映画 「カミュなんて知らない」「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」

molmot2005-12-25

映画『カミュなんて知らない』公開記念 〜映画でピュアな青春を描くこと〜 映画上映&トークイベント(みらい座いけぶくろ〈豊島公会堂〉)

 会場の仕切りは、たぶん立教の学生だと思うが、チラシをセットにした袋を来場者に入り口で全員に配っているから、自分が入る際にもくれるのかと思ったらくれない。手を出しても無視されたので、大量にバラ撒いているらしい招待客にしか渡さないのかとも思ったが、そうでもないらしい。ま、別にチラシ如きで文句を言う必要も無いのだが、それが以降の不快感を増長させる発端だった。
 所詮豊島公会堂で、観客の大半は大量にバラ撒いているらしい招待客だから、ある程度覚悟はしていたとは言え、前に座っている母親と息子は終始地声で会話し、左横の親父はあろうことか上映中にペンライトを何度も煌々と照らし出しチラシを見るという行為に出、その合間に映画館ではお馴染みのビニール袋をガサガサいわせるというヤツを数倍激しくした音を出し、一方正面ドアを開閉するとスクリーン全体に光が差し込むにも係わらず運営側はこれを放置したので、上映中かなりの頻度でドアが開閉された(流石にこれは次の上映からは改善されたが)。上映中に携帯の液晶の光が、なんてのは当然お構いなしで、後方に座っていたからよくわかったが、そこかしこで光っていた。
 以上のことは、上映前に一言注意をアナウンスすれば相当改善された筈である。
 というわけで、上映環境としては最悪且つスタッフの仕切りも最悪で、ロクでもない上映イベントだったと言うしかなく、こういった上映では監督の柳町光男並びに作品に対して余りにも失礼で、作品への冒涜というものだ。
 ま、7割程の席はカミュの上映時には埋まっていたが、どーせ殆どが大量にバラ撒いているらしい招待客だろうから、自分も含めて僅かながらに居たであろう入場料を払った側が馬鹿を見たというだけのハナシで、結局は来月には公開となる「カミュなんて知らない」を少し早く、それも「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」のニュープリント版も含めて1300円で観られるというのでノコノコ出向いた自分の愚かさを悔いるしかない。
 ホール試写などもこれに近いものがあり、一時期は試写会に矢鱈と応募したりツテを辿って潜り込んだりしたが、ホールなんて光は拡散するし、音も悪いし、会場の照明が完全に落ちずに薄明るかったりとロクなことがなく、本当に劇場で観たい作品は、イマジカの試写室みたいな場所なら兎も角、お気に入りの環境の良い劇場で観るに限る。
 

245)「カミュなんて知らない」(みらい座いけぶくろ〈豊島公会堂〉) ☆☆☆★

2006年 日本  「カミュなんて知らない」製作委員会 カラー ビスタ 115分
監督/柳町光男    脚本/柳町光男    出演/柏原収史 吉川ひなの 前田愛
中泉英雄 黒木メイサ 
 
 柳町光男10年ぶりの新作である。柳町光男に関してはリアルタイムで作品に接するのはこれが初めてで、実際自分が映画館で観始めた年代から考えても「チャイナシャドー」「愛について、東京」「旅するパオジャンフー」ぐらいしか発表していない。観ている作品は「十九歳の地図」「火まつり」を随分前に観たぐらいで、これを機に全作観たいと思っている。と言っても新作を含めて8本だから軽い。
 寡作なヒトだが80年代迄の圧倒的評価に比して、90年代の諸作は田山力哉等が辛辣に批判していたことを思い出す。
 従って、自分は柳町光男については恥ずかしながら無知そのもので、何の偏見もなく作品に接した。予告篇は以前から観ていたが、言っては悪いが柳町光男でなければ絶対観ない類の作品だと思った。映画作りに励む大学生と少年犯罪のハナシなんて、青臭いのは目に見えているからで、いかにもDV撮りで聞いたことも無い監督が作って下北やアップリンクで流してそうではないか。大体、映像ワークショップを受講する学生達が課題制作で映画制作を行うハナシ自体、相当キツイ。不要な自身の体験を思い返し、嫌なことを蒸し返されるような気分と言うか、実際観ている最中に正にそういった思いを味わった。監督がクランクイン日に来なくてどうしたと聞いたら、西国三十三所巡礼に旅立ったとか、監督が撮影に来ないのでカメラマン主体で撮りきったら繋がらなかったとか、もーっと思い返したくない出来事とか。
 この作品に関しては予告以上の予備知識を持ち合わせていなかったので、映画制作と劇中劇として展開される少年の老婆殺しが、どういった多重構造を持つのかということに興味があった。観ている最中は、柳町光男は少年犯罪をやりたくて、そこに映画制作を行う大学生という枠組みを入れたのだと思っていたが、上映後のトークによると、大学生が映画作りを行うハナシを先に発想していたそうである。勿論本作のモデルになった実際の事件にも興味を持ち調べてはいたとのことだったが。
 観る前は予告から受ける印象から、役者が本当に老婆を殺してしまうという展開に持っていくのかと思っていた。しかし、そうではなく作品の中心を占めるのは映画制作準備に追われる学生達の群像劇としての描写であり、その中で劇中劇としての老婆殺しがリハーサルを通じて全篇に渡って浸水していく。
 「光の雨」や、「17歳の風景」といった失敗例を見てきているし、「誰がために」の様な踏み込みの足りなさへの不満を感じることもあったが、本作に関してはそれらの作品に比べれば質は高い。人物達の言動への不満点は多々あるが、それでも作品の根幹が揺るがなかったのは、柳町光男が演出に徹した映画を作ったからだ。この手の作品で最も問題なのは、劇中で映画を作るなり、演じるヒトが下手なのは良いが、今観客が目にしている作品そのものの作りが下手であれば、これほど苦痛なことはない。その点本作では、撮影の藤澤順一他、プロ達が一部の隙もない『映画』を成立させることによって強固な立脚点が築かれ、多少の風俗的表層の違和感によって作品がブレることはない。
 縦の構図を多用して立教大学内を捉えた各ショットが素晴らしい。開巻の長回しは、ヒトが言うほど魅力的とは思わなかったが。
 吉川ひなのの科白も含めて、浮遊感が相当微妙だとか、各キャラクターの言動を取り出せば、首を傾げる描写も多いし、本田博太郎(以下ウパー)と黒木メイサ(殆ど喋らせなかったのは正解で、つかこうへい劇団出身というから、さぞと思っていたら「同じ月を見ている」の演技が壊滅的で、ま、監督が悪いせいもあるが‥そー言えば、つかこうへいで深作健太とは因縁を感じる)のエピソードがうまく機能していたかとか、諸々あるのだが、そういったところでも演出が過剰化さずに又乱れないので、近年の日本映画で怒りが込み上げるような事態にはならなない。
 ただし、前田愛が、VX2100を払い飛ばして破損させる件はあんまりだが。ケツメイシの「さくら」のPVは、萩原聖人仲村トオル鷲尾いさ子にやっているのと同様に和久井映見を家では蹴飛ばしまくっていた)がボレックスで自主映画を撮っているという設定で、木の下で出合った鈴木えみも映画作りをしているという、ふざけたシチュエーションだが、その中で萩原聖人和久井映見の腹を蹴った様に自暴自棄になってボレックスを破損する。これを見せられると、カメラをこんな扱いをする奴は自主であれ映画なんか撮るなという気分になる。前田愛も同様で、最終的にはコイツが監督する(しかも、ま、ワークショップだからフィルムではなくDVだ。たぶん使用していたのはDSR-PD170)のだが、カメラをこんな扱いにし、しかもその後のエピソードでカメラ破損の問題が全く扱われていないのはどういうことか。それまでは、HDの増設やFCP購入で十万かかるとか言って困ってたのに。修理代はどうしたのか。保険なら保険で科白で聞かせるべきだし、カメラを壊すなら「流れ者図鑑」の平野勝之の様に蹴飛ばすだけの理由が欲しい。
 後半は実際に撮影に入るわけだが、ここでの劇中劇と犯行の描写の混濁は良い。しかし、結局は少年の老婆殺しが映画制作に打ち込む群像の中で熟成した描写に昇華されたとは言い難く、犯行シーンにおける直接的な描写の強さが強烈すぎるのかもしれない。それは、犯行シーンにおいてもDVの映像を使わず、一貫して35の映像だったせいかもしれない。
 柳町光男は実際に早稲田で講師をしていたせいも多々あるのだろうが、世代間のズレは当然あるとは言え、極端に酷い惨状を示すことなく、演出力で見せきった。決して傑作とも佳作とも思わないが、こういった誰が撮っても臭くなるような題材でもプロの手腕によってここまでの作品になるのだということがわかって良かった。
 観終わった後の感触は悪くない。
 

トークイベント  柳町光男×山根貞男×宇野邦一
246)「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」(みらい座いけぶくろ〈豊島公会堂〉) ☆☆☆★★

1976年 日本 プロダクション群狼 モノクロ スタンダード 91分
製作/柳町光男 
ゴッド・スピード・ユー!/BLACK EMPEROR [DVD]