『バウンス ko GALS』『雷魚』

ナインティーズ! 廃墟としての90年代
44)『バウンス ko GALS』 (シネマヴェーラ渋谷) ☆☆☆★★

1997年 日本 「バウンス ko GALS」製作委員会 カラー ビスタ 109分
監督/原田眞人     脚本/原田眞人    出演/佐藤仁美 佐藤康恵 岡元夕紀子 役所広司 桃井かおり 村上淳 矢沢心
バウンス ko GALS [DVD]
 10年前の年末に、原田眞人だからと気にはなりつつ、あんまりなタイトルと、既にその時点でズレていたコギャルの援交ネタに、映画が現実より余りにも遅いことにいらついてパスしようかと迷っていた時に、前日に観て来た先輩が、とても良かったから是非観ろというので、そのまま新世界のシネフェスタに向かったのが最終日だった。5,6人の観客と共に満ち足りた気分で劇場を後にしたが、翌春のおおさか映画祭に行ったら、佐藤仁美、佐藤康恵岡元夕紀子が並んでいたことをフト思い出したりしつつ、その後もビデオやDVDで本作を何度か再見しているが、最後に観たのはもう4年ほど前になると思う。
 今のところ原田眞人最後の佳作だと思っているので、10年ぶりに劇場で、しかも『雷魚』と並べるというシネマヴェーラの魅力的番組編成にも惹かれて観に行ったが、10年ぶりにスクリーンで再見する『バウンス ko GALS』は、時間の腐食に耐え切れない表層的描写が幾つか確認できて軽く失望したり、根幹の作劇の頑強さを再確認したりした。
 風俗的描写の風化は当然起こることなので、だから駄目だということは理不尽以外の何物でもないが、先日再見した『ラブ&ポップ』に比べて風俗描写の風化が激しいのは、この作品の方が根幹の3人の友情物語の背景に、コギャル語や当時の風俗描写をかなり入れ込んでいるからで、更に全共闘世代(ヤクザ・ブルセラショップ経営者)を対立軸に置くことで、原田眞人側からの主張を五月蝿いぐらい入れている。『ラブ&ポップ』も同じくオッサン側からの説教を垂れるのだが、あっさりしているか、当時まだ二十代だった浅野忠信からされるだけなので、そう鬱陶しくない。
 この作品のオッサン側からの主張が激しいのは初見時からマイナス点として引っ掛かっていたが、久々に再見すると、こんなに方々で露骨にやっていたかと正直思うくらいの鬱陶しさがあった。岡元夕紀子桃井かおりに議論吹っかけるところから、役所広司演じる全共闘ヤクザに佐藤仁美がやり合うバーのシーンでも、オッサン目線での女子高生の偶像化の最たるもので、本作を宮台真司が絶賛していたことも合わせて思い返したりした。基本的に自分は、科白でガキが「オトナは〜」とか、「私たちコドモは〜」などと不用意に使われるのが大嫌いなので、ここでの佐藤仁美は、役所と「インターナショナル」をカラオケで唄う描写に到るまで、オッサンによる女子高生の偶像化としか思えず、観ていて不快だった。但し、作劇上の対立軸として、ヤクザvs女子高生売春グループという構造はとても巧いし、本作のニューヨークへ向かう直前に渋谷へ寄り道した岡元夕紀子を中心に据え、佐藤康恵、佐藤仁美と絡ませて、役所広司らヤクザとの対立、援助交際、更には岡元を助けるスカウトマンの村上淳という並びを巧みに過不足なく描き出しているのは、やはり巧いと思う。
 それだけに、前述のここから、社会問題へのテーゼを語りますよという「」で括られた描写が浮いてしまうのが残念で、老人が慰安婦を語るのも公開時は、こういう問題を入れ込むのは実に良いことなので喜んでいたが、見直すと、カメラはグラグラ揺らすし、語られる内容が如何にも過ぎて浮いてしまい、もっと溶け込んだ形でやって欲しいと思わずにはいわれなかった。
 それでも終盤は、それまでの様々な出来事を経て朝の静けさと共に余韻たっぷりに情感を出して描き出しているので、感動的に観ていた。やはり本作は優れた佳作だと思えてしまう。
 その後、『バウンス2』をやりたいという原田眞人の言葉もあったが、今年、『魍魎の匣』に続いて撮影に入る『伝染歌 〜その歌を歌ったら、マジ、死ぬらしい〜(仮)』について原田眞人は、<ぼくの中では「バウンス」の十年後」というコンセプトになる。>と語っている。主演/AKB48や、タイトルの安っぽさも『バウンス ko GALS』を連想させて良い。個人的には、本作の3人をどこかで出してきて強引なリンクをするのではないかなど、既に期待している。
 

45)『雷魚』〔成人館公開題:黒い下着の女 雷魚〕 (シネマヴェーラ渋谷) ☆☆☆★★★

1997年 日本 国映・新東宝映画 カラー ビスタ 75分
監督/瀬々敬久     脚本/井土紀州 瀬々敬久    出演/佐倉萌 伊藤猛 鈴木卓爾 穂村柳明 のぎすみこ 外波山文明 佐野和宏 吉行由美
雷魚 [DVD]