「IDENTITY(アイデンティティ)」改題「セキ☆ララ」へ

 http://d.hatena.ne.jp/matsue/20060317

 松江哲明監督の秀作「IDENTITY」が劇場公開の運びにあると、neoneo50号にも記されていたが、先日ポレポレ東中野での「スティヴィー」公開記念オールナイトで松江監督にお会いした時に、タイトルを変えると聞いた。その際はカタカナ文字になる、間に☆が入るとのみ聞いただけだったが、はっきり言って不安しか感じなかった。と言うのも、既に「IDENTITY」もしくは「アイデンティティ」というタイトルでそれなりに浸透しているだろうし、果たして今になってタイトルを変える意味があるのかと思った。又、自分が「IDENTITY」というタイトルが作品に合った良いタイトルだと思っていることもあって、果たしてどんなタイトルに改題されるのだろうと不安を抱いた。
 カタカナ文字、間に☆と聞いて、つのだ☆ひろみたいと思ったが、予想では「アダルト」とか「ザイニチ」、或いは「青 Chong」的に敢えて「チョ☆ン」とかかな思っていたが、まさかそんな狙い過ぎた安っぽいタイトルに改悪することはないだろうとも思っていたので、「セキ☆ララ」というタイトルは、スンナリ入ってきたし、違和感なく受け入れられた。既に松江監督のフィルモグラフィーには「赤裸々ドキュメント」という類似題があるが、このタイトルがメーカー側の命名であることを考えると、「セキ☆ララ」というタイトルになった過程は興味深い。
 当初アップリンクXで公開と言われていたのが、シネマアートン下北沢での公開、タイトル改題という流れは、明らかに「IDENTITY」とは違う流れに乗せて、当てようという明確な意思が伺える。つまりは、評判になったAVを劇場公開してみました、というだけで終わらせない意思が。既にDVDが一昨年に発売されている作品で、劇場公開版用に短縮してある版も既に観ている自分などは、「IDENTITY」のまま公開されれば周辺の人々に薦めることはあっても、観に行こうとは思わなかったと思うが、短縮版と同じ編集でタイトルを変えただけと聞いても、「セキ☆ララ」となったならば、思わずまだ観ていない友人を連れて観に行こうと思ってしまう。映画におけるタイトルの喚起力とはそーゆー部分にあるようにも思う。
 前述のポレポレ東中野で、「IDENTITY」というタイトルではありきたりで、と言うようなことを監督は言っていたが、「わくわく不倫旅行」が「由美香」に、「わくわく不倫旅行2」が「流れ者図鑑」に、あるいは一般公開されるピンク映画の改題とは逆の印象がある。
AV版が「セキ☆ララ」で劇場公開版が「IDENTITY」ならしっくり来るが、その逆をやろうとしているのだから面白い。
 個人的には、昨年のアテネフランセで「IDENTITY」短縮版上映時に、DVD版しか観ていないヒトが情報のみでカラミを全てカットしたヴァージョンと思い込んで批判したような事例が、「セキ☆ララ」を実際に観ることで、どう受け止められ、又、AVと映画、AVとドキュメンタリー、そしてハマジムについて、より幅広く議論の対象となることを期待したい。
 6月3日(土)から23日(金)までシネマアートン下北沢で夜9時からレイトショー上映されるとのことである。又、「あんにょんキムチ」「カレーライスの女たち」が2本立で5月27日(土)から6月2日(金)まで再上映されるらしいのが、二作とも傑作なのにソフト化されていない上、何度も観たくなる『タチの悪い映画』なので、これも観に行くしかない。

 因みに、来週には松江監督が編集を担当した、一体誰が本当のディレクターなのかわからないドキュメンタリー史に残る怪作になるであろうことが予想される「森達也 ドキュメンラリーは嘘をつく」が放送されるし、松江監督のブログでアナウンスされていないので控えるが、こーゆー新作ももうすぐ観れるので楽しみだ。新海誠以降のアニメ畑の一攫千金が夢ではない状況とは程遠い実写畑の貧乏話を聞いていると、2500万とか1000万獲れるかもしれないAV OPENのような企画は良い。それ以前に、自由に作れて注目を集めることができることが大きいのだとは思うが。