映画 「こちら葛飾区亀有公園前派出所」

molmot2006-03-05

44)「こちら葛飾区 亀有公園前派出所」(MOVIX亀有) ☆☆★★

1977年 日本 東映東京 カラー シネスコ  80分
監督/山口和彦    脚本/鴨井達比古    出演/せんだみつお 浜田光夫 荒井注 松本ちえこ 由紀さおり 夏木マリ

 8年程前にも梅田花月シアターの今は亡き夜だけ映画館、シネマワイズで実写映画特集の際に上映されたのだが、見逃してしまい、以降観る機会を待っていた。ようやく実現したのは、亀有の駅前近くにMOVIX亀有がオープンしたのでその記念にご当地映画として上映されることからで、料金は500円なので、いかに電車の乗り換えが面倒でもオープンしたばかりのシネコンの良い環境で実写版こち亀が上映されるなら駆けつける必要がある。
 せんだみつおの実写版こち亀の存在を知ったのはいつからだったか。原作の単行本の初期の頃にそういった記述があったので知ったのではないかと思う。ビデオ化、DVD化、テレビ放送もされていないので現在においては認知度がかなり低い筈だが、原作の世界観をかなり大事にしたプログラムピクチャーとして悪くない破天荒さに満ちていて楽しめた。
 監督の山口和彦って「恋の狩人 ラブ・ハンター」のヒトだっけと一瞬思ったがアレは山口清一郎だった。山口和彦のフィルモグラフィーを参照したら、「多羅尾伴内 鬼面村の惨劇」「ビッグマグナム 黒岩先生」「菩提樹 リンデンバウム」は観たなあと。初期の作品郡は今ならラピュタ阿佐ヶ谷あたりでレトロスペクティブやれば良いなと。ケッコー無茶する印象のある監督で、初めて作品と接したのは、横山やすしが死んだ日にテレビ大阪で追悼放送された「ビッグマグナム 黒岩先生」で、やっさん死んだと言ってるのに何故やっさんが生徒に向かって銃を乱射する映画を放送するんやと不思議な気分で観ていたが、翌日高校の教室で一部の偏った男女達で「ビッグマグナム 黒岩先生」の凄まじさを語ったのを思い出す。メット被ったやっさんが銃片手に例の独特な歩き方で進むシーンを早速会得した女子が物真似していた。
 そういうわけで、既に作品に接する前から猥雑さが予想されると言うのに、客席には幼児や子供を連れた親がケッコー多く、アニメの印象で来てしまっているんだろうかと思ったが、ま、下町の子供なんだから、こういう猥雑さに塗れて抵抗力をつける幼児教育だと好意的に解釈することにした。
 両津を、せんだみつお、戸塚を浜田光夫、寺井を荒井注、署長を龍虎と、一見違和感がありそうだが、前述した様にかなり原作に外観も近づけてあり、せんだみつおが眉毛を繋げてオーバーに口をマゴマゴさせて飛んだり跳ねたり転がったりしていれば、かなり原作に近い印象を受ける。それは他も同様で戸塚の顔の傷、寺井の丸眼鏡、署長の口髭など、ちゃんと生かしている。原作クレジットが『山止たつひこ』だったので、正に初期のこち亀だとわかるが、実際連載開始から一年での映画化である。作品のテイストも初期のこち亀的だった。
  ハンディでブン回した乱暴なカメラワークとズームであまりカットを割らずに見せきるシーンが多いが、同時代性の表現技法としての使用はあるだろうが、それ以上にスケジュールもかなり詰まって製作されたのではないかと伺える。リアルタイムでは全盛期は知らないが、この頃のせんだみつおの人気たるや凄まじかったと聞くが、恐らくせんだのスケジュールの影響だろう、本筋の重要なシークエンスである派出所内での出産騒動や、警察署内での松本ちえこの姉のストリッパーを保釈要求するシーンに、せんだの姿がなく、その分、出産シーンでは田中邦衛(実写「ルパン三世」の次元役と言い、現在における及川光博並に実写作品に合う役者だ。後年例のガセだった「天才バカボン」実写化の噂の際にバカボンのパパ役と言われたのは正統的なキャスティングだ)を主に荒井注らで固めたり、署内のシーンでは浜田光夫の独壇場にしている。その分、両津が主体と言うにはやや薄まるが、しかしそれは、せんだの演技力を考慮すれば賢明な判断と言えるかもしれない。ルーティンギャグとして由利徹を用意しているのも良く、荒井注とのやり取りなど軽演劇的楽しさで嬉しくなった。
 特筆すべきは、下ネタの数々の他、開巻間もなくの由紀さおりの店で両津が大量に飯を食うシーンで、やはりと言うべきか由紀さおりが、カメラ目線で歌う。それもフルで。で、歌う由紀の背後で無心に食い続ける両津の姿や、猥雑に口に詰め込む姿がインサートされるのが爆笑ポイントである。そして、両津が敵に囲まれて窮地に陥るとBGMが流れ、シネスコの画面にドーンとそのまま流用したGメン75のオープニング映像が映される。で本当にGメン75の面々が登場して窮地を助けてくれる。で、丹波哲郎が、この手柄はおまえにやろうと言い残してGメン歩きで皆去っていくという凄まじい展開となる。
 (以下ラストのネタバレ含む)
 
 個人的にはクライマックスの派出所に東アジア反日武装戦線大地の牙をもじった、大地のモグラが襲撃をかけてきて、両津と松本ちえこを人質に立て篭もる展開が楽しかった。
 ラストは派出所が爆発する素晴らしい展開で、10年ほど前に松竹で「じゃりん子チエ」が実写化されるという噂がたった時に、テツは赤井英和がやるとして(現在テツをやるならスティーブン・セガール。従ってチエは藤谷文子)、ラストはホルモン屋が火事になって、逃げ遅れたヨシエはんをテツが火中に飛び込んで救出するという展開が良いのではないかと漠然と思ったが、漫画の実写化において主舞台を爆発なり火事で消滅させるという展開は、ある種のパターンとして必要なのではないかと思っている。ま、こち亀で派出所爆破は原作にもあるわけだが。
 乱暴な作りの作品だが、プログラムピクチャーの楽しさに満ちた作品で悪くない。ソフト化されれば良いのにと思うが、東映のDVD化の路線はよくわからないので、当面は無理か。