CD+BOOK 『赤塚不二夫のまんがNo.1シングルズ・スペシャル・エディション』

赤塚不二夫のまんがNo.1シングルズ・スペシャル・エディション』 〔オムニバス〕  ディウレコード

赤塚不二夫のまんがNo.1シングルズ・スペシャル・エディション
 遂に発売された『赤塚不二夫のまんがNo.1シングルズ・スペシャル・エディション』を嬉々として購入する。
 ディスクユニオンではタオルが付いてくるのでそちらで買おうと思っていたが、既に閉まっていたので、なら別にタオルがどうしても欲しいわけではないので、じゃあタワレコでいいやと向かう。知らなかったが、タワレコではトートバックが先着で貰えるそうで、ウナギイヌホンカンさん、バカボンのパパが夫々描かれたバックから一つ選べるようになっている。しかし、そんなことを休日前且つ閉店前のタワレコの騒然としたレジ前でいきなり言われてもよくわからず、「ハイ?」と聞き返したら、店員がデカイ声で「ウナギ犬、ホンカンさん、バカボンのパパのどれにしますか?」と言うので、一斉に周りのレジ待ちの客が振り向いた。で、「ホンカンさんで。いや、バカボンのパパで」とコチラが言ったものの、単にポリが嫌いだからホンカンさんよりもバカボンのパパと言ってしまったが、やはりホンカンさんが良いかなと思うも、ここで声を張り上げて、「ホンカンさん!」と訂正するのも恥ずかしいなあと思い、結局バカボンのパパになる。店員が、バックのデザインを見せて、「コチラで宜しいでしょうか」と聞いて来るので、あー、これは言えと言うことやなと、関西人としては振られて返せないのは恥だから、「これで良いのだ」と答えるが、凄い事務的な反応をされた。言うんじゃなかった。

 
 多くの方にとっては、『まんがNo.1』の復刻という意味合いが大きい今回の企画だろうが、自分にとっては、昨年の5月にライズXテレビマンユニオンの無料上映会で観た『私がつくった番組 「赤塚不二夫の激情NO.1!」』から始まったと言って良い。この衝撃は何度も書いたので、繰り返さないが、下記に転載しておいたので、観た直後の興奮状態と、如何にナンセンスの極みな途轍もない番組であるかを察してもらえれたらと思う。
 昨年劇場で観た映像のトップであり、今でも忘れ難い素晴らしい番組だった。それが今年に入って、ひょっとすればDVD化されるかもしれないという可能性が出てきた(コチラを参照)。ソノシートの復刻企画に併せて付録として番組のDVDを付けようという企画らしく、参照先に長谷邦夫先生からコメントを頂いているが、そちらにその過程も書いていただいている。
 ただ、番組DVD化に当たって危惧されたのは、この番組の終盤に余りにも大量の紙吹雪と音頭系のバアさん百数十人が踊り狂う中、唐突にキャロルが登場して『ルイジアンナ』を唄うという、もう観ていて呆然とするしかない展開があったのだが、キャロルが、と言うよりも版権管理の矢沢永吉側の許可が果たして下りるだろうかという思いがあり、そこの展開如何によっては、実現の可能性が危ぶまれた。実際、その後の進展を何度か書いたが(コチラ参照)、思わしくないようだった。長谷先生の日記に書かれていた<キャロル・矢沢氏のOK取れていない。この部分をカットするなら、TVマンユニオンは作品と認められないので、NOだという>という矢沢・テレビマンユニオン両挟み状態が続いていたようで、当初許可が下りなかった井上陽水は交渉の結果了解が取れたということだったので、矢沢側の配慮を期待していた。その後、発売の告知が出始めたが、やはり『激情NO.1!』は含まれておらず、僅かに期待を抱きつつも諦めていた(コチラ参照)。

 
 結果的には、今回発売された『赤塚不二夫のまんがNo.1シングルズ・スペシャル・エディション』には『私がつくった番組 「赤塚不二夫の激情NO.1!」』は含まれていない。それはとても残念ではあるが、では買う価値がないのかと言うと全くそんなことはなく、CD、『まんがNO.1』の復刻が共に凄い。
 ソノシート復刻CDの方は、『激情NO.1!』を先に観ている者にとっては、サントラとしても聴ける(『まんがNO.1』のテレビ版として製作されたのが『激情NO.1!』である)、もう胸の高鳴る楽曲が揃っていて、ひたすら楽しい。聴きながら番組内の数々の場面が甦ってくる。
 中山千夏の『自衛隊賛歌』は長谷先生の作詞が素晴らしいと改めて感動したが、番組では、唄う中山の横に、制服を着た赤塚達が微動だにせず敬礼したまま立ち続けるという権力へのカラカイの楽しさに満ちていた。
 『スケバン・ロック』(これも長谷先生の作詞であることに驚いた)も番組では青山ミチが唄う中、セーラー服を着た赤塚らが外人の姉ちゃん達と騎馬戦を始め、ハナからポロリしまくっていたり、押し倒したりと、気違い沙汰な映像になっていて凄かった。
 三上寛の『ホイ!』は、番組では赤塚らが揃ってホイ!と掛け声を掛けていて、これも何だかグッタリさせるような濃さに満ちていた。
 といったように、聴いていて番組のあのシーン、このシーンを次々に思い返し、また観たいという思いに駆られるが、番組の様子については、今回編集復刻された『ベスト・オブ・まんがNO.1』のP200から3ページに渡って番組収録の様子が細かく写真入りで書かれているので、そこからも番組の狂気性と、映像化など成功しない筈の『まんがNO.1』のナンセンスさがまんまと映像化できてしまった様子が伺える貴重なものになっている。
 
 『ベスト・オブ・まんがNO.1』はもう濃密過ぎる内容で、全部読みきれていないので、今後ゆっくり楽しみたいが、パラパラと目を通しただけでも異様に面白すぎる。
 自分は、幼少時から、手塚・藤子・赤塚・石森をベースにして好んでいたのが、その流れで『まんが道』を経て、87年に蝸牛社から出た大判の『トキワ荘青春物語 手塚治虫&13人』を読んで、初めて長谷邦夫よこたとくお、横山孝雄といったトキワ荘史の傍流系の存在を知り、収録されていた作品を読んで禍々しい印象を受けた。ま、9歳なんで当然だが(その1年程前にオバQの純粋な続編と勘違いして『劇画・オバQ』を読んでしまい、ヘンな気分になった)、児童漫画の流れとは異なるアナーキーな雰囲気を感じ取り、それまでボンボンなんかで読んでいた一ギャグ漫画家という認識でしかなかった赤塚不二夫の別の側面を感じ取った。『トキワ荘青春物語 手塚治虫&13人』の後半に収録されていた作品群は、何だか年齢不相応な読んではいけないモノな気分を味わったが、その時の気分を『ベスト・オブ・まんがNO.1』を読んで思い返した。今から思えば、長谷邦夫先生の作品がその元凶だったわけだが。エロくて、気違いみたいで、アナーキーで、ナンセンスの度が過ぎていて‥つまりは、もう読んでいてひたすら楽しくて、濃密過ぎてクラクラする、白日夢みたいな雑誌だな、と。『激情NO.1!』も正に白日夢みたいだったが。
 個別に書いていけばキリがないが、少しだけ挙げておけば、巻頭のタモリの語りに感動し、藤子不二雄Aの『大悪漢』に驚く。これは初めて読んだが、まずはタッチに驚かされた。と同時に見た事ある、この画のタッチと思う。『まんが道 立志篇』で高校時代の二人が大人漫画を投稿して賞金稼ぎをするエピソードで、スタインベルグのタッチを真似て新しい画風を作るのだが、その時のタッチがこういったものだった。
 映画方面では、佐々木守の『ウラオモテ対談 8ミリ対35ミリ』というのが凄い。表紙には「佐々木守内藤誠」「佐々木守対原正孝」とあるが今回収録されているのは、原正孝(原将人)との対談のみで、内藤誠のも読みたくなる。これが出たのが1972年だから、佐々木と原は既に大島渚の『東京戦争戦後秘話』で脚本を共作した後ということになる。
 後、平岡正明の『にっぽん犯罪英雄烈伝』というのも無茶苦茶面白くて、今回収録されているのは、「礼楽篇・荒木一郎強姦未遂事件」(笑)。この事件、興味あったんで調べたかったので丁度良かった。6ページにも渡って事件の詳細が書かれている。コレ絶対、荒木一郎のファンサイトでは紹介されないと思う。
 エログラビアの猥褻さも凄く良いし、そこに「どけ!オマワリ」「オマワリがないと、さっぱりするわ」などとデカデカと書かれていて、ホンカンさんの顔で股間を隠しているのも実に良い。
 雑誌創刊の背景に小林信彦がイヤゴト言ってきたエピソードにも苦笑しつつ、ひたすら楽しめる。
 
 
 それにしたって、せいぜい薄めの冊子系のものが付いて来るだけかと思っていたら、250ページの雑誌がついてきて、それにCDと併せて定価が3500円というのは格安ではないか。5千円以上、1万近く行くのではないかと恐々としていただけに、こんなに安くこれだけのものが入手できてしまうことに喜ぶしかない。店頭でモノの予想外の大きさに驚けという品である。はっきり言って、興味があろうがなかろうが、無条件で買ってしまって損は無いと確信を持って断言できるので、是非聴いてもらって、読んでもらいたい。そしてその映像版が存在するということに興奮してもらい、観たいという欲求を積もらせてもらいたい。そうすることでDVD発売の機運を高め、またはDVD化が無理なら上映への期待を高めて待ちたいと思う。
 


<CD収録内容>
1. 少年A(=三上寛)/おまわりさん!! (画:佐伯俊男
2. 佐藤允彦トリオ(唄:中山千夏)/Discover War (画:中山千夏
3. カミソリQ子/スケバンロック (ナレーション:小野ヤスシ
4. 山下洋輔トリオ/ペニスゴリラアフリカに現る(画:杉浦茂)
5. 井上陽水/桜三月散歩道(画:羽良多平吉/『氷の世界』収録曲とは同名異曲、ナレーション:大野進)
6. 三上寛/ホイ!(画:長谷邦夫)
※画はB5サイズのカードで復元

  <ブックレット参加メンバー>
赤塚不二夫
藤子不二雄A
山上たつひこ
日野日出志
湯村輝彦
杉浦茂
タモリ他多数
・ロゴデザイン:横尾忠則


資料 2005年5月28日記載分より転載