『天草四郎時貞』『13人連続暴行魔』

27)『天草四郎時貞』(大島渚) 
28)『13人連続暴行魔』(若松孝二) 

天草四郎時貞 [DVD] 13人連続暴行魔 (レンタル専用版) [DVD]
 27)バカアマゾンが発売前から注文していたにも係わらずちっとも送って来ないので、痺れを切らしてヨソで頼むと即送ってきた。3500円ほど。
 というわけで、大島渚全作中、最も異彩を放つ作品がDVD化を果たした。DVDソフトの充実という意味では著しく遅れを取っている東映が、後述する理由により、恐らく早々にはならないだろうと踏んでいた本作のDVD化に踏み切ったのは意外だった。
 それに関連して言えば、こないだ元東映のベテラン脚本家の先生と話していた際に、松竹ヌーヴェルヴァーグと『真田風雲録』の関係などを喋っていた流れから、『天草四郎時貞』のDVD注文しましたよと言ったら、顔をしかめて「あんなモンDVDになったのか」と驚かれ、「金の無駄無駄」と言われたことからも、如何に『天草四郎時貞』の禍根があるのか伺えた。
 ただ、東映、特に東映京都ってのは、それから15年以上過ぎてから再び大島を『日本の黒幕』で召還したり(結果的には頓挫)、田中登を『神戸国際ギャング』で呼んで来たり(中川梨絵の証言によれば、『実録飛車角 狼どもの仁義』だったかで東映京都撮影所に行った際に、撮影所長だったかプロデューサーだったかに、『(秘)色情めす市場』を観るよう奨めたことが『神戸国際ギャング』実現への布石になったと言う。確かに『実録飛車角 狼どもの仁義』の公開は1974年10月で、『(秘)色情めす市場』は1974年9月公開なので、当時の撮影から公開までのスパンを考えても証言に食い違いはない)、『北陸代理戦争』で渡瀬恒彦が撮影中の事故で降板を余儀なくされた際に、代役に深作欣二が指名したのは若松孝二だったり(結果的には若松のスケジュールの関係で不可となり伊吹吾郎が出演。しかし、ハナシは若松まで行っていたのだから恐ろしい。安藤昇以来のリアルやくざの登場である。しかしこの時まで深作・若松には交流は無く、これを機に終生の友人関係が出来た)、その前年の同じく深作の『やくざの墓場 くちなしの花』では冒頭に警察署長で大島渚が登場したりと、無茶苦茶なと言うか、東宝石原慎太郎大林宣彦が撮る際にイザコザがあったことを思っても、東映京都は外部からの血を入れることには抵抗がないように思える。ま、そりゃいくら貸しスタジオとしてではあったが、黒澤明でも何でも来いな撮影所だけのことはある。
 『天草四郎時貞』は、『日本の夜と霧』上映打ち切り問題で松竹を退社した大島渚が『飼育』に次いで外部で撮った作品で、『飼育』が独立プロでの配給網を持たない会社での製作だったのと対照的に、こちらは東映京都製作の大川橋蔵主演のスター映画である。
 発売の報が出た際にも書いたので一部重複するが、大島が松竹を退社する前後には、東映京都や大映京都からの誘いがあり、それはこの時期の量産型スターシステムの中で、作家性の強い監督を招いて異色作の製作を行う流れに、大川橋蔵山本富士子も乗ろうとしたのだろうが、結果的には『天草四郎時貞』の作品への評価、興行共に惨敗し、その結果続いて大映京都で山本富士子主演作として計画されていた『尼と野武士』は既に田村孟の脚本も上がっていたが中止となり、以降『悦楽』までの3年間、大島は長編映画から離れ、TV、PR映画を活動の主とする。
 個人的な『天草四郎時貞』への思いを書けば、長らく観ることができなかった幻の作品だった。それはこの作品だけではなく、『愛と希望の街』ですら都心部に住んでいるなら兎も角、ビデオ化が随分遅れたせいで長らく見れなかったし、『悦楽』『無理心中日本の夏』も、『御法度』公開時までソフト化されなかったのだから、大島をめぐる状況は恵まれたものではなかった。『天草四郎時貞』も同時期にようやくビデオが出たが、大阪ではプラネットが、どこから取り寄せたんだか、出所不明のプリントで上映したことがあったので観に行った。ホンマに真っ暗やなと。内容以上に画面が。それはビデオでもより真っ暗なので体感できる。
 DVDの画質をざっとチェックしてみたところ、ビデオよりは遥かに明るくなっていて、観易い。が、これテレシネをDVD用にやり直す時に暗いからと明るくしてしまってるんではないかという不安もあって、やはり上映プリントと比較しなければと思う。
 と言うわけで、実は本日フィルムセンターで上映されていたのだが、手元にDVDが来た直後にフィルムセンターへ同じ映画を観に行く器量はないので行かなかったが、来月は東京では2本の大島作品が劇場で観ることが出来るので見ておくかとも思う。

■東京日仏学院
03月03日(土) 14時30/3月04日(日) 17時30 『マックス、モン・アムール』


■フィルムセンター
《シリーズ・日本の撮影監督(2)》
3/16(金)7:00pm 『天草四郎時貞

 『マックス、モン・アムール』は、国内ではビデオのみなので、必見である。『天草四郎時貞』も、まずかからないので観ておく方が良い。
 『天草四郎時貞』のDVD化を持って、大島渚の長編劇映画は、『マックス、モン・アムール』以外は全てDVD化されたことになる。しかし、まだまだ埋もれている作品は多く、PR映画の『小さな冒険旅行』『私はベレット』や短篇『ユンポギの日記』、『忘れられた皇軍』を筆頭にしたTVでの多くのドキュメンタリー、又、チャンネルNECOでリピートしたきりの連続ドラマ『アジアの曙』など、これらの作品を観る機会を多く作って貰いたい。


 28)レンタルでナニしてはいたが、千円だったので購入。一般に60年代の諸作に比べて衰退したと言われる若松孝二の70年代ピンク(殆どの作品が観られないので、自分の目で観るまでは全く信用していないが)の代表作。続編的ヴァリエーションの『残忍連続強漢魔』『密室連続暴行』もDVD化して欲しいが。
 ちなみに、『13人連続暴行魔』で脚本・主演を兼ねている掛川正幸は、若松の近刊『時効なし。』の編集に携わり、『17歳の風景』のスチールを担当し、最新作『実録・連合赤軍』の脚本を担当している。つまり、嘗て足立正生稿で準備されていた『榛名山』から、掛川正幸による『実録・連合赤軍』への変更は、60年代の若松作品を支えた足立と、70年代若松作品の代表作を支えた掛川との資質の違いと連赤との距離を見詰める上でも興味深く、来年2月の公開を期待して待ちたい。