映画 「かえるのうた」

molmot2006-01-17

5)「かえるのうた」〔援助交際物語 したがるオンナたち〕(ポレポレ東中野) ☆☆☆★

2005年 日本 国映株式会社 新東宝映画株式会社 カラー ビスタ 65分 
監督/いまおかしんじ    脚本/いまおかしんじ    出演/向夏 平沢里菜子 吉岡睦雄 七瀬くるみ 佐藤宏

 いまおかしんじ(劇場に日参しているらしく姿を見かけたが、これまで舞台上とか離れた位置で目にした時も思ったが、至近距離で見てもやはり中島らも系のニオイがするオッサンやった)の作品には造詣が深くはないので、近作を夫々受け止めているというだけに過ぎないので体系的なことは言えないが、「たまもの」も世評ほど良いとは思わないにしても、引っ掛かってくる作品を作るヒトだと思った。
 昨年ピンク系で公開された「援助交際物語 したがるオンナたち」を改題して一般劇場で公開するという、「たまもの」以降の「肌の隙間」「花井さちこの華麗な生涯」「ビタースイート」といった流れに沿った本作は、普段ピンクチェーンに日常的に通わない不勉強な自分にピンクの枠組みからこんなにも豊かな作品が量産されていることを教えてくれる1本だった。
 開巻の向夏と彼氏が食卓を囲むショットからして既に机の上や後方の棚には、かえるが配置され、以降多くのシーンで向夏の鞄のかえるを主にしながら、かえるが画面のそこかしこに置かれている。そして遂には、そこかしこに居たかえるが成長したかのように雑貨店で着ぐるみのかえるが登場する。ここで、少年が育てた亀がやがてガメラになったかのような「大怪獣ガメラ」を想起させるのは自分の妄想が甚だしいとしても、感心するのは、こんなにもこれ見よがしに画面内にかえるを配置すれば、余りにも意味を持ち過ぎ、記号性が勝ちすぎるのではないかという不安を持つのだが、杞憂に終わった。いまおかしんじは、アカラサマな記号性を中盤の平沢里菜子の部屋での二人の『かえるのうた』を唄い踊る姿をフルサイズのFIXで捉え続けることで、『かえる』という記号そのものをリセットしてしまい、以降向夏の鞄、向夏の坂道でのかえる飛びという動作以外はラストシークエンスに至るまで、前半のかえるが画面を覆うようなことはなくなる(と言ってこっちは、かえるばかり観ていたわけではないので、再見しないと厳密なことは言えない。各ショットのディテイルの素晴らしさに目を奪われていたので、かえる探しみたいな下品なことを続ける余裕がなかった)。
 向夏が魅力的だ。漫画喫茶で平沢に持っていかれた「がんばれ元気」を返してと袖を引く仕草からして可愛い。対して平沢のブスッとした刺々しさは最初、さほど魅力的に思わなかったが、後半に行くに従ってどんどん魅力的になっていった。そう言えば、AVの平沢を知らなかったのだが、同行したヒトはよく知っていたようで、始まる前にNGの少ないヒトという言い方をしていたので、何のことかと彼女の出演している作品を調べたら‥確かに何でも来いな雰囲気である。その当たりの一線を越えた妙な存在感が本作での、奇妙な魅力になっているのかとも思う。
 前半までは、部分部分で突出する魅力的な箇所があるものの、全体からすれば二人の関係性の強弱を平田に負う部分が多かった為か、昇華しきれていないようにも思えたが、中盤以降の平田の部屋で、二人が喧嘩する様子をFIXで捉えたショットの空間把握、持続が素晴らしい。
 そして、ラストを割ってしまうが、終盤の向夏が彼氏の部屋に入ろうとするも一瞬躊躇する廊下から、この作品は一種の崇高性を帯びた空間が現出し始める。意を決してドアを開け中に入り、右側の部屋にカメラが向夏の主観で回り込むーそこに居る二人の子供、そしてフレームインして来る年を増した向夏。鳥肌が立つ感動的な瞬間は更に続く。駅前の広場で二人の子供と佇む向夏に、かえるの着ぐるみが近付いてくる。それは平沢であり、数年ぶりの再会を果たした二人は、この作品の登場した全ての人々と共に『かえるのうた』を唄い踊るという祝祭的なラストシーンが生まれる。
 それにしても終盤には参った。『凄い』と感嘆する空間が生まれ、全く自然にシネミュージカルを成立させてしまっている。
 4月のピンク大賞で「援助交際物語 したがるオンナたち」が上映されれば、また再見できると期待してしまうほど、小品の魅力溢れる作品だった。
 書き忘れていたが、平沢の机の上の中央公論社版「まんが道」全四巻、「エデンより彼方に」「ばかのハコ船」のチラシのさりげない配置も良かった。