訃報 映画監督・実相寺昭雄死去

molmot2006-11-30



http://www.asahi.com/culture/movie/TKY200611290434.html


 一時期危ないという噂があったものの、年末から来年頭にかけて『シルバー假面 (#1)』『ユメ十夜 (第一夜)』の公開が控えていただけに、復調したものだとばかり思っていた。享年69歳はいかにもまだ若い。これから10年以上は新作を楽しめるものとばかり思っていた。それに、つい先日、『ウルトラマン誕生』という実相寺の著作を読み終わったところだったので、身近な人の死のような唐突さを感じる。
 テレビでは『ウルトラマンダイナ』、劇映画では『D坂の殺人事件』以来、新作に接する機会がなかったが、 一昨年の『ウルトラQ dark fantasy』以来、『姑獲鳥の夏』『乱歩地獄 (鏡地獄)』『ウルトラマンマックス』と、次々とテレビ、劇場で新作に接することができたのは幸福だった。更にこれから2本の新作を観ることができるのだから、落ち着いて追悼などできはしないが、自分にとっての心残りは、一瀬隆重と組んだ乱歩モノの新作が実現しないまま終わってしまったことだ。『湖畔亭事件』『陰獣』『盲獣』などの企画があったようだし、数年前には実際に『湖畔亭事件』の企画を動かしていた時期もあったようなので、もう一本乱歩を観たかったという思いが強い。乱歩のエログロに映像で拮抗できる最良の映画監督だっただけに、大き過ぎる喪失だ。
 兎に角、12月23日よりユーロスペースで公開される『シルバー假面』、新春第二弾公開の『ユメ十夜』、更に来年1月21日には、ようやくDVD化される『D坂の殺人事件』を観ていくことから始めて、更にこれまでのフィルモグラフィーを遡っていくことで、実相寺昭雄の不在がもたらす日本映画への大きな喪失を改めて感じるしかない。
 市川崑と並んで最も好きな監督だっただけに(だから二人の作品が並んでしまう『ユメ十夜』や、二人をプロデュースしてそれも乱歩と金田一をやらせてしまう一瀬Pには感謝するしかない)、ただただ残念だ。




■関連資料
 実相寺的観念性を盛り込んだ庵野秀明監督作『DAICON版 帰ってきたウルトラマン』では、全篇に渡り実相寺アングルが続出する。実相寺監督にも製作当時、観て貰いコメントしてもらっている。以下はそのインタビューの抜粋。


【同人誌「DAICONFILMの世界vol.1」 実相寺昭雄インタビュー/聞き手 池田憲章 (1983年8月発行)】

<アマチュアのわりにはいいんじゃないでしょうか。作った人たちがプロになるつもりなら、色々言うこともあるんだけど、アマチュアなら、自分たちで楽しむとすればそれでいいという感じです。ただ、プロの世界に入るとしたら色々出てくると思いますね。>
<特撮の飛行機の飛ばしとか、本部の撮り方とか、怪獣とか街の破壊とかは面白いんだけど、芝居になると垢抜けてなくて、見てて辛いんですね。>
<アマチュアの作品を観るといつも思うんだけど、照明を工夫したりカメラアングルに凝っったりしてみても、観る気にさせる芝居がない限り観るのが辛い。芝居があると同時に特撮も引き立つし、時間ももつものなんだけれどね。芝居がないから、早く終わらないかな、なんて。>
<人間の顔で出てくるよね。何か色々なものが画面に入ってるんで巨大化して見えなかったのね。説明してもらえれば解かるんだけど、見てるだけではね。人間の顔があると、巨大化してるってのは表現しにくいんだよね。ジャンパー着てたりするのはマイナスの部分が大きい。セットだけ浮いちゃってる。そこをもう一考どころか、三考ぐらいしたほうが良かったと思う。>
<パロディってのは、アマチュアの人はよくやるんだけど、パロディというのはもとがあって成り立つってことで、マイナーな二番煎じになりやすいから、あまり賛成できない。アマチュアの人には拒否するくらいの姿勢がほしいね。  あれだけをやってるなら、自分たちで見るべきであって、人に見せるためなら考えてほしかった、ということだね。>


 と、8mm自主映画特撮の金字塔的存在のこの作品への実相寺の評価は案外厳しい。
 尚、後年『ラブ&ポップ』をDVではなくフィルムでやるようにプロデューサー側から要請があった際、庵野はフィルムでやれば、実相寺さんの出来損ないにしかならないと断っている。果たして庵野秀明は現在でも実相寺昭雄の後継者足り得ているのだろうか。