映画 『爆発! 750cc族』

NONSTOP!! 暴走列島70's 
273)『爆発! 750cc族』 (ラピュタ阿佐ヶ谷) ☆☆☆★

1976年  日本 東映東京 スコープ 85分
 
監督/小平裕    脚本/小野竜之助     出演/岩城滉一 西田健 ジャネット八田 北川たか子 貝ノ瀬一夫



 脚本が小野竜之助先生なので、義理立て的にさほど期待もせずにフラリと観に行ったが、一夕のエンターテインメントとして申し分ない面白さで、商品としての質を維持できていて楽しめた。改めて撮影所システムの有効性を感じる。

 この時期の東映が量産していた暴走族シリーズの一本だが、やくざ映画の失速期に次なる展開の模索として選ばれた題材とは言え、フォーマットはそのまま置き換えただけなので、徹底して反権力性に満ちているから心地良い。



 岩城滉一がとてもスクリーン映えして立っているし、西田健の例によって悪の権化と化す受けの芝居も良いし、ジャネット八田のわかりやすいお色気も良い。

 各ショットに丁寧さやリズムに欠ける部分もあるし、演出が素晴らしいとはお世辞にも言えるものではないが、この時期の東映東京作品では御馴染みの街並みのオープンセットが活用されていて悪くないし、何より終盤の、バイク一台とパトカー二台あれば、充実した活劇が撮れるという高揚感に満ちた展開が楽しかった。

 特筆すべきは、大胆なショットの導入を堂々とやってのけていることで、開巻から何度かインサートされる、バイクの走りをスクリーンプロセスで真横から捉えたショットの不味さに苦笑していたら、後半の岩城が警察の追っ手から延々バイクで逃走していく際に、またもスクリーンプロセスで真横から捉えたショットが入るので、いくら会話シーンを見せたいからとは言え、それまでのロケに比べては、途端に失速してしまうので不味いなあと思っていたら、何と仲間が横付けして、おにぎりを渡し、お茶を飲ませるという凄いシーンに活用されていて、これを見せる為にこれまで敢えて使っていたわけはないのだろうが、笑いながらも、こんな使い方なら許せるなあと。横付けということで考えれば、小野先生が前年に書いた『新幹線大爆破』における新幹線の横付けのセルフパロディとして考えても良い。

 それから、同じく後半のバイクとパトカーのチェイスシーンで、バイクが細い路地に入ってパトカーをまくのだが、パトカーはバックしつつ路地に入ろうとするものの、入れない。ところがこれが、同ポジで次のショットになると、壁に片輪を乗せて斜めになったパトカーがガリガリと壁をこすりながら追いかけているのだ。普通なら、片輪走行するなら、そこへのタメがあるわけで、『007 ダイヤモンドは永遠に』の数少ない見せ場でも、同様のシーンで、そこに到るまでのサスペンスがあった。それをせずにいきなり同ポジで繋げてしまう強引さに笑いつつ、この強引さは好きだ。何せ、バックに車が距離をつけれる程の引き尻もないだけに、いきなり片輪走行しているしかないという理由があるのだろうが、もう同ポジで繋げてしまえ、いや繋がるという確信に満ちていて楽しかった。

 更にここまで来るとやるだろうとは思っていたが、殆どドリフ的展開になっていって、農家にバイクが入り込み、パトカーも続く。次のショットでは、土間で食事しているロングの手前にバイクが通過してパトカーも農家を破壊しつつ追いかけていって食事中の家族が驚くという。

 充実したチェイスが続く中で、そういったシーンを入れ込む大胆さは好きだ。

 作品としては、惜しいのは、岩城が仲間に重傷を負わせた復讐に西田健を拉致するシーンが、それまでの対決シーンに比べて圧倒的に卑小すぎる。何せ一人でバイクで走っている西田を車を接近させて引っくり返らせるだけという。拉致後に西田の父に身代金を要求し、銀座の歩行者天国で奪取しようとするという、西田側だったジャネット八田との関係性を合わせても、『太陽を盗んだ男』を先取りしたような胸の高鳴る展開になる期待をしたものの、科学教師と暴走族では同じ様にいかないのか、意外なくらいストレートに身代金奪取を行ったせいで、追いかけられまくっていて、そりゃそうなるやろうと。意外な一捻りをしていたとか、ストレートならストレートで堂々と強奪するというのを見たかったが。




 
 ネタバレになるが、ラストの海岸の疾走シーンで、どこからかの発砲を受けて岩城はバイクから転げ落ちて死ぬ。このシーンで発砲する側からの描写は一切ない。どこからともなく発砲されて死ぬ。これは国家からの一撃として、どこからともなく飛んできた銃弾として考えても興奮させる面白さに満ちていて、大和屋笠や『処女ゲバゲバ』を想起したが、演出はどうもそういった意図を読んでいるのかどうか、岩城の寄りばかりで見せてしまうので、ここはロングでどこからともなく飛んできた国家からの銃弾という視点を明確に出してほしかった。

 尚、この作品で素晴らしいショットの一つに埠頭で横たわるジャネット八田が見上げると立っている岩城のサングラス越しに映るジャネット八田の表情というのが実に良いのだが、こういう丁寧さも持っている作品なんだなあと感心していたら、終盤の倒れている岩城のサングラスにまたも映りこみがあって、見れば、それは思い切りカメラマンやスタッフらが映りこんでいて、それも2カットもあるから、カメラ横にウンコ座りしている監督が白い服を着ているのすら判別できてしまって、同じサングラスの映りこみというのに、とんでもない落差を見せ付けてくれたと苦笑するしかなかったが、良い気分で劇場を後に出来る作品だった。