映画 『源氏物語』『戦後残酷物語』『ホステル』

美の改革者 武智鉄二全集
265)『源氏物語』 (シアター・イメージフォーラム) ☆★★★

1966年 日本 源氏映画社 カラー スコープ 分
監督/武智鉄二    脚本/武智鉄二     出演/花ノ本寿 浅丘ルリ子 芦川いづみ 山本陽子 花川蝶十郎 北条きく子

266)『戦後残酷物語』 (シアター・イメージフォーラム) ☆☆☆★

1968年 日本 武智プロダクション モノクロ スコープ 分
監督/武智鉄二    脚本/武智鉄二     出演/路加奈子 紅千登世 有沢正子 小畑通子 剣持伴紀 李麗仙

 今回の特集上映に通って、武智鉄二のこれまでの僅か1本観ただけで下していた印象が崩壊するような大きな逆転劇が未見の作品を観ていくにつれ起こったかと言うと、今日までのところは、無かったと言って良い。せいぜいオリジナル版『白日夢』の冒頭や『浮世絵残酷物語』、『日本の夜 女・女・女物語』にちょっとした面白さを発見したぐらいで、それ以外は酷いものだった。
 それに、やはり今回の特集では、出す側も媒体で紹介する側の姿勢も、武智鉄二の再発見を煽る形にはなっていない。“あの”武智鉄二という扱いなのだ。やはり、新旧『白日夢』が共に大きな話題になったせいもあるのだろう、『白日夢』の武智鉄二という枠がどうしても根強くあり、『浮世絵残酷物語』や『日本の夜 女・女・女物語』こそを主に据えて再発見を打ち出せば、武智鉄二の再評価に繋がると思うのだが、それでもこの二本では弱いかなどと思いつつ『戦後残酷物語』を観たら、これが悪くない出来で、これまで観た武智の作品の中では最も良い。それにこの作品は、正に現在に出すのに丁度良いもので、『嫌われ年子の一生』とも言うべき、『嫌われ松子の一生』と酷似した要素を持っている。単に面白いぐらい不幸になるとか、そんなジャンルとしてのフォーマットが似通っているだけでなく、ラストシークエンスが酷似しているのだ。武智が作詞した『年子の歌』という凄い直接的な内容の歌が流れながら年子は河川敷から川に入水し死んでいく。カメラは俯瞰で河川敷から川を映していく。このリズムが『嫌われ松子の一生』の終盤とあまりにも似通っていて驚いた。
 明日、イメージフォーラムの18時45分の回が東京では最後の上映になるので、武智鉄二に興味がなかろうが、今回の特集は全てパスされている方でも、『戦後残酷物語』だけは観ておいても損はないと思う。十数年後に再び武智鉄二の特集上映が組まれる機会があれば、『戦後残酷物語』を中心に据えて展開されるのではないかと思う。そういった意味でも現在観ておいて損はないし、発見と呼ぶに相応しい作品だと思う。大傑作などと言う気はない。パンパン映画のフォーマットそのままだから、溝口健二の『夜の女たち』や、不幸さの描写においても鈴木重吉の『何が彼女をさうさせたか』などと比べれば演出の稚拙さは明らかだし、60年代ピンク映画との比較、例えば若松孝二の『情事の履歴書』辺りとの比較こそが相応しいかもしれないが、徹底的な過剰すぎる反米思想による描写の過剰さということよりも、堕ちて行く女の軌跡が魅力的だ。
 別方面に更に無理矢理足を運ばせる為に言っておけば、原作は小野年子の実話を五島勉が書いたらしく、五島勉としては『ノストラダムスの大予言』に先立つ6年前に初めて映画化された著作であり、この二本のみが映画化された作品にあたる。あの『ノストラダムスの大予言』へ愛着を持つ方は、五島勉原作なんだし、観ておいて損はない筈。
(続く)



267)『ホステル』〔HOSTEL〕  (シアターN渋谷) ☆☆★★

2005年 アメリカ ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント カラー スコープ 93分
監督/イーライ・ロス    脚本/イーライ・ロス     出演/ジェイ・ヘルナンデス デレク・リチャードソン エイゾール・グジョンソン バルバラ・ネデルヤコーヴァ 三池崇史