映画 「麻薬3号」「ふりかえって・夏―対人関係を考える―」「バズーカ先生と子どもたち」「中学時代―受験にゆらぐ心―」

日本映画史横断① 日活アクション映画の世界
200)「麻薬3号」 (東京国立近代美術館フィルムセンター) ☆☆☆★★★

1958年 日本 日活 モノクロ スコープ 95分
監督/古川卓巳     脚本/松浦健郎     出演/長門裕之 南田洋子 白木マリ 大坂志郎 河野秋武 小園蓉子 柳谷寛

 ずーっと観たかった「麻薬3号」。面白いらしいと遠くから噂だけは聞いていたものの、内容は全く知らないまま観た。タイトルからどうにも「ガンマ3号 宇宙大作戦」が連想されて仕方なく、より不鮮明な心持ちで観たが、これが素晴らしい秀作で、後の一連の殺し屋映画の系譜に連なる、須磨の海岸での殴りあいを、殴りかかるショットの積み重ねで見せていく面白さや、波を背景に決着を付ける素晴らしさだけでなく、オーソドックスなボケ役を複数脇に配し、全てが適度に過不足なく本編に絡まり、更に主筋として長門裕之南田洋子の関係を揺ぎ無く描き、あの凄いラストへと持っていく。神戸を舞台にした作品でもかなり上位に入るのではないか。
 細かいディテイルをじっくり語りたい作品なので、後日。
 チャンネルNECOで放送されたことがないと思うが、ソフト化も含めて発掘されるべき凄い作品。

「短編調査団」 学校の巻

 最近では『文人の巻』も『法廷の巻』も行きたかったのに行きそびれていたが、今回は、内藤誠のレア作且つ小松方正小山明子大和屋竺出演作を目的に行く。
 最近の都内の上映関連の異様な混み具合を実感したり聞いたりしていたので、以前は3人とかで観たこともあったが、最近はよく入っていると聞くし、今回は自分同様、大和屋竺を見に来るヒトが大挙して押し寄せるのではと不安になり、30分以上前に行くが誰も居らず、shimizu4310さんに大和屋だから焦って早めに来たと告げると、大いに笑われる。それでも10数人の観客と、ノンビリスクリーンを眺めることができたので心地良かった。

201)「ふりかえって・夏―対人関係を考える―」 (neoneo坐) ☆☆★

1976年 日本 岩波映画製作所 カラー スタンダード 22分
演出/手塚正己     脚本/手塚正己 片野満     出演/

 これは良さげなニオイがスチールからも伺えたが、果たして「中学生日記」的な世界観に遅れてきたATG的表現が混入されて、新たな地平に立っている作品で、楽しめた。
 やはり、エロ写真の切り張りに性を出す夏のイカ臭い童貞表現など、良いなと思える。殊に手をヌード写真に這わせていくのを俯瞰で捉えたショットなど、「エロス+虐殺」で原田大二郎がシャワー室の窓に手を這わせるショットと双璧の童貞表現として素晴らしい。近年では童貞描写も画一化し過ぎた嫌いがあり、こういった作品を観ると逆に新鮮に思える。
 しかし、ラストショットの望遠で歩く三人を捉えたショットに画面に向かって歩いてくる人々は、エキストラではないのか、三人の横を通り過ぎるオッサンが、暑いのか街中でシャツをはだけさせて腹丸出しで擦れ違うのでダイナシにしてくれていたのが面白かった。

202)「バズーカ先生と子どもたち」 (neoneo坐) ☆☆

1975年 日本 共同テレビジョン カラー スタンダード 30分
演出/菊地靖     脚本/菊地靖     出演/

 てっきり「ビッグマグナム 黒岩先生」みたいなバズーカを持った先生が学園に乗り込んでいくハナシかと思っていたら、のどかな田舎を舞台にした作品だった。因みにバズーカとは、主人公の女性教師がバカでかい望遠レンズを持ち歩いている為に子供がつけたあだ名。企画が貯蓄増強中央委員会というストロング金剛みたいなガチな雰囲気漂う団体が企画しており、字面から強制貯金みたいな印象を受けたりもするが、本当に他人の金を好きなように遣う凄いハナシだった。子供を使ったほのぼのした雰囲気を装いつつ、こども銀行と称したものを学校が作り、各家庭の家計に介入して一元管理化していくのが凄い。細かい描写はなかったが、担任が各生徒の支出を細かくチェックしているらしく、無駄遣いは許さんと。で、せっせとこども銀行に貯金しろと言っているらしいが、これはまあ個性が潰れますわな。個々の趣味への投資を禁止しているようなものだから。その割りに先生は趣味の鳥の撮影に余念がなく、又、ガキが親の金くすねているのを黙認していて、その金で買ったジュースも一緒に飲んでるしで、この作品は全篇を通して、いくら自主性を重んじて自身に気付かせようとしているとは言え、金の流れが非常に不透明。それで良いのかと思っていたら、終盤が凄い。ガキが怪我を負い(教育テレビの学校向けミニドラマでもそうだったが、学校教育向け作品の怪我描写は妙に痛々しく感じることが多い気がする。子供の頃、「さわやか3組」に類するような番組で、遊んでいる最中にクギが足の裏に刺さって‥という展開があり、白いハイソックスの底が血で染まっていくところがとても良かった記憶がある)、バズーカ先生が責任を感じ、バズーカを売り払って取った行動とは?以下ネタバレ。
 まず豪華な果物セットをお見舞いに持参するも、足を怪我したガキはバズーカ先生の気持ちをズタズタに切り裂くべく絵本を音読する。それも“その兵隊は片足を無くしましたが‥”というような強烈な嫌味だ。バズーカ先生は残りの金を治療費にあててもらおうとするが、そのまま渡しゃ良いものを、すんごく相手を気遣って、看護婦に医療費からこの渡した金分を引いて、家族に請求してと頼む。ここも金の流れが不透明だ。
 そしてガキの退院を祝う席に糞ガキ達がネタバラシ隊として登場し、怪我したガキに退院おめでとうと言いながら、贈り物はバズーカ先生にと風呂敷を渡し、開けてみるとバズーカが!しかも、こども銀行の金を使い回したと平気で生活指導教師も言うわで、ほんまに全員の許可取ったんかと。新しいレンズを公費で買ってあげて良いのか。ビッグマグナム黒岩先生がビッグマグナムを売り払ったからと言って、公費で拳銃を購入したら問題になるだろうに。
 楽しんで観る事ができた作品だったが、定石的に対立軸になりがちな、生活指導教師が一貫してバズーカ先生の味方だったのは良かった。

203)「中学時代―受験にゆらぐ心―」 (neoneo坐) ☆☆★★

1976年 日本 東映教育映画部 カラー スタンダード 32分
演出/内藤誠     脚本/内藤誠     出演/加藤道夫 小松方正 小山明子 大和屋竺

 内藤誠がこんなん作ってたんだという驚きは、山下耕作なども晩年はこの枠で撮っていたことを考えると、単に驚いているだけでなく、調べて観ていかなければいけないという思いに駆られる。それだけに、こういった上映は嬉しい。
 内藤誠フィルモグラフィーを参照すれば、1976年は劇映画を1本も撮っていない。前年は「青春讃歌 暴力学園大革命」も撮ってるし、翌年は「地獄の天使 紅い爆音」もあるわで年3本撮っている時期なのに、この時何故教育映画に行ったのか。何かあったのか。
 出演が凄い。小松方正小山明子大和屋竺という創造社+大和屋で教育映画‥。ただ、内藤誠大島渚の関係は、1979年に降旗康夫で公開された「日本の黒幕」が、当初は大島の監督作として製作される予定で、脚本を高田宏治の書いたモノと、大島、内藤の共同脚本をドッキングさせて決定稿にするという「天草四郎時貞」の失敗を繰り返さない為に東映+大島作品として成立するように目指したこともあり、ここでの創造社の出演は時制がやや異なるが、納得できる。
 それにしても父親が小松方正で、母親が小山明子というのは心から嫌だなと思う。何かの拍子で揉めると気付いてみると家族の誰かが死んでいて、とりあえずみんなで浴槽に沈めておいて、延々とディスカッションが始まるんじゃないかという気さえして、受験生が天体望遠鏡を好む無邪気なハナシなのに、この二人がどす黒いものを持ち込んでいるような。しかも1シーンだが、お目当ての大和屋竺も登場するし。
 個人的に役者大和屋のベストと断言している主演作「叛女・夢幻地獄」の例の腰クネクネの再現は以降本作においてもなされていないが、教師を演じる大和屋を観ることができただけで良い。それにドラキュラと呼ばれるのも良い。