「犬神家の一族」クランクインと市川崑リメイクの系譜 

molmot2006-04-18


一瀬隆重のブログに「犬神家の一族」クランクインの報。又、金田一ファンサイトの掲示板にロケの模様が。
 というわけで、無事クランクインしたらしく期待が高まるが、やはり市川崑は座りっぱなしでモニターを見ながら監督補の手塚昌明に指示出ししているらしく、実質現場を仕切っているのは手塚のようだ。90年代後半の市川作品についていた手塚昌明だから安心ではあるが、監督としての手塚昌明はこれまでの劇映画4本とテレビの「逃亡」含めてかなり厳しい出来なので、恐らく手塚に比重がかかなり掛かるであろうだけに不安がなくもない。或いはゴジラ同様金田一マニアである手塚が、市川崑らしさを巧く引き出し、手塚が正に監督補として補う働きをすれば、ひょっとすれば近年の足腰の悪さが画面にまで影響している市川崑にある種の若返りが出てくるのではないかという期待もしてしまう。
 気になるのは、余りにも忠実なリメイクであるという点だ。脚本が同じというのは、市川崑の場合、「雪之蒸変化」での部分使用、「ビルマの竪琴」「黒い十人の女」「かあちゃん」での例を見ても分かる通り、珍しいことではない。又、主役が同じ役を演じるというのも、市川崑が新旧を監督したわけではないが「雪之蒸変化」の長谷川一夫の例があるし、市川作品では主役ではないが「ビルマの竪琴」で交換おばさんを演じた北林谷栄の例がある。リメイク版「犬神家の一族」において奇異に感じるのは、ロケ地まで同じという点だ。それは作品の内容に応じたロケーションが存在するとして納得がいくが、一瀬隆重のブログの写真にあるような、前作と同じ場所で撮っているのは何故か。写真は開巻の金田一の登場シーンだが、見る限りここでロケしなければならない必然性は感じない。『今回、これがどうやって昭和22年の風景になるかは、乞うご期待』とあるが、まさか前作を金田一以外は合成して再使用とかないだろうな、と。このシーンに限らず、犬神家の屋敷外観、警察署も含めてかなりのシーンで同じ場所を再使用しているらしい。
 自分は、市川崑石坂浩二金田一の新作を撮るのは無上の喜びだが、「犬神家の一族」のリメイクには疑問を感じている(「八つ墓村」と言い、タイトルの有名度だけで決して映画に向いていない作品が選ばれてしまうのは辛い)が、キャスティングや大作として製作している姿勢を見て、これは復活のための布石であると考えるようにしている。この作品を成功させることで、市川崑×石坂浩二で引き続き「本陣殺人事件」「三つ首塔」あたりをが映画化されれば嬉しいが、今年市川崑は91歳なので、ひたすら健康を願う。
 ところで、前作で坂口良子が演じた女中・はるのキャスティングが未発表だが、今春の連ドラ主演女優らしいが、監督補が手塚昌明なので、釈由美子ではないかと予想。
 「八つ墓村」辺りまで市川崑にはリメイク不敗神話といったものがあった。セルフリメイクも含めて市川崑はリメイクの作家といっても差し支えない。「新説カチカチ山」「娘道成寺」「四十七人の刺客」「新選組」「つる」「源氏物語」「丹下左膳」「御存知・鞍馬天狗」「トッポ・ジージョのボタン戦争」といった何度も映像化されてきた古典と言える作品やキャラクターでのリメイク、「足にさわった女」「青春怪談」「日本橋」「破戒」「雪之蒸変化」「吾輩は猫である」「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」「獄門島」「女王蜂」「古都」「細雪」「かあちゃん」「戦艦大和」「八つ墓村」「赤西蛎太」「盤嶽の一生」「娘の結婚」といった先達によって映画化された作品のリメイク、そして「恋人」「つる」「足にさわった女」「破戒」「黒い十人の女」といった自作の映画からテレビへ、あるいはその逆のセルフリメイクがある。映画におけるセルフリメイクでは「ビルマの竪琴」、そして今回の「犬神家の一族」が挙げられるが、実現しなかった松坂慶子主演での「足にさわった女」のセルフリメイク構想もあった。
 近年、その『リメイク不敗神話』も陰りを見せているという声もあるが、「犬神家の一族」はキャストも良いし、金をかけて丁寧に作ろうとしている理想的ミステリー映画の作り方をしているので期待したい。