなハナシをオーソドックスに撮れる人材の消滅である。撮影所が無くなるとこういう弊害が顕著にメジャー系の映画館で起こってしまう。
 この作品への圧倒的な絶賛は、「雲の向こう、約束の場所」の構造に似ている。即ち擬似ノスタルジー。作品を絶賛しているのではなく、作品を透けてその向こうにある、観客が脳裏に浮かべる理想的ノスタルジーの喚起をこの作品は誘発しているだけで、作品そのものの魅力は極めて薄い。
 具体的に不味いのは、切り返しや、繋ぎの違和感や深いフェードの使い方は勿論だが、構成に難がある。群像劇なのに、それに相応しい演出がなされていない。
 伏線の張り方も妙で、一平の肘を縫うエピソードは、もっと前半で振っておくべきで、あんな縫って直ぐ淳之介と共に母親探しに出かけてはミエミエで、ハッとさせてはくれない。 竜之介が突如テレビを壊すのもそれ以前にせめて、僻んでいるような様子や酔っている様子でもあれば納得できるが、かなり控え目な男に見える割には突然の無茶な行動で疑問だ。
 淳之介が描いたカレーを食べている食卓を囲んだ絵も、カレーを食べる肝心のシーンが淳之介にとって幸福な瞬間でなければならず、それならば淳之介の嬉しそうな顔のアップや、カレーを口元に美味しそうに運ぶショットが引き立たねばならないのに、そうはなっていない。それに授業で家族の団欒の画を求められるシーンが必要になる。
 竜之介の盗作も随分なハナシだが、淳之介の一言で終わらせてしまっているが、観ている方はかなり引っかかるが、その後は何も描かれない。
 相変わらずすっかり腹の出たピエール瀧の氷屋が、冷蔵庫の普及で不振になっていくのを、ロングで手前に捨てられた氷冷蔵庫ナメでそれを見つめる瀧という驚くような単純明快なショットで説明してしまうのには呆れた。
 前半のスラップスティックな展開も、演出がそれに応えていない。堤真一を筆頭としたオーヴァーアクトを、必要に応じて押さえ込んでもらいたい。
 もたいまさこを筆頭とした近所連中も、一平と淳之介が行方不明になったら騒ぐべきで、あの二家族と警官だけではなく、騒ぐ、もたいまさこというのがが必要の筈だ。
 VFXに関しては、かなりの部分で満足した。開巻の飛行機に合わせて空撮になる様子や、東京タワーからパンダウンするショット等で一部CG臭さが目に付いたが、それ以外はかなり良い。CGでの過去の街並みの再現が映画にもたらす影響は大きいと思っているので、そういった手法が導入されている作品は極力観に行くようにしているし、殊「スパイ・ゾルゲ」の様な企画は素晴らしいと思っているのだが、昭和再現モノとしては最上の部類ではないだろうか。その点は山崎貴は流石と言うべきで、カラコレで質感の統一もしっかりなされており、どこかの「スパイ・ゾルゲ」みたいな惨状にはなっておらず、作品の世界観作りに大きく貢献し、又ドラマ部分の邪魔にも、どこかの「スパイ・ゾルゲ」みたいになっていなかった。
 どうも年寄りの監督は、CGに驚きすぎではないだろうか。篠田正浩は目が悪いのか知らないがあの遊離しまくりのCGをどう思っているのか。本作を観てどう思うのか聞いてみたい。黒木和雄まで「父と暮らせば」で止せば良いのに低予算で無茶なCGの使い方をしている。明らかに作品の質を落としているのに、その箇所の違和感にあの名匠達が気付かない筈がないと思うのだが。大体、実写を補う程度の使い方にしておけば良いのに、フルCGでしかも実写のカメラでは出来ないような無茶な動きをやるものだから観ている方は当然モロにそれを追うわけで、違和感が残ることが多い。
 東京タワーを背景にした大通りのロング、上野駅、銀座、路面電車を含めて、安易にフルCGにせずに、セット、ミニチュア、CGの併用が効果を上げていて、理想的だった。これで、「モスラ」を「キング・コング」的にオリジナルが製作された時代を背景にリメイクするとか、通常のドラマの中にこのクオリティで取り入れられたら、どんなに良いだろうと思う。
 観る前は東京タワーの建設をこれ見よがしに挿入されてはたまらないと思っていたが、かなり控え目な見せ方で、これならもう少し作品の根幹に東京タワーの建設描写が入っても良いと思った。
 出演者では、小雪が背は高すぎるが良かった。堀北真希は「情事の履歴書」みたいに、集団就職から転々と身を落して売春婦になるのかと前半で期待したが、当然ながらそんな展開にはならなかった。
 作品としては、全く魅力に欠けたとしか言い様が無く、根幹を貫く芯が無いエピソードの羅列で、観客が勝手に擬似ノスタルジイに浸れるようなお膳立てを表層的に用意しているだけのものだった。本来、こういったオーソドックスな内容をオーソドックスに職人技術で安定した見せ方ができる監督と言うのは、当然のように大勢居たのに、果たしてこの作品はどうだったろうか。山崎貴は、悪くない演出手腕があると思っていただけに、やはりこういったオーソドックスな職人技術を求められると、馬脚を表してしまっているのではないだろうか。 
 観客の反応は夫々勝手なのでとやかく言う筋合いはないが、評論家が作品評の中で作品の中身に殆ど触れず、聞いてもいない自分の昭和30年代の思い出を得々と語る方が多いのは、どうかと思う。それなら、深夜のCD通販番組で懐メロのバックに流れる60年代の映像でも何でも良いのではないだろうか。