雑誌 『ユリイカ 2006年12月号』

95)『ユリイカ 2006年12月号』 青土社

ユリイカ2006年12月号 特集=監督系女子ファイル
 

 特集「監督系女子ファイル」読むべく購入。『ユリイカ』の映画特集はここ10年、否応なくそのまま購入してしまっているが、表紙からも雰囲気は察することができるが、「女性監督ファイル」ではなく、「監督女子ファイル」でもなく、あくまで「監督系女子ファイル」とあるところに、所謂『ユリイカ』がここ10年〜30年の間、連綿と続けてきたこれまでの「特集−映画の現在」や「特集−日本映画特集 北野武以降」や、その合間に日本の映画作家なら清順、溝口、大島、青山、黒沢、吉田などが特集されてきたものとも決定的に違う、むしろ昨年の「特集−ブログ作法」「特集−文化系女子カタログ」の延長として捉えるべき特集であることが想像され、『ユリイカ』の定義する監督系女子には恐らく河瀬直美風間志織松梨智子も入らないのではないか、などと思っていたら、下記の如き案外資料は充実していて、阿木燿子から浜野佐知に到るまで網羅されていることに、旧来の『ユリイカ』の映画特集の生真面目さを感じる。こんなオバハン達を“監督系女子”などと呼びたくもないが。
 本文の執筆者に、以前自分が<今度『ユリイカ』が再びブログか文科系女子を特集すれば揃い踏みするであろう姐さん方>と書いた人達が早くも勢揃いしていて、自分の物凄い狭い世界での先見性を、誰も褒めるわけがないから自画自賛しつつ、それ以外にも、今回の執筆者には、はてなダイアリーガラミのヒトが居るので、元来はてなに人文系が多いのは良いとしても、こんなもん、偶々使っているブログサービスが、はてなだったというだけのハナシなので、当然はてなだから云々という物言いは嫌いなのだが、せっかくだから、敢えて狙い撃ちでご近所のヨシミ的に、はてなガラミの人達のモノを主に、持ち上げたり、イヤゴト言ったり、更にイヤゴト言ったり、これでもかとイヤゴト言ったりしておこうと思い、前述の『ユリイカ』の各バックナンバーや、執筆者が以前書いていたミニコミなどの一文を資料用に奥から出して来たりする。1300円も出してるんだから、これぐらいしないと。映画方面と「ブログ作法」「文化系女子カタログ」を包括したモノになれば良いなと予告しておいて続く。
 尚。雨宮まみの『女のハードボイルド道 ペヤングマキと「女のみち」』だけは必読。『ユリイカ』でペヤングマキ!と言いつつも溝口真希子として考えれば特集の流れ的には全く持って正統な流れだが。

 
 というような文章を、最後のペヤングマキの所以外は、数日前に本書の内容が発表された段階で、予定稿として書いていたものだ。例によって前置きが長くなるから予め書いておいたのを、そのまま上げただけで、雨宮まみの一文だけ先に読んだら面白かったので、慌てて付け加えたというものだ。
 で、改めて読んでみると、色んな面で面白い特集にはなっているのだが、予想していた『ユリイカ』だから、「監督系女子」なんて言っているから、といった表層的予想から伺える、「文化系女子=監督系女子」という定義を基にしているわけではなかった。
 何せ執筆者の並びの異様さは、例えば万田邦敏山崎まどか谷岡雅樹が並んで書いているという段階でも明らかで、『季刊リュミエール』『Olive』『映画芸術』をシャッフルして読んでるみたいな気分にさせる破天荒さに満ちている。谷岡雅樹は例の文体で<昨日、札幌の同窓会から帰ってきたところだ>から始まる、女性監督論を越えた、<女が映画を撮る>という原始的欲求への言及を果敢に試みていた。
 
 で、事前に予告していたものの、実物を読んで、その落差から扱いに困るのは、前述のはてなダイアリー系ライターという括りを揶揄気味に敢えて持ち出して、イジろうと思っていた<持ち上げたり、イヤゴト言ったり、更にイヤゴト言ったり、これでもかとイヤゴト言ったりしておこうと思>っていた腹案が崩れ落ちたことで、まあ、判っていたことではあるが、それ以前に夫々が書いているものから予想された傾向と文体で綴られているので、斬り込む余地と言うよりも、その対象者は4人居るわけだが、その半分までが興味対象外と言わざるをえないものだからで、山崎まどかのような正統的位置からのアプローチは、高校ぐらいまでと言うか、ようは90年代には自分もよく読んでいたなあと、郷愁的に思うだけで、これはこれで良いのだが、もう一人の方のものは、真に興味対象外でしかなく、何かを言おうとも思わない。別に、アソコは大きいトコロなんだから、あんまり悪口書くと『ユリイカ』経由で、はてなに圧力がかかってID消されるとか、熱心な読み手が執拗に荒らしに来るから止めとけとか言われたからではないが(←■追記ウソですよ!ウソ!!)、まあ、文化人枠の映画批評もどきとしか思っていないので、自分にとっては福田和也の映画批評と同義程度の扱いでしかなく、最近の『ストローベリーショートケイクス』パンフや、『太陽』のオフィシャル本や、武智鉄二に関するところで見掛けたものでも首を傾げるものがあり、そこまで映画寄りに言及するなら、もう少し調べた方が良いんじゃ御座いませんかという映画史的無知に苛立ちを覚えたりするのだが、それはこのヒトだけではなく、幾らでもこの枠では居るので、せめて宮台真司ぐらいは恒常的に観ているヒトでないと読む気が起きないなあ、というだけのものなので、イヤゴトも何も言う必要が無い。



■補足(200611.29)
 アカラサマに吉田アミさんを仮想的気味にして書いているが、これは吉田アミさんが、ということではなく、映画、もしくは映画批評系業種以外の方による映画批評全般に対する疑問として書いたもので、映画批評の衰退と専門外からの批評の混在が招く問題についての疑問の一端として書いたもので、彼女一人に専門外からの批評の問題を負わせる意図はなかった為、直接名は挙げなかったが、当然わかるヒトはわらるわな。 



 そうなると、残るは<持ち上げたり>に該当する二人しか居ないが、前述した雨宮まみの『女のハードボイルド道 ペヤングマキと「女のみち」』には、当然平野勝之や、笠木忍花岡じった、といった御馴染みな名前が文面に飛び交いながら、『女のみち』へと持っていく胸の高鳴るものになっていて、ペヤングマキが今回の特集で取り上げられ、雨宮まみが優れたペヤングマキの現認批評を行ったことが今回の特集で画期的な意味合いを持つものと言える。因みに自分はペヤングマキの作品は、後から聞いて、アレがそうかと思うこともあったが、笠木忍の出てたやつと、SOD関連は観ることが多いこともあって、『これが噂の痙攣酒漬け酔淫倶楽部 レズヴァージョン』は観た、と言うか買って観てもいたが、ペヤングマキだと後で気付いた。
 
 巧妙さに満ちていたのは、真魚八重子の『おっとり痛みを差し出す作家 唯野未歩子について』で、名古屋から出た森卓也以来のタマだという評判は当たっていると改めて思う。
 真魚が唯野を書くということは、文化系女子の親玉対決(唯野は『SPA!』で『文化系女子の戯言』という連載もやっている)といった不穏な空気が漂い、何だか牙を隠してじゃれ合う獰猛な狂った野獣同士が舐めあっているような光景を誰もが想像するだろうが、インディーズで注目を浴びた作品への出演を経て監督作『三年身籠る』へ、という流れを適確に纏めてあるもので、その通りに読んでしまえるものではあるが、これは唯野未歩子を隠れ蓑にした優れた井口昇・斉藤久志論にもなっていて、今後書かれるであろう井口、斉藤らへの長文の論考への序章として読むと良い。
 
 ここでハナシを冒頭に戻して、<今度『ユリイカ』が再びブログか文科系女子を特集すれば揃い踏みするであろう姐さん方>と書いたものは、元は<ようは今度『ユリイカ』が再びブログか文科系女子を特集すれば揃い踏みするであろう姐さん方が、夫々の立場の違いと、エロと作品の間に揺れるちょっとトウの立った乙女心を吐露している文章>と書いたものだが(そーいえば、この<トウの立った乙女心>と書いたのが不味かったらしく、怒られた上に、ヨソでも酷いことを書いてる奴が居ると知らんヒトに書かれたのは、自分の意図とするところではなく、しかし言われてみれば妙齢の女性の年齢を揶揄気味に、しかも妙なボカし方をして書くのは確かに失礼だから、<トウの立った三十路の乙女心>とでもしておこう。もっと失礼なんじゃないかと言われる可能性も高いが‥)、これは、一時話題になった、真魚の『ポルノを作品論として書いてしまうこと』への、方々のブログで見られた自身の意見表明の一環などではなく、レンタルDVDでAVを借りた際に強引に捻じ込んだものだ
 と言うのも、この話題を読むべきとあるヒトが読んでいない風なので、自分のトコロは読んでいるらしいから、この話題に意見しようとは思わないものの、強引に入れ込んでリンク貼っておけば、感の良いヒトだから読んで何かしら思う部分があるだろうと思ったからで(それで何も思わないなら、その程度のヒトだと言うことだし、メールなりコメントなりでコレ読んだ方が良いですよなどと態々言うのは馬鹿げている)、それは直ぐに、自分がそれをアップしてから数十分の早さで、『ポルノを作品論として書いてしまうこと』のコメント欄へ長文のコメントを寄せていたので、正に意図通りにコトが進んだと思ったが、つまりはそれを書いたid:gohanzoraさんが自分の意図した<読むべきヒト>に該当するわけだ。
 今年からブログを始められた方だが、一読して将来性を感じさせる、適確な言葉で自身と作品との距離感を模索しながら、言語化できるヒトで、ネットでの映画批評系では、真魚八重子以来のアタリになる可能性が高いと踏んでいる。たぶん話し合ったことはないが、matueさんも、eigahitokwさんも彼女の突出ぶりには感づいているのではないかと思う。知り合いの、ここら辺のブログを読んでいるヒトから、アンタら、あの娘が19だからデレデレしてコメント欄にたかっているんだろといった、とんでもない意見を聞かされたが、それも半分ぐらいあるが、実際かなり将来性を期待させるヒトなんで、今後長く読んで行きたいと思わせるし、様々な作品を観て貰って感想を読みたいなと思わせるヒトである。
 補足しておけば、森卓也真魚八重子に直接の共通性がないように、その後ろにgohanzoraさんを持ってきても、全く資質は違う。どう違うかを書くこともできるが、いちばん簡単なのは、同じ作品への感想を比較するのが早いハナシで、その比較例を出しておく。しかし共通で書いている作品が『全身小説家』しかなかったのが、何とも凄いが、まあ、資質の違いはよくわかる。

【①『全身小説家』真魚八重子/②『全身小説家』gohanzora
 
 というわけで、結局、如何に自分が「監督系女子」にも、「文化系女子」にも全く興味がなく、まだ興味がある方なのは「女性監督」と「映画批評系女子」の方なんだということを思っただけで、「映画批評系女子」という狭すぎる枠組みへの言及が雑誌上でされる筈もないので、自分で目エ付けてるトコロを書いて勝手に自己満足気味に補足したという買った雑誌への意味不明な感想になってしまった。『ユリイカ』自体の、こういう軽い特集の筈が、妙な濃密さと、執筆者のバラバラ感を溢れさせるものにしてしまう暴走気味なところは嫌いじゃないが。しかし、薄いなあ、今号は!214ページしかねえじゃねえか。これまで持ってる『ユリイカ』でも明らかに最も薄い。これで1300円も取られては、イロイロ言いたくなるのも仕方あるまい。


■補足箇所は、別に吉田アミさんとのやり取りで、「入れろ!オラー」と言われたわけではなく、冗談に塗れて真意が伝わりにくい箇所を、自発的に補足気味で入れたもので、既に書いちゃったものは一切修正していない。念のため。


特集*監督系女子ファイル
 
  【対談】
任せ任されて生きるのさ 監督稼業、その手練手管の魅惑 / 蜷川実花タナダユキ
【カメラを持った女子】
映画は女の子たちのもの / 木村立哉
男/女には理解できない 「何か」への強迫観念 / 万田邦敏
それで自由になったのかい 女が映画を撮ること / 谷岡雅樹

【押し寄せる波、また波】
ぬう、と出てくる 西川美和の「自然」 / 小池昌代
淡く点る輪郭は水面に映る 『ゆれる』 『蛇イチゴ』 監督、西川美和を推理する / 吉田アミ
女性監督が描きだす「さびしさ」による五感の喪失 / 七尾藍佳
いつも紅茶を飲んでいる、冷蔵庫のなかにあればお願い、レモンを入れて / 横田創
おっとり痛みを差し出す作家 唯野未歩子について / 真魚八重子
やわらかい光、剥きだしの身体 『かもめ食堂』 に集う理由 / 江南亜美子

【〈外〉の映画と映画の〈外〉】
ハリウッドにおける隠れた女性映画作家の系譜 / 山崎まどか
メイ・デイに生まれた女 ダニエル・ユイレ追悼 / 廣瀬純
女のハードボイルド道 ペヤングマキと「女のみち」 / 雨宮まみ

【インタビュー】
映画の前ではすべてが等価である 女性性と映画の威力をめぐって / 井口奈己 聞き手=横田創
現場の渦へ飛びこんでゆく まだ生まれていない表現のために / 唯野未歩子 聞き手=佐々木敦
作る、出す、検証する、次に活かす 監督のスイッチをいかにいれるか / 安田真奈 聞き手=編集部

【資料】
〜監督系女子ファイル’06〜 / 編=越川道夫
   阿木燿子 / 木村満里子
   安里麻里 / 山口哲一
   井口奈己 / 木村満里子
   猪俣ユキ / 越川道夫
   歌川恵子 / 越川道夫
   大宮エリー / 山口哲一
   荻上直子 / 木村満里子
   呉美保 / 山口哲一
   風間志織 / 木村満里子
   加藤治代 / 山口哲一
   河瀬直美 / 山口哲一
   斉藤玲子 / 木村満里子
   佐藤嗣麻子 / 志水邦朗
   新藤風 / 山口哲一
   せんぼんよしこ / 木村満里子
   唯野未歩子 / 木村満里子
   タナダユキ / 越川道夫
   富永まい / 木村満里子
   永田琴 / 木村満里子
   中村真夕 / 木村満里子
   西川美和 / 木村満里子
   蜷川実花 / 山口哲一
   羽田澄子 / 志水邦朗
   浜野佐知 / 林田義行
   日向朝子 / 山口哲一
   宮坂まゆみ / 木村満里子
   桃井かおり / 木村満里子
   安田真奈 / 木村満里子
   映画美学校 / 志水邦朗
   ぴあフィルムフェスティバル / 志水邦朗
   ピンク女性監督 / 林田義行

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