書籍 『金田一です』

19)『金田一です』石坂浩二  (角川メディアハウス)

金田一です。 
 自分が金田一シリーズに狂った時、既にシリーズ終了から10年経っていた。市川崑も、石坂浩二も、10年も前に終わったシリーズについてなど、言及することはまずなく、時折、石坂の「くっきん夫婦」のコントで、金田一の格好をしていたり(90年頃の石坂浩二は全く往年と変わりなく、そのままだった)、同番組に桜田淳子がゲストで来た際に、『病院坂の首縊りの家』の思い出話をしているだけで、大喜びし、興奮した。その後は、金田一シリーズのセルフパロディである『天河伝説殺人事件』に喜んだり、片岡鶴太郎金田一シリーズに加藤武がレギュラー出演し、アレをやってのけることに感動するしかないという残り火に必死にあたるような日々が続いた。そういう意味では、96年の『八つ墓村』には狂喜したものの、金田一が石坂ではないという失望は大きかった。しかし、これ以降だろうか。90年代半ばからの岩井俊二庵野秀明の露骨な市川、と言うよりも市川の金田一シリーズへの愛着を持つ人間が年齢的にそういった場に着いたせいか、何かと露骨なオマージュを見かける機会も増えてきた。岩井俊二の手による木村拓哉金田一に配したNTTのCMや、別会社のCMで田辺誠一金田一など、全く趣味で出しているとしか思えない金田一パロディCMが登場したし、『プレミア』誌での充実した『犬神家の一族』検証特集や、その前後にも『太陽』別冊の「市川崑」特集号で市川崑石坂浩二金田一をめぐる対談が載ったり、DVD-BOX発売に合わせて特典BOXに二人の対談が入ったり、或いは最近でも、三谷幸喜が『古畑任三郎』で露骨なパロディをやったりと、石坂浩二金田一を語る機会は増えており、自分はひたすら喜んでいた。又、市川崑も『どら平太』でクレジット出しを金田一風にしたり、草むらのロングを『悪魔の手毬唄』同様な見せ方をしたりと、再び金田一シリーズへの接近を思わせた。それだけに『本陣殺人事件』の企画が聞こえてきた時も不思議ではなかったし、『犬神家の一族』を再び市川崑石坂浩二でやると聞いても、機が熟したような気持ちになった。
 既に東京国際映画祭で完成版を目にして感動に震えたが、それでも、公開を前に雑誌、TVで石坂浩二金田一の格好をしたり、ひたすら金田一を語るなんてのは夢の様なもので、こんなことが起こるとは80年代末に自分が遅れてきたファンとして熱狂した時には想像もつかなかった。
 そしてトドメに、石坂浩二による金田一論が出た。こんなものが今になって出るなんて、あり得なかっただけに、今回のリメイクに思うところはあるにせよ、良かったと思えた。